17日、「IRBパシフィック・ネーションズカップ(PNC)2012」第3節、日本―サモア戦が東京・秩父宮ラグビー場で行われる。20―24で惜敗したトンガ戦の先発メンバーからは3人を入れ替え(FL望月雄太、SO立川理道、CTBニコラス ライアンはポジション変更)。前週トンガのパワフルな突破に打ち破られたエリアを修正してPNCでの有終の美を飾る。
バックロー、フロントスリーのエリアを進歩させてPNC有終の美を
6試合指令塔を務めてきた小野に替わってSOとして先発する立川。攻守のキーマンとなる(右はLO大野)
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 4月2日に集合して以来、正味7週間の時間をひとつのチームとして過ごしてきたエディー・ジョーンズヘッドコーチ率いる日本代表。
 アジア5カ国対抗での4試合、そしてPNCでの2試合の計6試合を戦い終えて、当然ながら何人かの選手は疲労が蓄積しているのは疑いのないところ。トンガ戦からのメンバー変更は、そうしたコンディション面を考慮したものでもある。

 例えば、新生ジャパンになってからの6試合連続で指令塔として先発出場を果たしてきたSO小野晃征に関して、ジョーンズHCは「いいプレーを見せているが、現時点では疲れが溜まっている状態。最後の30分間をがんばってもらう」との理由からベンチスタートとすることを決め、先発SOには立川理道をCTBから回す。

 その一方で、今回のメンバー変更は当然ながらトンガ戦で出た課題を解決するためという側面もある。
「いま、日本と対戦する相手がどこを攻めてくるか、明らかになっている。12番の内側をアタックしてくる。バックローと9、10、12がどうディフェンスしていくかが試されていて、このエリアの進歩が不可欠」
 ジョーンズHCが説明するように、FW第3列と前述した小野、立川も含めたフロントスリーがメンバー選考に手が加えられた主な領域である。
 FL陣は、「まだフィットネスでトップにはなっていない」(ジョーンズHC)ものの、豊富なテストマッチ経験とフィジカルプレゼンス双方で頼りになる存在である菊谷崇・前主将が6番で初先発。オープンサイド(7番)には、5試合連続で6番として起用されてきた望月雄太が回る。
 トンガ戦で初先発ながらボールを前に運ぶ能力で非凡なところを見せたNO8ヘンドリック・ツイも合わせたバックロー3人の平均身長/体重で言うなら、PNC3試合の中で最も大きく、重い組み合わせとなる。

トンガ戦でも攻守に存在感を示したCTBニコラスはアウトサイドから慣れ親しんだインサイドへ
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「まずはDF」と、2年前のアウェーでの対サモア戦勝利などPNCを知り尽くしている菊谷前主将が指摘するとおり、このエリアでしっかりサモアのアタックを止められるかがキーになる。
 6番から7番に移ることで、よりDF面で多くの領域を受け持つことになる望月に関しては、ジョーンズHCは以下のようにそのファイティングスピリッツを高く評価する。
「フィジカル面で不利なところを補う、ファイティングできる選手。その点に関しては一番かもしれない」
 望月本人も「(ファイティグすることを厭わないという意味では)元々、そういうプレーは好きだし、大いに戦いたい」と、フィジカル面で上回る相手に一歩も引かないことを宣言。ポジションが7番に変わることもあり、「特に、DFと、ブレイクダウンで一歩でも相手よりも早く到達するというところを意識して、自分たちのリズムが出るような球出しができたらいい」と抱負を語っていた。

セットプレーでも世界トップ10入りへの試金石に

 ここまで2戦2勝で首位に立ち、日本を破れば"完全優勝"で2年ぶり2度目のPNCタイトルをものにすることになるサモア。
 南太平洋の3カ国の中でも最も大きく、重たい選手が揃う難敵が日本にどう立ち向かってくるのか。ジョーンズHCの分析はこうだ。
「FWがボール持って突破して、止められたところでまたFWで行く。それからワイドに振って1対1のシチュエーションをつくっていって、走力のある選手が仕留めにかかる」

