HSBCアジア五カ国対抗2012第3節、韓国-日本戦が12日、韓国・ソウル郊外の城南運動場で行われ、日本は小野澤の3トライなど計8トライを奪って53-8で勝った。前半に出た課題をハーフタイム以降に修正し、5年連続となるアジア王者に王手をかけた。

修正能力を披露して、計8トライで3連勝

HSBCアジア五カ国対抗第3戦、後半ペースつかんだ日本は52-8で快勝。大会5連覇に大手をかけた
photo by Hiroyuki Nagaoka (RJP)
常にボールに絡むプレーで勝利に貢献したFL佐々木副将。後半32分、35分には連続トライも決めた
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 初戦のカザフスタン戦が87-0、続くアラブ首長国連邦(UAE)戦は106-3と、開幕から2試合はともに大勝だった。エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)が率いる日本代表が対戦してきたここまでの2カ国に比べて、前週に香港とのアウェーゲームをものにしている韓国が骨のある相手であることは予想に難くなかった。
 「フィジカルでアグレッシブ。ディフェンスも結構前に出てくる」とWTB廣瀬俊朗主将。薫田真広アシスタントコーチ(AC)は「根性があって、ブレイクダウンでガチガチくる」と話していた。
 メンバーの面からも、香港戦で右腕を痛めたLO/FL劉永男(パナソニック)は欠場したものの、PR許雄(NTTドコモ)やFL李光紋(トヨタ自動車)、梁永男(Honda)といったトップリーグ組が名を連ねた韓国代表チームは、ベストに近い布陣だった。
 さらに、日本が相手となると特別に熱くなる精神力も韓国の特色だ。「韓国はスピリチュアルなチームなので、前半、韓国が激しくきた時間帯にこちらがしっかりコントロールした状態でプレーできるかが重要になる」。前日、ジョーンズHCは韓国戦に関するポイントをこう語っていた。

 しかし、試合では、前半に韓国のプレッシャーの前に日本が思いどおりのプレーができない時間帯が続いた。開始1分。韓国のキックオフで日本が自陣からフェイズを重ねるが、ブレイクダウンで反則してしまう。6分には、敵陣深くのラインアウトからのモールを押し切れず、サイド攻撃はノックオン。さらに、8分には、ラインアウトでノットストレート……。「個々のシンプルなミス」(ジョーンズHC)が続いたことでリズムを作れず、逆に韓国に自陣深くまで攻め込まれる場面もあった。
 「(トップリーグなどの)リーグ戦でも、3試合目というのは何となく緩むところがある。昨日の練習も良くなかったし、まだチームが成熟していないということ」と試合後、廣瀬主将は反省を口にした。

 試合よりも練習の方が厳しいと誰もが口を揃えるハードトレーニングを続けてきた疲労の蓄積もあったかもしれない。また、それまでの2戦の対戦相手と違って、激しく前に出てくる韓国のラッシュディフェンスに戸惑った面もあるだろう。
 日本が得点を奪えなかった序盤の時間帯、韓国に攻め込まれるシーンもあったが、「ディフェンスは良かった」(ジョーンズHC)という堅守で先行されることはなかった。

3試合連続で指令塔を務めたSO小野。韓国のDFにプレッシャーを受けながらも自ら仕掛けてチャンスをつくるシーンも多かった
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タックルを受けながら突破をはかる畠山とフォローする長江の両PR。スクラムは終始安定していた
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 0-0のままで迎えた19分、ようやく日本に初トライが生まれる。自陣からフェイズを重ねた後、FB五郎丸歩副将が右側のスペースを大きくゲイン。SO小野晃征-CTB立川理道コンビでタテに突破してゴールに迫った後、素早い球出しから再びラインに戻っていた立川から左WTB小野澤宏時にパスが回って、34歳のベテランWTBが韓国ゴールを陥れた。
 日本は25分にもCTB立川の突破からチャンスをつくって、LO真壁伸弥がトライ。これで完全にペースをつかんだかに思われたが、結局、前半の得点は、この2トライと五郎丸副将の2ゴールによる14点のみ。34分には五郎丸副将が正面のPGを外し、そのドロップアウトからのキック処理を小野澤がミスして一気にピンチを招く。韓国のインゴールノックオンに救われてトライこそ奪われなかったが、どこかちぐはぐなままハーフタイムを迎えた。

