IRBパシフィック・ネーションズカップ2012(PNC)が5日開幕。フィジーと対戦した日本はFB五郎丸歩のPGで先行したものの、カウンターから3トライを奪われて劣勢に回り、19-25で敗れた。この日初めてフィジーと戦った選手が多く、経験不足から前半は落ち着きのないプレーも目立ったが、後半は課題をある程度修正。後半22分にモールからペナルティトライを奪うなどして7点差以内のボーナスポイント1を獲得した。10日に控えるトンガ戦に向けて前向きな内容もある試合となった。

text by Kenji Demura

6点差の敗戦も厳しい試合の中での成長を実感

 前日練習の時点で、チームにはこれまでと違う緊張感が漂っていた。「今日は多くの選手がナーバスになっていた」。試合前日の記者会見で、エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)は選手たちの精神状態を看破していた。リーダーたちの顔もHSBCアジア5カ国対抗2012(A5N)の時よりもこわばっているように見えた。WTB廣瀬俊朗主将も自ら「緊張感がある」と率直に語り、その横でFL佐々木隆道副将が「ザワさん(=WTB小野澤宏時)とお茶しながら、『緊張しているんですど、大丈夫ですかね』と訊いたら、『大丈夫、おれも緊張してるから』って」というエピソードを明かした。

廣瀬主将をはじめ、初PNC組も多かったフィジー戦。ジャパンは後半課題を修正した
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 4月2日の集合から正味約6週間をひとつのチームとして過ごし、A5Nの4試合を戦ってきた日本代表。しかし、本当の世界との戦いという意味で、ジョーンズHCが「ファーストシリーズのファーストマッチ」と表現したPNC初戦のフィジー戦だった。対戦前の世界ランキングこそ日本が上位だったが(日本14位、フィジー16位)、過去のPNCでの対戦成績は1勝5敗。昨年の勝利も相手にレッドカード2枚、イエローカード3枚が乱れ飛ぶ状況で得られたものだった。

 そんな難敵に対峙することになった先発15人のうち、廣瀬主将をはじめとするPNC初体験組が6人。佐々木とFB五郎丸歩の両副将、指令塔のSO小野晃征もフィジーとの対戦は初めてで、未知なる相手との試合に向けてチーム全体が緊張感を漂わせていたのは、ある意味当たり前だったかもしれない。

 実際にこれまでの試合とは違う精神状態が影響したのか、立ち上がり、ジョーンズHCが率いてからの日本代表では考えられないようなネガティブなプレーも飛び出した。自陣22m内で余裕を持ってボールを受け取った佐々木がキックでエリアをとる選択をしてしまったのだ。「我々はワールドラグビーで日本がいかに勝っていくか探しているところ。その鍵はアタックし続けることだと信じている。キックというアイディアはない」。ジョーンズHCが就任以来植え付けてきたはずの攻め続ける姿勢とは全く異なるプレー選択だった。「どこか冷静じゃなくて、自分に余裕がなかったのかもしれない。2度としません」。佐々木は試合後、反省しきりだったが、一方で外からのコールもなかったようで、余裕がなかったのは佐々木だけではなかったのも確かだろう。

 「(当たりの強さに関しては)予想どおりではあったけど、やっぱりビックリした」とFL望月雄太。恵まれた運動能力を誇る南太平洋の大男たちとの対峙に戸惑いながらも、自分たちのテンポでアタックを続けてトライチャンスを作り出す場面もあったジャパン。しかし、ここという場面のミスが響いて、最終的に奪えたトライは後半22分のモールでの認定トライのみだった。

日本は立ち上がりFB五郎丸のPGでリードしたが、カウンターから3トライを奪われ逆転された
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 逆に、フィジーのCTBアイサケ・カトニンバウ副将が「日本はミスが多く、そこを自分たちがものにした」と試合後に振り返った通り、日本は攻め込んだところでのターンオーバーからカウンターアタックを許して3トライを奪われた。
「ターンオーバーの瞬間はお互いに時間がないので、アタック側も小難しいことはできない」とPNCでの戦いを知り尽くしている小野澤。シンプルなアタックを仕掛けてきたフィジアンを止めるだけの個々の強さも、チームDFの成熟度も、現時点では日本代表には備わっていなかった。
 その結果の3トライ献上と、6点差負け。それでも、試合後、日本代表にはポジティブな空気が漂っていた。廣瀬主将は「勝てなかったのは残念だけど、下を向いている暇もないし、下を向く内容でもない。まだまだ発展途上のチーム。今後うまくなっていくため、本当にいい勉強になった」。