 日本としては、前述のとおり、FW陣とともにBKのフロントスリーのところでサモアのパワフルなアタックを止められるかもポイントになる。
 10番=立川理道、12番=ニコラス ライアン、13番=仙波智裕と、アタック面だけではなくDFでも強さを発揮できるメンバーがフロントスリーに並んだのも当然かもしれない。
 ジョーンズHCが指令塔のポジションに上げる立川に期待する点も、「まずはタックルを決めること」と、一番は守りでの貢献を強調。
 もちろん、立川自身にもその自覚は十分だ。
「スタンド(オフ)に入ると、相手のNO8が来たり、12番のストレートなランだったり、12番の時とは違った相手のアタックにも対応しないといけない部分も出てくる。まずはしっかり体を当てていきたい」

戦える選手として高い評価を受けるFL望月。サモア戦ではディフェンスでの役割も多くなる7番でプレーする
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「日本が世界のトップ10入りするためにはアタッキングラグビーに磨きをかけていく必要がある」(ジョーンズHC)
 4月のスタート以来、アタックし続ける"ジャパンウェイ"が新生ジャパンのスタイルとして強調される中、PNC最終戦となるサモア戦への準備期間で目立ったのは守りへの言及。ただし、それは元々の方向性を軌道修正したということでは決してない。
「まずは、内側のエリアでしっかり止めてゲインラインを越えさせないようにしていけば、相手がワイドに振った時にはこちらがタックルを決めて、ターンオーバーするチャンスが生まれることになる」
 ジョーンズHCが狙いを説明するとおり、当然ながら、あくまでも自分たちのアタックの時間を増やしていくためのDFなのだ。

 前述のバックロー、フロントスリー以外では、右PRの先発が山下裕史から畠山健介に戻る。
 この変更に関して、薫田真広アシスタントコーチは「日本がやりたいラグビーということを考えた時、ハタケ(畠山)を先発にした方がバランスとテンポがよくなる。山下に関しては、スタートでいくよりも後半、途中出場させた方がセットの良さやパンチのあるところが、より生きてくる」と説明。
 トンガ戦では、終始セットが不安定だった点も勝ちきれなかった一因となった。
 それだけに、スクラム、ラインアウトでそれぞれキーマンになる畠山、HO木津武士は「きっちりとセットを安定させて、そこからリズムをつくっていきたい」と口を揃える。
「日本がトップ10入りするためには、身体能力に恵まれたチームとセットプレーが強いチームに勝っていく必要がある」(ジョーンズHC)

 3カ国の中でも欧州の強豪チームでプレーするフロントローが揃い、強力スクラムを誇るサモアに日本がどれだけ対抗できるか。
 3年後の世界トップ10入りを見据えて、ジャパンのセットプレーの現状を知るという観点からも、サモア戦は絶対見逃せない一戦となる。

text by Kenji Demura

サモア戦メンバー発表記者会見でのエディー・ジョーンズヘッドコーチ(以下、EJ)および薫田真広アシスタントコーチへの一問一答は以下のとおり。

──サモア戦メンバーの意図を。

サモア戦が新生ジャパンで初先発となるFL菊谷。PNCを知り尽くす男の存在はチームに安心感を与える
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EJ
「何人か先発メンバーを変更したが、プレーする順番を変えたという部分もある。特に、バックローを強化するという狙いがある。菊谷(崇)を6番で先発させ、望月(雄太)を6から7に移る。恐らく、そのエリアが一番苦しんでいるところ。相手ボールにしっかりコンテストできていないし、ゲインライン前で止めることも、それほどうまくはいっていない。
 菊谷はまだフィットネスでトップにはなっていないが、練習でいいアピールを見せてくれている。望月は6や8でよくやってきてくれた。今回はオープンサイドFLとしてどこまでやれるかに期待している。
 いま、日本と対戦する相手がどこを攻めてくるかが明らかになっている。12番の内側をアタックしてくるということ。バックローと9、10、12がどうディフェンスしていくかが試されている。このエリアの進歩が不可欠だ。
 今回は立川を10番でスタートさせる。晃征(小野=SO)もいいプレーを見せているが、現時点では疲れが溜まっている状態。最後の30分間をがんばってもらうために、ベンチスタートさせる。そのため、ライノ(ニコラス ライアン=CTB)を12に移動して、仙波を先発に戻すことにした。
 サモアに勝つためには、まずフィジカルチャレンジ、すなわちゲインラインで止めていくことが重要になる。今週のリザーブメンバーを見ると、先週よりも試合をしっかりフィニッシュできるメンバーが揃っていると思う。先週つくったようなチャンスでしっかり点数を挙げていくことができれば、我々は勝つことができる」