テンポアップに大きく貢献したSH日和佐

 自らのミスもあって韓国のラッシュディフェンスを崩しきれなかった前半だったが、「試合前から『30分間は我慢』と伝えてあった」と薫田AC。廣瀬主将は「ハーフタイムも、雰囲気は前向きな感じだった。ちょっとうまくいっていないだけで、自分たちを信じれば大丈夫だ、と。最初、外に抜けて、そのイメージが強過ぎたこともあったので、もう少し我慢してタテに行ってから外の方がいいんじゃないかというような話をした」

前半は韓国のラッシュディフェンスのプレッシャーに苦しむ場面も多かった(写真はCTB立川)
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後半途中出場したSH日和佐はテンポある球さばきでアタックのリズムをつくり出すことに成功
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 試合前に「フィットネスとスキルのレベルの差は大きい」とジョーンズHCが話していた通り、後半は時間の経過とともに力の差が表れるようになった。
 4分に韓国がPGで先に点を取ったものの、8分のFL望月雄太のトライを皮切りに、後半は6トライを重ねて、最終的に得点を50点台に乗せた。ピッチ上の15人全員が前半の問題点を意識して、自分たちのアタックを構築し直した結果と言えるだろう。

 同時に、後半から途中出場したSH日和佐篤のテンポの良さがチームに勢いを与えたのも確かだった。「何分から試合に出ても、テンポを上げるように言われていた」という言葉どおり、サントリーでアップテンポのアタッキングラグビーを体現してきた経験を生かして、日本代表の攻撃をリードし続ける活躍を見せた。
 留学先のフランスから帰国後すぐに日本代表の福岡合宿に合流した日和佐は、練習では主にリザーブメンバーチームに入り、SO小野とは「今日の試合で初めて合わせた」(小野)というぶっつけ本番。その影響か、後半の40分間で3本のパスインターセプトを許したが、「独特のテンポでリズムをつくってくれる」(廣瀬主将)スタイルで、ジャパンの攻撃にメリハリをつけた。
 それでも、ジョーンズHCの日和佐に対する評価は「荒削りで、インターセプトにつながった間違ったプレー選択もあった」と厳しく、「7点満点で2点」だった。

 小野澤のハットトリックに廣瀬主将の1トライを加えて、日本の計8トライ中4トライがWTB。一方、残り4個はFW(佐々木2、真壁、望月各1)と、後半にかけて日本代表の攻撃のバランスは良くなった。セットプレーは終始安定しており、後半のスコア(38-8)がブレイクダウンと攻撃の形が試合中に修正できたことを示している。
 「ブレイクダウンでしっかり仕事をしながら、ペネトレートしていきたい」と語っていたFL望月は、ジョーンズHCが「力強さがあるし、センスもいい」と高く評価する活躍ぶり。2トライの佐々木副将とともに、両FLの仕事ぶりは際立っていた。後半途中出場したCTB田村優も、積極的にボールを前に運ぶランでチームに勢いをつけていた。

後半24分からインサイドCTBに入った田村は短い時間だったが、積極的なランでチャンスをつくった
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初戦のカザフスタン戦に続いてハットトリックを達成したWTB小野澤。代表での通算トライ数を49に伸ばした
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 「完璧なトライもあった」と言いながらも、チームのパフォーマンスに対するジョーンズHCの採点は「7点中3点」にとどまった。それでも、最初の2戦よりも格段に手強かった韓国相手に、終盤見せたプレーはそれまでより高いクオリティだった。「すでに形ができ始めているし、あとは細かいところ。みんな吸収が早い」とは、日本代表に合流したばかりの日和佐の印象だ。代表キャップ57を誇るFW最年長のLO大野均は「若いチームなのに、試合の中でしっかり自分たちで修正できる。頼もしいなと思う」と、若い選手の意識の高さを訴える。

 これまでよりレベルの高い韓国との試合を通じて、ジョーンズHCが指導する日本代表の「ジャパン・ウェイ」は確実にレベルアップした。19日に東京・秩父宮ラグビー場で対戦するのは香港代表。ジョーンズHCは「韓国に30点差をつけて勝つだけの実力がある」と警戒する。さらなる難敵・香港を相手に、もう一段階上のプレーをして5年連続優勝を飾るとともに、その後に控えるパシフィック・ネーションズカップにつなげてもらいたい。

text by Kenji Demura



後半8分にトライを奪うなど、アタック面での貢献が目立った望月。「成長が著しい」とジョーンズHCも高く評価
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NO8としてプレーしたリーチは「まだまだエイトとして覚えなきゃいけないことがたくさんある」と語るなど課題も
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