待ちに待った“太平洋の戦い"が日本でスタートする。日本、トンガ、サモア、フィジーの4カ国で争われるパシフィック・ネーションズカップは5日に愛知・名古屋市瑞穂公園ラグビー場で行われるサモア-トンガ、フィジー-日本戦を皮切りに開幕。今年は日本がメイン開催地となり、10日にはフィジー-サモア、日本-トンガ、17日には日本-サモア(いずれも東京・秩父宮ラグビー場)の計5試合が日本で行われる予定となっている。

A5Nメンバーを軸に“大物"も加わり、PNC連覇へ

A5N(写真は優勝を決めた香港戦後)に続いて地元開催のPNCで頂点を目指すジャパン
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急遽、招集されたCTBニコラスだが、早くも練習中に持ち前のリーダーシップを発揮する場面も
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 この4月にスタートを切った、エディー・ジョーンズヘッドコーチ率いる日本代表にとって、最初に訪れる「真価の問われる大会」と言っていいだろう。
 フィジー、トンガ、サモアという南太平洋の強豪国と対戦するIRBパシフィック・ネーションズカップ(PNC)。
 ディフェンディングチャンピオンでホーム開催となる日本にとって、当然ながら目標は優勝ということになる。

「香港戦のパフォーマンスに関しては嬉しく思っている」
 ジョーンズHCがそう語るとおり、PNC初戦のフィジー戦先発メンバーは香港につけ入る隙を与えず57-0で勝利した、5月19日のアジア五カ国対抗(A5N)最終戦からの変更は1人だけ(CTB田村優→立川理道)。
 インサイドCTBに関しては、A5N時にも立川と田村が併用されており、基本的なチーム構成は春からの流れを踏襲したものとなっている。

 その一方で、リザーブメンバーには、A5N時点ではスコッドに選ばれていなかった“大物"2人が、満を持して代表復帰の第1歩を踏み出すために顔を揃えた。
 LO/FL/NO8菊谷崇・前日本代表主将とCTBニコラス ライアン。
 長らくジャパンの看板選手として活躍しながら、春の段階では共に代表スコッド外。そんなふたりを、より厳しい戦いが予想されるPNCを前にスコッドに追加して、いきなりリザーブ入りさせた理由に関して、ジョーンズHCは以下のように説明する。
「A5Nの戦いの中でFWパックにもっとパワーが必要だと感じた。菊谷の存在はその部分を補ってくれるひとつのオプションになり得る。彼は日本の中でも最も才能に恵まれた選手のひとり。スキルフルなプレーヤーでかつタフでもある。ライアン・ニコラスは12番、13番をカバーしてもらうが、練習を見ていても経験値が高いことは明らか。チームとして成長を続ける一方で、まずフィジーに勝って、PNCで優勝するためには、経験が生きてくると判断した」

 5月30日のチーム合流時に、「まずは新しいチームにフィットすること」という抱負を語っていた菊谷のポジションに関しては、5月23日のPNCスコッド発表時には「(左サイドの)LOとして新しいポジションにチャレンジしてもらう」(薫田真広アシスタントコーチ)主旨も語られたが、フィジー戦のリザーブには伊藤鐘史も名を連ねており、この2人でFW第2列、および第3列をカバーすることになる。

 対するフィジーは24キャップを誇る30歳のPRグレアム・デュースなどの海外でプレーする実績組の一方で、今季のセブンズワールドシリーズ(SWS)で総合2位となった7人制代表からも21歳のワイセア・ナヤザレヴ(ユーティリティBK)などノンキャップ組3人が選ばれており、新旧が入り混ざったチーム編成で来日している。
"フィジアンマジック"の言葉どおり、フィジーは伝統的に自由にボールを持たせるとやっかいな相手。SWSでの完全復活は、W杯が終わったばかりの新チームになって、その傾向が強まっていることを予感させる事実でもある。

