ラグビーワールドカップを作りあげる組織委員会
動き出した日本大会の計画と期待

公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と日本ラグビーフットボール協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップ(W杯)に向けて」の第53回が5月21日、東京都・港区のみなとパーク芝浦内「男女平等参画センター(リーブラ)ホール」で開催された。
今回はラグビーワールドカップ2019組織委員会の本田祐嗣氏を招き、ラグビージャーナリストの村上晃一氏の進行のもと、「RWC2019への道すじ」をテーマに講演が行われた。

■メンバーズクラブにはチケット先行販売も

  本田祐嗣氏

本田祐嗣氏

  本田祐嗣氏

第1部では、19年に開催されるW杯日本大会の概要と組織委員会について本田氏が解説。スライドを使いながら、参加者へ説明が行われた。

まずはここで、現時点で発表されているラグビーワールドカップ2019の概要をおさらいしたい。19年9月に開幕する本大会は、今年の10月に行われるイングランド大会のベスト12チームと世界各国で行われる予選を勝ち抜いた8チームの計20カ国で争われる。5チームずつの4プールに分かれて予選リーグが行われ、決勝トーナメントは各プールを勝ち抜いた2チームずつの計8チームで優勝が争われる。「具体的な日時はまだ未定」(本田氏)とのことだが、6-7週間の間に試合日程が組まれる予定のようだ。試合は下記12都市の会場で開催されることが3月に決定している。

・札幌市:札幌ドーム(41,410人収容)
・岩手県・釜石市:釜石鵜住居復興スタジアム ※新設のため仮称(16,187人収容)
・埼玉県・熊谷市:熊谷ラグビー場(24,000人収容)
・東京都:新国立競技場(約80,000人収容) ※19年完成
・神奈川県・横浜市:横浜国際総合競技場(72,327人収容)
・静岡県:小笠山総合運動公園エコパスタジアム(50,889人収容)
・愛知県・豊田市:豊田スタジアム(45,000人収容)
・大阪府・東大阪市:花園ラグビー場(30,000人収容)
・神戸市:御崎公園球技場(30,132人収容)
・福岡市:東平尾公園博多の森球技場(22,563人収容)
・熊本県・熊本市:熊本県民総合運動公園陸上競技場(32,000人収容)
・大分県:大分スポーツ公園総合競技場(40,000人収容)

なお、開催12都市の中で、新国立競技場で開幕戦と決勝戦が行われることも併せて決定している。今後は「ラグビーワールドカップ2015のスケジュールを当てはめると、16年の年末に予選の組み合わせ抽選会が行われ、17年の春に試合日程の発表、秋にキックオフタイムが決定される」(本田氏)とのこと。その後、順次キャンプ地決定やチケット一般販売開始と続いていく予定だ。「試合日程と同様にラグビーワールドカップ2015のタイミングを仮定するとチケットの一般販売は18年だが、オリンピック・パラリンピックのチケット販売時期も注視しながら」(本田氏)検討していく。また、日本ラグビー協会公式ファンクラブの「JRFUメンバーズクラブ」会員には「チケットの先行販売も検討したい」と本田氏は明らかにした。

■日本大会の全責任を負う組織委員会

このような日本での大会運営の全てを取り仕切っていくのが、本田氏が所属しているラグビーW杯2019組織委員会。09年にラグビーワールドカップ2019の日本開催が決定した後、日本ラグビーフットボール協会(JRFU)とは別に大会の準備・運営を担う機関として設立された法人で、現在は「約36-7人ほどが職務にあたっている」(本田氏)という。世界のラグビーを統括するワールドラグビーよりラグビーW杯の運営管理を委託されているラグビーワールドカップリミテッドとJRFUの間で結ばれたラグビーワールドカップ2019の『開催協会合意書』を元に、公益財団法人としてさまざまな準備を行っている機関だ。

