ヨーロッパ遠征中の日本代表は21日午後7時(日本時間22日午前3時)から、フランス南西部のビアリッツで遠征第3戦となるバスク選抜戦を迎える。相手は昨年のワールドカップのフランス代表組も含む強力布陣だ。テストマッチではないため「JAPAN XV」として戦う日本側は、ゲームキャプテンを務めるフランカーのマイケル・リーチとプロップ山下裕史以外は今遠征で初先発の選手たち。2015年ワールドカップに向けた若手の成長を考える上でも重要な一戦となる。

(text by Kenji Demura)

 1990年に遠征してきたニュージーランド代表オールブラックスを破った歴史を誇るバスク選抜は、今回も強力チームをJAPAN XV戦のために編成してきた。その中でも象徴的と言っていい元フランス代表選手が、SHディミトリ・ヤシュビリとLOジェローム・ティヨンの二人。共に昨年のワールドカップメンバーで、その後は代表から離れているものの、24日にサモア代表と対戦するフランス代表に故障者などが相次げば、フィリップ・サンタンドレ監督率いる"レ・ブルー"に招集されても不思議のない実力を持つ選手たちだ。キッカーも務めるヤシュビリは、ワールドカップで日本と対戦した時に計14得点を挙げている。覚えている日本のファンも少なくないはずだ。

 「バスク選抜というのは、この地域のラグビーファンにとってドリームチームなんだ」。こう語ったのは、試合会場となるアギレラスタジアムを本拠とするビアリッツ・オランピックのセルジュ・ミヤスFWコーチ。ヤシュビリとティヨンが所属するのがビアリッツ・オランピックであり、今回のバスク選抜には計11人が選ばれている。一方、ビアリッツの絶対的なライバルが隣町バイヨンヌのアビロン・バイヨネで、こちらからも10人がバスク選抜入り。ともに「トップ14」と呼ばれるフランス1部リーグの強豪で、フランスの中でもラグビーが盛んな地域のひとつであるバスクのライバル同士として火花を散らしている両クラブが、21日は同じジャージーを着てJAPAN XVに対峙することになる。ちなみに、90年にオールブラックスを倒した際には、今遠征で日本代表のスポットコーチを務めている元フランス代表HOのマルク・ダルマゾ氏もバスク選抜の一員に名を連ねていた。

 そんな本物の強豪チームであるバスク選抜と対戦するJAPAN XVは、ヨーロッパでの初のテストマッチ連勝という快挙を成し遂げたグルジア代表戦から中3日の試合。長時間の移動という悪条件もあり、ルーマニア代表とグルジア代表に連勝したメンバーから大幅に顔ぶれを変えたメンバー構成で臨む。「バスク選抜戦は、次のワールドカップでプレーする可能性を、どの選手がどれだけ持っているのか見極めることが一つの目的だ。ここまで先発しなかった選手も本当にいいトレーニングを積んでいるので、彼らがインターナショナルレベルでどれだけのプレーができるのか見たいと思っている」。エディー・ジョーンズヘッドコーチは、15人中13人が今遠征で初先発となる布陣の狙いを説明した。

 今回の遠征の最重要課題であるスクラムの強化の面で大きな鍵を握るFW第1列には、タイトヘッド(右)PRの山下以外はルースヘッド(左)PR浅原拓真とHO太田春樹というノンキャップ組が顔を揃えた。「緊張はしていますが、楽しみ」(浅原)「緊張はしないです。楽しみですね」(太田)。JAPAN XVとしてではあるが、初のテストマッチレベルの試合を前に、緊張の有無は別として本場欧州勢とのスクラムを楽しみたいと語る2人。ジョーンズヘッドコーチは「スクラムに関しては、もっと強く、テクニックを使えるようにならないといけない。スマートにプレーすることも大切だ。優れた選手になる過程にある彼ら若い選手には、今後も成長できるというポテンシャルを示してほしい」と期待する。

 一方、第2列には、今春から共に7試合のテストマッチに出場してきた伊藤鐘史と真壁伸弥という実績組が並んだ。ジョーンズヘッドコーチは2人に「まずはいいプレーをしてほしい」と話すのに加えて、「次を読みながらのプレーもできるはず」と、試合の流れを読んで若いチームの指針となるような存在となることも求めている。ナンバー8のホラニ龍コリニアシとともにFW最年長の伊藤が「ジャパンらしいいい試合が2試合続いたので、せっかくの雰囲気が崩れないようにしたい」と話す通り、本人たちにもその自覚はある。

 バックロー(FW第3列)はそのホラニを真ん中に、マイケル・ブロードハーストとゲームキャプテンのリーチの3人が並んだ。リーチをゲームキャプテンに指名した理由を、ジョーンズヘッドコーチは「若いチームをリードするにふさわしい存在。コミュニケーション能力も高い」と説明する。08年のU20世界選手権でU20日本代表の主将を務めた経験を持つリーチは「すごく嬉しい。日本の強さを世界に見せたい」と意気込んでいる。

 BKに目を移すと、ハーフ団は昨年のワールドカップやその後のフランス留学と多くの国際経験を積んできたSH日和佐篤と、キャップ数は3ながらジョーンズヘッドコーチから「今季のトップリーグでNECのBKをリードするスタイルは素晴らしい」と高い評価を受けるSO田村優が組む。第一列同様、ふたりとも「楽しんでプレーしたい」と語るなど、まずは自分らしくプレーすることを意識している。

 CTBとWTBは、国際舞台で経験を積んできたプレーヤーであるCTB有賀剛、WTB今村雄太と、ノンキャップのCTB林泰基、WTB山田章仁の組み合わせ。ノンキャップ組の二人は「自分がファーストタッチすることが多くなると思うので、必ずゲインを切ってチームを勢いづけたい」(林)、「ハードにプレーするという日本代表の合宿で学んだことを生かして、2トライは取りたい」(山田)と抱負を語った。

 そして、最後尾のFBには、最年長のベテラン田邉淳が入る。今回のバスク選抜戦の意義を一番理解している先発メンバーだろう。「最高の相手。テストマッチと同等かそれ以上の価値がある試合だと思っている。アタックするというマインドセット、しっかりした準備をしないと絶対勝てないというマインドセット、両方ともしっかりして臨む」

 「勝つべき試合であることに変わりない」。ジョーンズヘッドコーチはチーム全体に、日本代表はどんな相手にも勝つという意識を根付かせてきた。ノンキャップの若手から百戦錬磨のベテラン組まで、試合に飢えていた選手たちがフランスの強者相手にどんなチャレンジができるのかを試される、テストマッチ級の試合となる。