18歳の藤田慶和、鮮烈な6トライ代表デビュー ──。
5日、福岡・レベルファイブスタジアムでHSBCアジア五カ国対抗2012(A5N)第2節、日本-アジア首長国連邦(UAE)戦が行われ、日本は18歳と245日で史上最年少の日本代表キャップを獲得したWTB藤田の6トライなど計16トライを重ねて106-3で圧勝した。藤田をはじめ、試合会場の福岡にゆかりのある選手の活躍も目立ち、エディー・ジョーンズ新ヘッドコーチ(HC)が率いる日本代表は、最高のかたちで国内デビューを飾った。日本はA5N第3節で韓国とアウェー戦(12日、韓国・城南)を戦う。

史上最年少の日本代表キャップホルダーとなったWTB藤田はいきなり6トライを奪う大活躍を見せた
photo by Hiroyuki Nagaoka (RJP)

チームに勢いを与えた藤田の激走

 新生日本代表の国内初お目見えに加えて、「歴代の日本代表の中でも、最も若いチームのひとつ」(ジョーンズHC)という経験の少なさも影響していたかもしれない。
 2008年6月のオーストラリアA戦以来となる福岡でのテストマッチに大きな期待感を抱いて集まった7500人を超える観客が注目する中、午後6時にキックオフされたUAE戦。試合の入り自体は、決して完璧なものではなかった。

 キックオフからプレッシャーを受け、前節からの課題だったブレイクダウンで後手に回るシーンも見られた。
「立ち上がり少しルースだった(緩んでいた)」(ジョーンズHC)
 試合後、今回のUAE戦で初キャップを獲得した福岡出身のFL橋本大輝が「緊張しすぎ」と語った通り、尋常ではないプレッシャーが動きを硬くさせた面もあるだろう。
 ともかく、どこかチグハグな感じだった立ち上がりの日本代表。重苦しい空気さえ感じさせたレベスタの空気を一変させたのは、史上最年少日本代表WTBの物怖じしない、思い切りの良い走りだった。

 若いチームの中でもとびきり若く、これから18歳と8ヵ月目を迎える藤田。開始5分、自陣深くで日本代表でのファーストタッチとなるボールを受け取ると、瞬時にギアをトップに入れ、雷光が一気に駆け抜けるかのごとくUAE選手を置き去りにする激走ぶりで、相手ゴール前7-8mまで大きくゲインした。
 この場面ではトライにはならなかったものの、藤田の激走から生まれたラックからSH藤井淳-SO小野晃征-CTB立川理道とつないで、日本が先制する。

「最初のラインブレイクは、WTBとしてはフィニッシュまで持って行ってもらいたい」。ジョーンズHCは真のインターナショナルプレーヤーになるための高いレベルでの注文を忘れなかったが、アジアの舞台では18歳の若者がすでに稀有なフィニッシャーであることを九州のファンが認識するまでに、そう時間はかからなかった。
11分、日本代表は自陣から積極的に仕掛けてPR畠山健介などの突破で前進。ハーフウェーライン付近のラックからテンポよく藤井-小野-FB五郎丸歩とつなぎ、最後は五郎丸が左タッチライン際を駆け上がってきた藤田に、相手DFを引きつけてラストパス、日本代表史上最年少キャップホルダーはそのまま日本代表史上最年少トライスコアラーとなった。

106-3での大勝にWTB廣瀬主将は「前半から自分たちのペースでできていたので、後半、課題が修正できた」と、まずまずの自己評価
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ひとりで2トライ、10ゴールの計30点を記録したFB五郎丸副将は若いBK陣をうまくリード
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「(ピッチへの入場時)後ろの方に並んでいたら、廣瀬さんから『前に来い』と言われて……全くのサプライズでした」(藤田)