HOは重さのある木津が香港戦に続いて先発。セットの安定が鍵に
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 日本としては、A5Nでは安定感に欠ける面も垣間みられたスクラムなどのセットプレーでプレッシャーをかけてフィジアンたちに自由に走らせるスペースを与えず、逆にA5Nの4試合の戦いの中でどんどん精度が上がっていった感のあったブレイクダウンを制圧して、自分たちのペースで戦えるかがひとつのキーになる。
「A5Nでもスクラムを安定できなかったという反省点がある。試合でのポゼッション(ボールキープ)に関しては、香港戦の数字で25-26分間ほど。同じ程度のポゼッションはPNCでも維持していきたい」(薫田AC)

 前述のとおり、FWの先発メンバーは香港戦から不動。1番としてのチャレンジを続けさせている畠山は、今回も"本職"の3番でのスタート。HOは「実力的には甲乙つけ難いが、重い方を選んだ」(ジョーンズHC)という面もあって、木津武士が先発。控えに回る有田隆平には、「フィットネスとワークレートの高さを最後の30分で生かしてもらいたい」というのが首脳陣の考えのようだ。

 現在、IRB世界ランキングでは16位と、14位の日本よりも下位にいるフィジーだが、過去6年間のPNCの対戦でも日本が勝ったのは1度だけ。そのPNCでのフィジー戦唯一の勝利となった昨年の対戦も、相手にレッドカード2枚、イエローカード3枚が出されたこともあって、参考にしにくい面もある。
「なぜ、日本はフィジーに勝てていないのか。我々としては、自分たちのゲームプランを追求していく必要がある。常にアタックして、フィジーにプレッシャーをかけていく。フィジーを怖がらずにジャパンの試合ができるようにしていくことが重要」(ジョーンズHC)

 もちろん、新生ジャパンにとって、フィジカル面で自分たちよりも数段上の相手との初の対戦ともなる。
 A5Nの戦いの中で進化したブレイクダウン、そしてアタックシェイプといった"ジャパンウェイ"の根幹をなす部分は、南太平洋の大男たちからの激しいプレッシャーを受けても、しっかりした精度を維持することができるのか。
 SH日和佐篤、SO小野晃征、CTB立川といったBKのゲームメイクのキーマンたちが、A5Nの相手よりも数段プレッシャーをかけてくる相手を向こうにまわして、どこまでゲインラインの近くでプレーしながら、状況判断を間違わず、かつテンポを作り出していけるのか。

 当然、一番の目標は2年連続となるフィジー戦勝利。その一方で、「フィジカル的に自分たちを上回る相手との戦いであり、いま自分たちがどこにいるのか判断するための非常にいいテスト」(ジョーンズHC)という、2015年ワールドカップでの世界トップ10入りを見据えて、自分たちの現在位置を確認できる実に意義深い一戦となる。

text by Kenji Demura

フィジー戦メンバー発表記者会見でのエディー・ジョーンズHC、薫田真広ACへの一問一答

エディー・ジョーンズ(以下、EJ)
「香港戦のパフォーマンスに関しては、嬉しく思っている。ということもあり、香港戦から先発で変えるのはひとりだけ。田村に替わって立川がインサイドCTBでプレーする。一方、リザーブには、スコッドに加わったばかりの菊谷が入る。元々はLOとして選んでいたが、現時点ではチームバランンスからいって彼にはフレキシビリティを持ってもらって、3列もカバーしてもらう方がいいという考えでいる。ライアン・ニコラスは12番、13番をカバーしてもらうが、練習を見ていても経験値が高いことは明らかだ。
 いまの段階での最も強い22人を選んだということになる。ここまではしっかり準備ができているので、いい状態のままフィジー戦に臨みたい」


香港戦でSOとして途中出場した立川は再びインサイドCTBに戻って先発(右はWTB廣瀬主将)
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──HOの木津と有田のどちらを先発にするか悩んだのでは? 最終的に木津をスターターにした理由は。