3%ずつの成長を続けながら2015年に目標達成

 「自分たちがいまどこにいるのか、見極められる最初の試合になる」。ジョーンズHCはフィジー戦に向けて、「勝ちに
いく」と言う一方で、自分たちの立ち位置を確認する「ベンチマークとなる一戦」とも位置づけていた。

 目先の勝利よりも大事なものがあったのは事実だろう。実際、特別なフィジー対策が施された様子もなかった。「フィジーに関しての情報は去年のW杯のビデオを見たくらい」(廣瀬主将)で、A5Nでの相手より数段アタック能力が優れるフィジー戦を前に、DFの練習時間が長くなることもなかった。

 それでも、試合でフィジーのカウンターアタックを経験する中で、「相手にプレーさせないように瞬時に面になってプレッシャーをかけていく感じが徐々に合ってきた」(小野澤)という。前半は相手のフィジカルな強さに戸惑って人数をかけ過ぎたりスムーズでなかったりしたブレイクダウンも、後半は自分たちの意図どおりにボール出しができる場面が間違いなく増えていた。

FL望月とHO木津がフィジーNO8タライ主将にタックルに行くが、ボールをつながれる
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 状況判断のミスやハンドリングエラーでトライラインに届かなかったものの、フィジーゴールに迫ったシーンも1度や2度ではなかった。「今日は自分たちの方に運があったが、実力的には互角でどちらが勝ってもおかしくなかった。チャンスをものにできたかできなかったのかの差だった」というフィジーのカトニンバウ副将のコメントも社交辞令ばかりではないだろう。

 「A5Nとレベルの差があるので、毎年PNCの初戦は難しい。一発のプレーで持っていかれるのも体験できたし、結果は伴わなかったけど、エディージャパンとしてPNCでのいいスタートになった」(後半24分から途中出場して代表復帰を果たしたNO8菊谷崇)。
「PNCが初めての選手も多く、前半は対応できなかったのが、後半は修正できた。勝ち点1を取れたのは大きい」(LO大野均)。
PNCでの厳しい戦いを知り尽くしているベテランFWも、揃って試合の中での若い選手たちの成長ぶりに手応えを感じていた。

 ジョーンズHCが試合前日の会見で語っていた「80分間の中でフィジーに対する勝ち方を見つけたい」という点に関しても、選手たちが大きな手応えをつかんだのは間違いないだろう。ナーバスな精神状態で試合に入った初フィジー戦組にとっても、「前半レイトタックルされたり、プレッシャーを受けたりしても、とにかくゲインラインに近い、浅いポジションでプレーし続けて、後半はいいアタックができるようになった」(小野)と自信をつけた一戦となった。

 試合後の記者会見でジョーンズHCは「圧倒的に素晴らしいレッスンになった」と語る一方、「我慢強く見守ってほしい」と訴えた。最終目標は2015年にトップ10入りすること。「試合の後、『3%ずつ良くなっていこう』と選手に言った。その3%アップのためには、シンプルなことをきちんとやり切る必要がある。次のトンガ戦で3%改善して、サモア戦でも3%改善していければ、2015年には目標を達成できているはずだ」

 PNCの残り2戦は「正しいことをやっている」と胸を張るジョーンズHC率いる新生ジャパンの3%の成長を確認するための貴重な機会となる。

試合後の記者会見での一問一答

高い姿勢でのプレーが目立ったジャパンの選手たちの中で常に低くプレーし続けたLO大野
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──今日の試合に関する総評を。

エディー・ジョーンズヘッドコーチ(以下、EJ)
「当然、結果には失望している。今季の中でも圧倒的にベストレッスンだった。大きな問題と小さな問題がある。大きな問題は相手の弱い部分を攻めてチャンスをものにするということができなかった。それは経験を積めば、改善されていく部分。特効薬はない。ただし、ボディポジションは改善していかないと。フィジカル面で相手が上回った。それでも、後半は修正できたし、勇気のあるパフォーマンスだった。今大会の残り2試合が楽しみ。今日のフィジーのDFとても良かった」