廣瀬主将の粋な計らいで、高校3年間を過ごした福岡での代表デビュー戦で日本代表の先頭で入場するという栄誉まで与えられた藤田。「日本ラグビーに必要なスターになるポテンシャルは十分」(ジョーンズHC)だが、特別なはずの代表デビューセレモニーの後でも、「全く緊張はしなかった」という。
 ファーストタッチでチームに勢いを与え、11分に代表初トライを奪っただけでなく、「エディーさんに『どんどんボールタッチしろ』と言われていたので、どんどん動いて運動量でアピールしようと思っていた」という思惑どおりに、後半さらに5トライを重ねた。

「何よりも良かったのはチームワーク」(ジョーンズHC)

 藤田の6トライ中5トライが後半に集中していることが示すように、チーム全体も前半で出た課題をハーフタイム以降にうまく修正できた印象が強かった。カザフスタン戦からの課題だったブレイクダウンでのサポート、そしてアタックシェイプの精度で進歩が見られたのは明らかだろう。
 この日No8でプレーした佐々木隆道副将は「前半は2人目のサポートが良くても、3人目、4人目がスペースを取り過ぎたりして、ボールの上を守る選手がいなくなったり、9番のところにプレッシャーがかかっていたりしていたのが、後半は修正できたし、前回よりは良かった」と、着実な成長に手応えを感じている様子だった。

スクラムでは苦しむ場面もあったが、フィールドプレーでは相変わらずの高いワークレートでチームに貢献したPR畠山
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初戦のカザフスタン戦に続いて2キャップ目を獲得したHO有田は地元に錦を飾るかっこうとなった
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 立川をインサイドCTBに入れ、ダブル指令塔的な要素を強めた布陣でアタックシェイプを維持していく点も、「だんだん形になってきた」(ジョーンズHC)と、カザフスタン戦よりも格段良くなったのは間違いないだろう。
立川は「最初は相手のディフェンスにはまった感じがあって、シェイプがうまく出せなかったけど、ゲーム中に修正できたのは良かった。ひとりひとりのリアクションを速くすれば、もっと良くなる」

 前半、ややもたついた面があったものの、後半、課題を修正し、この先、チームがさらに成長していく可能性を十分に感じさせるポジティブな方向で国内初試合を戦えた日本代表。6トライを挙げた藤田や、「自分でも怖いくらい調子がいい」と難しい位置からのゴールキックを次々に入れ、計30点(2トライ、10ゴール)を一人で記録した五郎丸副将など個々の選手の活躍が目立つ一方、「バックスリーで9個のトライを取ったが、それも内側の選手の働きで生まれたもの。何よりも良かったのはチームワーク」(ジョーンズHC)である点も心強い。

地元・福岡で記念すべき日本代表デビューとなったFL橋本。「緊張した」と言いつつも、アタック面では度々ボールを前に運ぶ活躍を見せた
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後半10分にトライも記録したベテランLO大野は「横のコミュニケーションがよく取れている」とチームの雰囲気の良さを語った
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 後半から途中出場したFL桑水流裕策やCTB森川海斗の初キャップ組もノビノビと自らの特徴を生かしたプレーでチームに貢献。この日は6番を着けて先発したFL望月雄太が「カザフスタン戦では5分間しかプレーできなくて悔しい思いもあったし、前回の『6』がマイケル・リーチだったので、いろいろ燃えるところもあった」と話すように、チーム内で健全な競争が生まれているのもチームのベースアップにつながっている。

「これからは僅差になる試合も多くなると思うので、競った時のゲームマネージメントなど、まだまだやっていかないといけない課題も多い。次の韓国戦でも頑張って結果を残して、日本のみなさんに、また喜んでもらえるようにしたい」(五郎丸)
 ジャパンウェイの進化の歩みを進めるために、日本代表は「これからの1週間、今まで以上に激しい練習をして」(ジョーンズHC)次戦の韓国戦に臨む。

text by Kenji Demura



自らも度々効果的なラインブレイクを見せるなど、ダブル指令塔としての役割を十分にこなしたCTB立川
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後半途中出場した初代表のFL桑水流は、後半1分、29分にトライを記録するなど、慣れ親しんだレベスタで自分らしさをアピールした
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昨年に続いての対UAE戦100点ゲームでの勝利。試合後、選手たちは安堵の表情を浮かべて7500人を超えるファンの声援に応えていた
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