さまざまな準備を行う中で、計画推進を担当する本田氏の業務は具体的にどういったものか。本田氏は自身の業務内容を下記の3点で言い表した。

(1)ラグビーワールドカップ2019の開催準備に必要な計画業務をマスタースケジュールに沿って推進する
(2)チケッティングやテクノロジーなど種々の分野の計画を互いにつなげる
(3)建設工事に当てはめると工程の作成と管理の担当

「それぞれの分野の方が手を取り合い、お互い連携して進めていくための場を用意し、円滑な連携をサポートするのが私のお仕事です。大きな建設工事の現場にはリーダーとして工事監理者がいて、そのもとで設計、資材調達、工事、経理などの責任者がいます。僕は工程のお守りをする立場です。ラグビーワールドカップでやっていることを広く薄く見ています」

■2019年以降への遺産を作りたい

前述の通り今年の9月から10月にかけてはイングランドでW杯が開催される。しかし、イングランド大会が終われば、世界中のラグビーファンの目は日本に向けられることとなる。これまでのW杯とはうって変わり、ラグビー伝統国以外では初めて開催される大会であり、アジア初の開催でもあるのが日本大会の特徴といえよう。また、セブンズ(7人制ラグビー)が来年のリオデジャネイロ五輪で採用されることが決定しており、世界的にラグビーの注目度が高まっている中で迎える、ラグビー界にとっても非常に重要な位置づけとなる大会でもある。

しかし、本田氏は本大会のみならず、『大会後』も見据えながら活動をすることが重要だと語る。本大会が大盛況に終わっても、その後の世界につながるような熱やノウハウ、遺産となる何かが残らなくては、大会の真の価値を見出すことができないと言うのだ。

「19年大会が終わった後もラグビーはいろいろと続くんですけれど、こういう大きな大会って終わる前から、自分の担当職務を終えたスタッフがどんどん去っていくんです。われわれ日本の場合はまだ分からないですけれど、例えばイングランドの組織委員会の方はもう退社日を知っています。人が散っていったらが残らない資産もすごく多いので、『何を残していこうか』というのは、私たちの中ですごく大きな話題なんです」

19年大会が終わった翌年には東京五輪が開催され、それが終わると日本中のスポーツを取り巻く環境はどうなっていくのか──。ラグビーに限らず日本の全スポーツに関わる関係者のテーマでもある。

「ラグビーワールドカップを経て面白いこと、これまでになかったことが生まれてほしいですよね。「ラグビーワールドカップの時に知り合って国際結婚した人がけっこういるらしい!」みたいなネタが情報番組でとりあげられるとか。あと、ラグビーだけじゃなく、サッカーでも陸上でもいいですけれど、いろいろなスポーツをクラウドファンディングで支えてくれる人たちがいて、ラグビーを支援してくれた人たちには記念のラグビーボールが配られるとか。みなさんと一緒に、ラグビーワールドカップが終わった後の世界を作っていけたらいいなと思っています」(本田氏)

■地方でも日本代表の試合を開催

休憩を挟んで行われた第2部では、第1部の講演に関する本田氏との質疑応答が行われ、組織委員会について活発な議論となった。以下は質疑応答の要旨。

──日本には02年のサッカーW杯の経験があると思いますが。

「コンスタントに(サッカー界と)交流があるわけではないですけれど、コンタクトポイントがあってつながっています。今までの例でいくと、開催都市を選定するにあたって「開催都市になったらこういうものを備えていただきたい」という情報を一つにまとめたことがあります。そのとき、『スタジアムに求める条件』などを考えていく中で、どういうような情報の出し方をしていったらいいのかということも含めて、日本サッカー協会からはいろいろなアドバイスをいただいたことがあります。今でも何かおうかがいしたいことがあれば、コンタクトをとって適切な人を紹介していただいてお話をする。そういう状況にはあります」

──19年の日本開催が決まったのはとても前ですが、これまでは何をされていたのですか?