廣瀬俊朗主将
「勝てなかったのは残念。ただし、下を向いている暇もないし、下を向く内容でもない。自分たちは発展途上のチーム。今後、いいチームなっていくためには、本当にいい勉強になった。今までは、ここまでタイトなゲームではなかったので、課題というものが明確ではなかった。今日、フィジーがいいパフォーマンスしてくれて、その中で出て来た課題を水曜日から土曜日までレベルアップして、トンガ戦に臨みたい。選手の気持ちの部分はすごく良かったと思う。あとは、スキルレベルとコミュニケーション。ちょっとしたところをレベルアップしたい」

──ボディポジションを低く維持できていたのはLO大野くらいだったが。問題点はどこになるのか。

EJ
「(ボディポジションに関しては)いろいろクセがあって、変えている段階。経験というものは"最も厳しい先生"である。今日はレッスンの前にテストされたようなもの。この厳しいレッスンから学ばないといけない。低い姿勢は練習でも言っている。ただ、選手たちは高い姿勢でプレーすることに慣れていて、試合になると元に戻ってしまう。進化の過程の一部と捉えている」

──前半のトライは1対1の局面でのタックルの弱さが出たように思うが。

EJ
「ターンオーバーから3トライを取られた。1対1で打ち負かされたり、オフロードを使われたり。一番大事なのはスキルレベルを上げること。2015年には全て修正しきれているでしょう」

フィジーの激しいプレシャーの中、浅いポジションをキープし続けたSO小野
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──代表復帰を果たしたNO8菊谷前主将のパフォーマンスは。
EJ
「スコッドに入ってきたばかりだが、練習でも若手のサポートもよくしてくれている。今日はNO8の仕事は果たしてくれた。シンプルなことをよくやってくれたということ。
 今日は若いということでナーバスになっている選手もいた。そういう選手はシンプルなプレーがうまくできない。ラグビーはシンプルなことが大事なスポーツ。それでも、後半はシンプルなプレーがうまくいくようになっていた。ただ、そのことを学ぶ前に点数を相手に与えてしまったが。今後は後半のプレーを最初からやり切ることが重要。そのためには、ハードな練習を続ける必要がある。シンプルなことをきちんとできるように習慣づけていくということ。今度は今日のように9-0のリードで始まったら、その後トライをとって16-0と点差を広げていく。そうすれば勝つポジションに入っていける。
 試合の後、『3%ずつアップしよう』と選手には言った。その3%アップのためには、シンプルなことをきちんとやり切る必要がある。今日の試合でボールを落とした選手は何人いたか。9人くらいはいたはずだ。これを次のトンガ戦で3%改善して、サモア戦でも3%改善していければ、2015年にはボールを落とすことはなくなる。ミスタックルも同じ。
 我々はもっと我慢強くならなければ。(あなたたちにも)我慢してもらいたい。正しいことをやっている。最後のプレー、ゴロー(五郎丸)がスペースに走り込んでボールをもらって、でもボールを落としてしまった。2年後にはボールを落とさないようになっているはず。素晴らしいプレーだった」

──フィジカルに強い相手にブレイクダウンでスムーズな球出しができず、人数をかけてしまっていたのでは。

EJ
「今日の一番大きな問題は状況判断。例えば、最後の左サイドのスクラム。"組んですぐ"というプレーを選択して、菊谷がブレークした。その後のラックでフィジーのディフェンダーは2人で、こちらのアタッカーは3人だった。そこで我々はスローボールオプションを選択してしまった。日本はサイズで劣る。だから、自分たちの優位性を最大限生かしていく必要ある。3対2の状況なら攻めるべき。ワイドに行って、ゴールまで30mのところでタックルされるかもしれない。でも、また攻めていく。そういうところは経験のなさが響いている。自陣22m内でソフトでセーフなプレーを選択し過ぎている。もっと判断が良くなれば、ブレイクダウンも良くなっていく。
 今日はレフリーがアイルランド人だった。もちろん、わかっていた事実ではあるが、北半球のレフリーはコンテストを好む傾向がある。選手たちはワールドラグビーというものの一面を学べたと思う」

NO8菊谷同様、W杯以来の代表復帰となったCTBニコラスは、途中出場して存在感を示した
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