──長江(有祐=PR)のケガの状態は。

EJ
「大丈夫。長江は今年、テストデビューした15人のルーキーのひとり。彼はとても早くテストラグビーに順応してきている。スクラムもいいし、ワークレートも高い。とてもいいアピールをしている」

薫田
「ケガの方は試合までに完璧になっていると思う」

──真壁(伸弥=LO)もあまりトレーニングできていないようだが。

EJ
「木曜日からトレーニングに戻った。真壁はテストラグビーへの適応に苦しんでいる。あまりいいプレーができていない。ただ、素晴らしいポテシャルを持った選手なので、今後も起用していく。日曜日は100%近くにコンディションも戻っているはず。
 いま、多くの選手がテストラグビーのタフさを学んでいるところ。もちろん、100%いいコンディションでプレーできないこともある。それでも、しっかり調整していくことを学ばなければならない。何人かはとても早いスピードで学ぶことができているし、何人かはゆっくりのペース。でも、みんな姿勢としては素晴らしいものがある。しっかりテストラグビーのタフさを学ぶことのできた選手が今後、日本代表を引っ張っていくことになる」

再び3番で先発に戻るPR畠山。薫田ACは「1番としても成長している」と評価
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──接点の部分では初戦よりも2戦目の方が良かったのでは?

薫田
「1対1のシチュエーションをいかに作っていくかが重要で、そのためにシェイプ、リンケージというものが必要になっていく。それがうまくいかない要因としてブレイクダウンがある。その攻防の中で人数をかけないといけないケースもあったが、2戦目に関しては2人目のテクニックという部分ではかなり上がってきた。外側のラインに関しては、バックローのパフォーマンスというのが重要になっていく。ディフェンスだけではなく、アタックに関してもしっかりゲームをつくっていくことが大事。そこの部分はサモア戦では上がっていくと期待している」

──FLとして先発起用される菊谷(崇)に関して。

薫田
「非常に経験のある選手。しっかりコントロールしてくれると思う」

──右PRに関して畠山(健介)を先発に戻して、山下(裕史)を控えに回す理由は。

薫田
「日本がやりたいラグビーということを考えた時、ハタケ(畠山)を先発にした方がバランスとテンポがよくなる。山下に関しては、スタートでいくよりも後半、途中出場させた方がセットの良さやパンチのあるところが、より生きてくるという判断をしている」

──山下は1番と交代するのか3番と交代するのか。

「もちろん、長江のコンディションとも関係してくるが、基本的にはハタケを1番、山下を3番とするのがいいのではないかと考えている。今週ジュニアジャパンとのスクラムセッションをやったが、かなりハタケの1番もレベルアップしてきている。今後の彼の成長ということを考えてみても、なるべく多く、ハタケに1番として厳しいテストマッチの経験を積ませていきたい。スクラムのテクニック、コントロールという部分ではだいぶ組み慣れてきている」