「我慢していました。大々的に活動はできないんです。やりたくなるのはやりたくなるんですけれど、我慢していました。いかに溜めてドンといくか。
今はラグビーワールドカップといえば15年ですから、そういう面での制約もありますし。あまり早くやっても仕方ないというのもあります」

──圧倒的に広告宣伝不足だと思いますが、予算がないのでしょうか?

「本当にその通りで、チケットセールスがほとんどの収入源です。チケットの売り上げが入ってくる時期というのは18年-19年にかけてです。なので今はできる範囲のことをやるしかないですし、今やりたいと思ったらかなり工夫をしてやっていかないとならない状況にあります」

──ファンの声を生かす方策は考えていますか?

「それはもういっぱい考えています。これからSNSなどでの露出も活発になっていくと思いますので、双方向の声を聞いていきたいというのもあります。マーケティング部はいろいろと考えています」

──日本代表の試合を全国に散らすという案もあるのですか?

「今まで私たちが社内で考えてきた方針と照らすと、東京のみで日本戦を開催することはないです。五輪との大きな違いは開催地が東京だけではないことですので、東京以外のところでも日本代表の試合を行う、というのが私の予想です」

■1000円代のチケットも!?

──チケット販売しか日本の収入がないと言っていたが、日本独自のローカルスポンサーをつけることはできないのか? それを日本の組織委員会の収入にすることはできないのか?

「現行のラグビーワールドカップのビジネスモデル、言葉を変えると、われわれが19年大会の開催に対して結んでいる契約では、われわれに全く商業権はないです。スポンサー料をもらって、私たちの収入にすることはできないです。
例えば、スタジアムは全部クリーンにしないといけないです。クリーンというのはネーミングライツなどを含めて(常設の広告看板なども)外したりマスクしないといけないということです」

──ボランティアの募集はいつ頃から開始しますか?

「これも確たることは言えませんが、18年あたりだと思います。実際にボランティアの方にお仕事をしてもらう時期は大会中なので、あまり前からは募集しません。
余談ですけれど、スコットランドからメールが来たりします。ボランティアに対する思いが強い方がいらっしゃって、こういう大会には欠かせないですよね」

──ボランティアだけではなく、通訳など有料の方もいるのか?

「そうですね。例えばチームに付くリエゾンとかは、組織委員会の方針にもよりますが、少しプロフェッショナル志向でいくとなると、有償で協力してもらいます」

──その募集も開催直前?

「いいえ。例えば、予選の組合せ抽選は仮に15年大会のスケジュールを仮定すると、(日本大会は)16年の暮れです。17年の春に試合日程の発表をすると、各チームの試合会場が分かり、日本にチームが来て試合する場所や練習する場所を見て回ります。そういう時期になってくるとリエゾンは必要です。
19年大会に出場する20チームのうち12チームは、今年の秋の大会で決まります。そのチームは試合日程が決まればすぐに見に来ると思います」

──チケットを一人でたくさん買うことは可能ですか?

「可能だと思います。私もニュージーランド大会で一人で複数枚買いましたよ」

──1試合に対する制限はあるかもしれないけれど、複数試合買うことはいい?

「そうですね」

──チケットの値段はどれぐらいのイメージですか?

「まだわからないですけれど。イングランド大会の決勝戦の一番良い席は10万円くらいです。一番良い席が1万円台の試合もあると思います。カテゴリー(座席のランク)を落としていけば2000円代のチケットも売り出されていました。子ども向けの1000円台のチケットも用意されていました」

あなたにとってラグビーとは?

「『ラグビーに人生を作ってもらった』と思います。自分がやっていたときは「辞めたいな」と思ったこともありますが、今になると「いろいろな節目にラグビーが関係してきたな」と思います。この組織委員会や19年のラグビーワールドカップもそうです。ラグビーを介してもう少しお友達を増やしていきたいですね」