EJ
「甲乙つけ難いほど、2人の実力は接近している。進歩も著しい。フィジー戦で木津を先発にしたのは、重い方を選んだということ。スクラムでの実力という面もある。あるいは、スクラムに関しては木津と有田の間にはさほど差がないかもしれないが、有田に関しては、フィットネスとワークレートの高さを最後の30分で生かしてもらいたい」

──スティーブ・ボーズウィックコーチの指導によって、ラインアウトはどんな点で進歩したか。

薫田
「ジャンパー、リフター、スローワー、それぞれ役割が明確になったことが一番大きい。特に、ジャンパーの空中でのバランス。当然、日本人の強みという点を踏まえてということになるが、ゼネラルなスキル、テクニックといったところを選手の方に落とし込んでくれていた」

──ラインアウトにおける、日本人の強みというのは。

薫田
「やはり、スピードを生かすということ。スティーブもそのことをしっかり理解した上で、我々の一番高い到達点となるマックスジャンプをするためのテクニックなどを指導してくれて、うまく整理されたように思う」

EJ
「スティーブはイングランド代表として57試合のテストマッチでプレーして、主将も務めた。ただし、イングランドのLOとしては身長も高い方ではなく、体重もそれほどあるわけではない。日本人の中に入ればジャイアントだが、イングランドではスモールと批判されてもいた。ということもあって、ラインアウトで日本人がどうしていかなければいけないかをよく理解してくれている」

──立川を再び12番で先発起用する理由は。

EJ
「A5Nでは非常にいいプレーをしてくれたと思っている。香港戦で先発から外したのは、少し疲れているなと感じたから。後半、交代出場した後は、求めていたプレーをほぼやってくれだ。ゲインラインのところでボールを受け取り、パスを出してくれたり、BKラインもよくリードしてくれている」

──対フィジーの戦い方でフォーカスするポイントは。

EJ
「過去の日本xフィジー戦の記録はとても残念なもの。6年間で1度しか勝っていない。勝てたゲームも記録的な数のシンビンがフィジーに出た。
 なぜ、日本はフィジーに勝てていないのか。我々としては、自分たちのゲームプランを追求していく必要がある。常にアタックして、フィジーにプレッシャーをかけていく。フィジーを怖がらずにジャパンの試合ができるようにしていくことが重要。成長していくためには、自分たちのラグビーに自信を持つことを変えずにプレーしていくことが必要」

──SHに関しては日和佐が一番チームにフィットしていると判断しているということか。

EJ
「日和佐はワールドクラスプレーヤーになるポテンシャルがあると思っている。もちろん、藤井もチームに対する貢献度は高いが、現時点では日和佐を先発で起用する方がより自分たちのスタイルに合っていると考えている。藤井はタフなタックラーでもあるので、試合の終盤で力を発揮する場面が出てくると思う」


昨年は劇的な勝利でフィジーを破った日本がPNC初優勝。前回カップを掲げた菊谷前主将の新チームへの貢献は?
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──実際に練習に加わった後、菊谷のどういうところを評価しているか。

EJ
「48キャップを持っていて、キャプテンをやっていたほどの選手なのに、すごく謙虚で、みんなに敬意を表していて、本当にハードワークを続けてくれている。もちろん、経験を生かすかたちで、若い選手に指示を出したりもしてくれている。でも、一番重要なのは、自分らしくプレーしてくれること。フィジカル面では、日本のバックローとしてベスト。本人には、まだこの先数年間で、もっとベストな状態になれると伝えてある。
 スコッドを選ぶ時はいつも選手をこういうプレーヤーにしたいというイメージを持っている。その一方で、毎試合、ベストの22人を選んでいく必要もある。例えば、若くて素晴らしいアウトサイドFLの桑水流がいるが、彼はA5Nでは非常に良くやってくれた。ただ、まだまだ成長を続ける必要がある。いまの段階では菊谷の経験が生きてくるはず。特に、大会最初の試合で、名古屋でのナイトゲームという条件もあるので。勝たなければいけない試合だし、その一方で成長を続けていく必要もある」