強固なセットピース軸にフィジーを追いつめる
5点差での惜敗も選手たちには大きな手応え
カナダ東部夏時間の29日(日本時間30日)、トロントでワールドラグビー パシフィック・ネーションズカップ(PNC)、日本—フィジー戦が行われ、日本は前半16分までにFB五郎丸歩の3PGで9−0とリードしたものの、同20〜27分の7分間にフィジーに3連続トライを許したのが響いて、22—27で逆転負け。
セットプレーで優位に立ち、最後も相手ゴール前のスクラムでペナルティを奪うなど、2011年以来勝利を収めていない相手であるフィジーを追いつめたものの、あと一歩及ばなかった。
日本のPNC最終戦(3位決定戦)は当地時間の8月3日、場所を西海岸のバンクーバー郊外バーナビーに移して行われる。
「PNCでのベストチーム。大きく、身体能力が高く、セットピースも良くなっている」。
エディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチも実力を高く評価するフィジーとの対戦。
「ファーストコンタクトのところが大事になる」(LO伊藤鐘史)という意識で臨んだ日本は、ほぼ完璧な試合の入りを見せた。
キックオフから攻め込んだ日本はいきなりCTB田村優が狙ったDGこそ外れたものの、直後にFB五郎丸のPGで先制(前半2分)。
この先制点につながる基点がファーストスクラムだったように、「最初のスクラムでどっちが強いか弱いか判断する傾向があるフランス人レフリーだったので、ワールドカップも意識して1本目からしっかり組んでいこうと。いいイメージを与えられた。(レフリーを)味方につけることができていた」(PR稲垣啓太)というスクラム、そしてラインアウトは終始安定。
「自分たちのボールも出せていたし、悪くなかった」(FLリーチ マイケルキャプテン)というブレイクダウンでも身体能力が高く腕力のあるフィジーに対して、しっかり戦えた。
10分、16分と五郎丸がPGを加えて早くも9−0。
ところが、この後「9点差まで行ったところで、ダメ押しをしないといけなかったのに安心してしまった。集中力の問題。その辺が甘かった」(リーチキャプテン)というゲームコントロールの問題から主導権を失ってしまう。
18分にPGを返されて9−3となった後、やや精度を欠いたキックからフィジーにカウンターアタックを許し、LOテビタ・ザブンバティに縦に走り切られたのを皮切りに、24分、27分と3連続トライを奪われて、9—27と大きくリードを許し、そのままハーフタイムとなった。
「キックが悪かった。相手にチャンスを与えてしまった。スクラムもラインアウトもラックもドミネートしていたのに判断に問題があった」(エディー・ジョーンズヘッドコーチ)
セットピースは安定し、ブレイクダウンでのボール維持と供給もしっかりしていたにもかかわらず、判断ミスやキック、タックルの精度の低さを突かれての3連続被トライ。
フィジー得意のアンストラクチャーな状況をつくらないように試合を進めていくゲームプランの遂行力という意味では、3トライを喫した時間帯は確かに破綻していたと言っていいだろう。
「ミスをなくし、コミュニケーションとスキルを上げる。修正点はそんなにない」(SH田中)
それでも、セットピースでの優勢を維持し続けた日本は、後半7分にWTB山田章仁、27分にNO8ヘンドリック・ツイがいずれも敵陣でのスクラムからトライを奪い、この2本のゴールは外したものの、FB五郎丸が12分にPGを加えて、7点差に追い上げて終盤へ。
後半36分にモールを崩し、同39分にはスクラムでのコラプシングを続けて、フィジーFWに2人の退場者が出るなど、日本がいつ同点トライを奪っておかしくない状況が続く。
ペナルティを続けながら、何とか日本の猛攻を凌いでいたフィジーに2人目のシンビンが出て迎えたロスタイム。
日本はフィジーゴール前でのPKチャンスに当然のごとくスクラムを選択。
ここまでのスクラムでの攻防から言っても、日本がスクラムで押し切る、あるいはフィジーの反則でペナルティトライという流れも当然予想できたが、結末は意外な方向へ。
一瞬、組むタイミングが合わなかったに見えたセットの後、人数の少ないフィジーFWが逆に日本にプレッシャーをかけるかたちになってスクラムは安定を失い、たまらずNO8ツイがボールを持ち出す。さらに右、左と方向を変えながらもFWのピック&ゴーやダイレクトプレーでフィジーゴールに迫るが、最後に最も左タッチライン際に近づいたところでサポートが遅れフィジーディフェンスに絡まれて、ノットリリースザボールの反則。
あと一歩のところで、4年ぶりのフィジー戦勝利は逃げて行った。
「勝てた試合だった。ここ最近では一番酷い試合。スクラムもラインアウトもラックもドミネートしていたのに勝てなかった。判断に問題があった。ワールドカップのスタンダードではない。バックスのランニング、トライを取り切るところを上げないといけない」
ジョーンズHCはそんなふうに辛口で試合を振り返ったが、その一方でフィジーを追いつめた選手たちは大きな手応えを感じていたのも事実だ。
「(最後のスクラムは)向こうが完全に横から入ってきて、確実にこっち(のPKになる)かなと思ったんですけど、笛は吹かれなかった。もちろん、自信持って、あのスクラム選択はしたし、いい判断だったと思う。取りきれなかったのは力不足だけど、それまでも有利だったし、コミュニケーションも取れていたので、相手のスクラムにも対応できていた。まだ完全には合わせ切れていないので、あうんの呼吸というか。その辺はまだ時間の猶予があるかなという感じではいます。パシフィック・ネーションズで一番強いのがフィジーと言われている中で、あれだけスクラムで制圧できていたし、点数も最後こっちが上回るんじゃないかというところまでいけた。こちらのストラクチャーの方にどんどん引き込んでいた。ポジティブになっていいと思います」(HO堀江翔太)
「前半9−0まで離した集中力はいいものがあった。こっちのミスが出たが、ミスをなくしていくようにすればいい。いったん十何点差まで広げられたのをまた最後の最後に勝てるポジションまで持ってこられたのも、全員のしっかりした集中力とストラクチャーがあって、セットピースからのアタックにもみんな自信を持っているから。立ち返るところがあるのはいまのジャパンのいいところだと受けとっています」(LO大野均)
「(久しぶりに日本代表でプレーして)ひとりひとりやることは明確になっている感じはしました。スクラムは日本の強み。あとひとつ我慢するところ。スクラムで取れなかった時のオプションをしっかり明確にできるようにしていけばいい。小さいミスをなくして、コミュニケーションとスキルを上げる。それができれば、修正点はそんなにない」(SH田中)
確かに、FLリーチキャプテン、NO8ツイ、SH田中の3人が2度のチーム練習だけで臨んだフィジー戦で互角以上の戦いを見せたことは、日本のベースが確実に上がっていることの証拠だと言っていいだろう。
その意味では間違いなく収穫の多い試合であったことは確かだ。
その一方で、「ワールドカップ前で求められているのは結果。そこだけ見たら今日はダメだった」(PR稲垣)という自覚も選手たちの中にはある。
PNC最終戦の対トンガ戦は、内容だけではなく結果も求められる試合となる。
text&photo by Kenji Demura