──望月はオープンサイドFLとしてはあまり経験がないが。

EJ
「オープンサイドというよりはレフトサイドFLと言うべきかもしれない。PNCで起こっていることを説明するのはそれほど難しいことではない。フィジカルで負けている。日本代表が本当の日本のチームになってからどれほど時間が経ったか。1996年以来ではないか。(隣にいる)薫田がまだプレーしていた(笑)。
 我々はフィジカル面ではまだ十分ではない。そこの部分は3年間で世界と十分戦えるようにしていく一方で、短い時間での解決策を見つけていく必要もある。そのひとつの方法がファイティングできる選手を使っていくということ。フィジカル面で不利なところを補う必要があるから。望月はそういう選手。その点に関しては一番かもしれない。それ以外の選手に関しても、テストマッチでファイティングできる選手か見極めて、使っていく必要がある。そうしないとテストラグビーでは勝てない。
 (PNCで戦うような相手に)どうやってコンタクトしていくか。もちろん、まだフィジカル面ではコンテストしきれていない。フィジカルコンディションは今後3年間であと30-40%上げていく必要がある。そうやって、日本人チームとして勝っていかないといけない。まだ、チームが始動して7週間。きちんとファイトできるようになって、テクニック的にも伸びていく必要がある。
 ここまで、何人かはタックルミスが50%。それはテクニック面での問題でもある。望月が今後楽しみな存在であることは間違いない」

──フィジーとトンガは9番、10番、12番のところを攻めてきた。サモアはピック&ゴーを多用して、日本にとってさらに危険な存在になりそうだが。

EJ
「サモアのそこのチャンネルを攻める戦法は明らかだと思う。FWがボール持って突破して、止められたところでまたFWで行く。それからワイドに振って1対1のシチュエーションをつくっていって、走力のある選手が仕留めにかかる。こちらとしては、FW5人でボールを持つサモアFW陣を止めていく。残りの3人のFW陣がBKラインと連携していって外側のスペースを守っていく。もちろん、我々にとってはフィジカルチャレンジとなる。
 まずは、内側のエリアでしっかり止めること。そして、DFラインをキープしていくこと。ゲインラインを越えさせないようにしていけば、相手がワイドに振った時にはこちらがタックルを決めて、ターンオーバーするチャンスが生まれることになる」

サモアFW第1列は欧州強豪チームなどでプレー。日本がスクラムで互角以上に組めるかもポイントに
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──SO立川に期待する点は。

EJ
「まずはタックルを決めること。そして、ゲインラインをアタックしていくこと。外側にいる選手のコールを聞くことも重要になる。トンガ戦では随分良くなっていた。トライには結びつかなかったが、チャンスをつくっていた。立川はクイックなペースでプレーできる選手。もちろん、ここまでの晃征のプレーぶりにも喜んでいる。そういう素晴らしいテストプレーヤーになるポテンシャルを持っている2人の選手がいるのはとてもラッキーなこと。クボタでもサントリーでも10番としてプレーしていくことを期待している。両チームの監督ともよく知っているので、こちらからの影響も与えやすいのではないか(笑)。それは冗談としても、2人ともテストマッチでプレーする10番に相応しいポテンシャルはあるので、10番としてプレーする経験を続けてもらいたい」

──トンガ戦では相手のSHに動かれた。サモアにも素晴らしいSHがいるが、対策は。

EJ
「SHの動きを考える時に重要なのは、まずは相手FWが前に出るのを止めるということ。どんなに素晴らしいSHでもスローなボールではいいプレーができない。そのために大きなバックローを選んだ。そこで相手の前に出る勢いを止めて、しっかりDFラインを維持していく。そうすれば、9番の動きはさほど問題ではなくなる。もし、相手がクイックボールを出すような展開になれば、SHは素晴らしい選手になっていってしまう。
 我々は、ゲインラインの前で相手のパワーを止める能力を進歩させていかないといけない。トンガ戦ではフィジー戦に比べて、随分成長した。トンガ戦ではどの局面でも、こちらが勝っていて不思議ではない内容だった。
 去年の日本チームは今のチームよりもフィジカル面では上のチームだった。でもW杯ではトンガに対して勝つ雰囲気がなかった。去年のPNCのサモア戦でも勝つ雰囲気はなかった。とても素晴らしいサモアチームに対してどんなプレーができるのか。いいテストになる」


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