第8回目の「みなとスポーツフォーラム~2019年ラグビーワールドカップに向けて~」はJRFUハイパフォーマンスマネージャー/7人制日本代表コーチ、岩渕 健輔氏をお招きし、1月27日 (木)、麻布区民センターにて行いました。
今回のフォーラムでは、「セブンズラグビーの魅力と今後」をテーマに、2016年のオリンピックから採用されるセブンズラグビー、15人制とは一味違う7人制ラグビーや7人制の大会の特徴や魅力、オリンピック出場に向けた日本の活動や世界の情勢、今後の強化プランをお話しいただきました。

岩渕健輔氏
岩渕健輔氏

【7人制ラグビー】
2009年、ドバイで開催されたワールドカップは141カ国で視聴され、2016年のリオデジャネイロ五輪から男女とも7人制ラグビーは正式種目となりました。岩渕氏は7人制ラグビーについて、ボールの取り合いが頻繁に起こり、ボールが激しく動くのが特徴であると述べられました。また、15人制との違いについてフィジーやニュージーランドの監督の話も交え、少ない人数で同じグラウンドを使用する7人制ラグビーでは選手への負担も多く、試合前に一定の準備期間が必要であるとも。プレーではスピードとアジリティ(俊敏さ)、ハンドリンングスキルなどが鍵となりエキサイティングで流れるようなプレーが求められると述べられました。

【各国と日本の強化状況】
20年前と比較しても、大会の数やスペシャリストの選手も増え、試合においてはブレイクダウンの数が増えたことを述べられました。ここ数年、ニュージーランドは15人制の代表には選ばれない選手を8カ月間かけて強化し、サモアは国内で協会所有のジムやグラウンドで強化を図っている。アメリカは国内のオリンピック委員会と連携し、医科学的分析も用いて強化している。ケニアやロシアにおいても7人制ラグビーを強化しており、中国は他競技からの転向により強化が図られていると指摘されました。
そのような中で、男子日本代表は15人制との調整ができておらず、メンバーは試合前に3回程度しか7人制ラグビーの練習できない状況であるという課題を述べ、また、7人制ラグビーにおけるプレーを分析した結果、セットプレーの安定、ディフェンス、ボールの確保が有利に試合を進めるために重要であると述べられました。

【今後の強化プラン】
今後の目標は、2013年のセブンズW杯ベスト8、男女ともに、2016年のリオデジャネイロ五輪でメダル獲得と掲げた上で、以下のように強化プランを述べられました。

  1. 7人制選手としての強化
    7人制の試合では一日に3試合が行われ、ハーフタイムの時間も短い。フィットネスやスピートが求められる。また海外試合においては食事も満足できるものがあるとは限らない。どんな環境でもコンディションを整えられえる、環境に対応できる力や精神的な強さも求められる。
  2. 国内大会の拡充
    国体の競技として7人制ラグビーが採用されるよう、働きかけをしている。国内普及が推進されることにより競技力向上に繋がる。
  3. 選手発掘と育成
    セブンズアカデミーやトライアウトを行い世界で戦える有望なプレーヤーを発掘している。アカデミーの対象は中学生~高校生でナショナルトレーニングセンター(NTC)や国立スポーツ科学センター(JISS)を利用し強化を行っている。地方自治体でも選手発掘が盛んな地域がある。例えば福岡では小学5年生以上を対象としてタレント発掘を行っている。参加者がどの競技に向いているかまで分析し、早くからの強化を進めている。女子7人制日本代表においては今後、カザフスタンや中国、タイがライバル国となってくる。選手を比較すると日本の選手は筋肉の量が少ない。他国の選手は重くて速い現状がある。また、選手はセブンズアカデミーにおいてフィットネスやスキル面だけではなく、コミュニケーションスキルやメディア対応、栄養についても学びスポーツ選手としての総合的な強化を図っている。

質疑応答
ハイパフォーマンスマネージャーとはどのようなことを行っているのですか。
→「日本語訳すると競技力向上という意味です。日本の競技力を上げるための担当ということです。主に15歳(中学3年)~上のカテゴリーの強化の方法、スタッフの派遣、大会開催の調整などを行っています」


東京セブンズで注目している選手はいますか。(注/東日本大震災の影響で、その後中止に)

→「男子では、昨年のアジア大会での優勝メンバーである和田選手(トヨタ)はスピードやディフェンスなどチームに欠かせない選手ですね。しかし今年は東京セブンズだけではなく15人制のワールドカップも開催されます。そのため15人制の代表に選ばれる可能性もあるとは思います。女子では日本代表キャプテンの鈴木選手など若い選手の力に注目しています」


選手のタレント発掘のために、どういった活動をされていますか。

→「日本の場合はカテゴリーが高校、大学、トップリーグと枠があります。このカテゴリーの枠をはずし、優秀な選手は上のカテゴリーでプレーしてもらいたいと思っています。2月の高校代表合宿にはU20やジャパンA、日本代表、7人制日本代表のスタッフ陣も観に行きます」


カザフスタン(女子)も強豪であるとのことですが、ラグビー人口が多いのですか。なぜ強いのでしょうか。

→「多くはありません。ただ、ほとんどの選手が軍隊出身でラグビーを半ば仕事として強化が進められているのです。男子の方の強化も進められています」


女子7人制代表は他競技からの転向が多いのですか。

→「今現在、代表に入っているのはバレーボールから転向した藤崎選手です。彼女はバレーボールの国内トップのリーグの一つ下のカテゴリーでベストスパイク賞も受賞しています。アカデミーには陸上(投てき、短距離)、ハンドボール、サッカーの経験者も参加しています」


香港セブンズがあれほど盛り上がる理由を教えてください。

→「難しいところで、世界で7人制の大会は8大会行われていますが、あれほど盛り上がる大会は香港セブンズだけです。香港では世界的に7人制がそれほど行われていなかった頃から力を入れて、スポンサーをつけるなどかなりの年月をかけています。演出も他大会と比べると異質な部分もあると思います」


7人制の強化においては日本の強さであるスピードを活かすことに繋がり、弱さであるハンドリングの改善に繋がると思いますが、特にユース世代の試合を増やしたり、リーグを設けたりなどラグビー全体の強化についてはいかがお考えですか。

→「7人制は15人制と完全に違うのではなく、通じるところがあります。リーグを作りたいとは思いますが、高校生は年間を通して大きな大会が続くのでスケジューリングの調整が問題です。一つ大会をつくることに関しても、男子はまだ時間がかかるかもしれませんが女子の大会創設は進めていきたいです」


15人制との兼ね合いは?

→「7人制はオリンピックの競技ですし、15人制はワールドカップがありますので両方強化してゆく必要があります。現状は15人制が中心で、7人制へ選手を召集したくてもスケジュールや選手の派遣に苦労していることは事実です。最終的には7人制に特化した選手を常に確保できるようにしたいですね」


15人制から7人制へ調整するのにどれくらい時間がかかりますか。

→「フィジーやニュージーランドの監督もいっているのですが8週間は必要です。初めの2,3週間でフィットネスに慣れ、残りの時間で戦術などを完成させます」


7人制日本代表をセブンスワールドシリーズにフル出場できるようにするためにどのようにお考えですか。

「香港セブンズ以外の大会では16のチームが出場できるのですが、そのうち12チームは前年シリーズでの上位国で固定されています。日本はこれまで3大会しか出場できていないのでポイントを上げるのが厳しいです。しかし単にポイント数で出場が決まるというわけではなくIRB独自の決め方が存在するので、IRBへの働きかけや現場での強化を図る必要があります」