11月16日に開催された、東京都港区と日本ラグビー協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップに向けて」に、日本ラグビー協会コーチングディレクターの中竹竜二氏が登場した。
早稲田大で主将、監督を経験した中竹氏は、「2019年に世界で勝つために」というテーマで、日本ラグビーに必要な構造化について語った。

本日は「2019年に世界で勝つために」というテーマで話します。まず、19年に向けて大事なのは過去をしっかり振り返ることです。11年はいろいろな取り組みをして、プロフェッショナルの監督であるJK(ジョン・カーワン)に来てもらって、組織的に強化されました。

中竹竜二氏
中竹竜二氏

我々がやらなくてはいけないことは冷静な現状把握です。「今、どういう立ち位置なのか」ということです。同時に過去をばっさり切るのではなくて、整理をしていかなくてはいけません。では、これから19年に向けてどうしたらいいでしょうか。

今までは基本的にやることを積み重ねてきたのですが、これからは積み重ねていく時間がありません。日本ラグビーの今の形が8角形の形だとすると、19年は大きな円が太陽のように燃え盛っているようにならないと厳しいと思います。炎を放って、日本のラグビーファミリーが一丸となって渦を巻いてエネルギーを持つイメージです。
積み上げていくだけだと、こうはなりません。未来の最高の形から逆算して、選択と集中をしていかないと間に合わないです。8年後はすぐに来ます。

11年W杯については、「2勝のはずが1勝もできず本当にガッカリした」という方がたくさんいらっしゃると思いますし、「ジャパンが何をやりたいのか全然見えなかった」とか、「SHの田中とか日和佐とかは頑張ったよね」とか、「外国人が多すぎて愛着がわかない」とか……。こういう会話をされてきたと思います。

この会話を協会内部のスタッフやコーチ陣がするのは問題があるわけです。我々がやっていかなくてはいけないのは「おしゃべり」ではなくて、「議論」です。テーブルに議題を用意し、論点を整理して資料を作成して、議論が終わった後に何を話し合い、何が決定されたかを明らかにする。これは論理的で、客観的でなくてはならなくて、目的と目標、当事者意識を明確にしなくてはいけません。
それをしっかりするには構造化が非常に重要になってきます。これまで、ラグビーを構造化するということはなかなかやられてきませんでしたが、今こそ、ラグビーを整理したいと思います。

ジャパンがトンガに勝とうとゴール設定するとします。最初に考えるのはどうやって勝とうかという戦略です。その次に戦術を考えます。戦略と戦術は全く違います。戦略というのはゴールに対してどうやって到達するか。戦術は戦略を支えるためのひとつのパーツです。さらに戦術を成り立たせるためには一人ひとりの技術が必要です。そして、技術の前提として動作をしっかりできることが大事です。
その上にストレングス&コンディショニングという分野が入ってきます。これら全てでゲームのマネジメントです。

フランス戦を戦いますといったら、ゴール設定をしてどうやって相手陣に攻め込んで、どうやってトライを取るかと考えます。例えば、ハイパントで攻めようとなればパントキックの練習をします。さらに動作の部分では、軸足をどう踏み、どう振り足を挙げるかなど細かく見ます。
さらに今回のジャパンでいうと4戦あるので、チームとして考えないといけないことがあるわけです。スコッドに何人入れるか、どこで合宿するか、フランス戦からカナダ戦までどういうふうに戦っていくか、ということを決めていきます。

また外国出身選手をどれだけ入れるのかという話も出てきました。それなら協会が「もっと日本人を増やしなさい」などJKに伝えないといけない。外国出身選手の数や、NZにベストで戦うべきだったという議論はゲームの話とはズレているわけです。
誰を監督にするかを決めるのはユニオンのマネジメントです。このように問題を構造化して整理していくことが今、一番求められていることだと思います。

では、具体的に世界で勝っていくためにどうしたら良いのか。いま3つの柱を立てています。ひとつは優秀な人材を発掘していくこと。タレント発掘マネジメントです。他の競技をやっていた選手も含めて探しています。
そして、指導者育成。これは私が統括している分野です。あとはプログラム開発。プログラムとは大会を組むこともそうですし、合宿の時にどんなコンテンツ、指導マニュアルを持つかなども含まれます。

中竹竜二氏
中竹竜二氏

今年の2月にラグビー日本代表に関わる世代ごとの監督が一堂に会しました。私はこれが一貫性のコーチングのある意味、始まりかなと思っています。この話をフットボール学会でした時に、すごく反応してきた各国の方々が多かったです。私はずっとやりたいと思っていて、他の国はもうやっているだろうと思っていたんですが、サッカーもラグビーでも意外とやられていませんでした。代表のカテゴリーが変わると、方針もすり合わせていないところが多いわけです。これを毎年続けていって、高校生やU20、代表の合宿などで集まっていきたいと思っています。

日本はどうあるべきかと考えた時に、日本の特性を生かして低いタックルは捨ててはいけないと思います。かといって飛び込むタックルはせず、2人目はボールに絡むなど使い分けができるように。相手より走り切るスピード、抜くスピード。セットプレー。ショートラインアウトなど日本の独自性を生かす、使う……。そして、2019年に勝って喜んでいる姿をイメージしていかないとモチベーションが続かないと思います。勝利につながることをこれからやっていきたいと考えています。
選手に任せるのではなくて、世界一のコーチング。世界レベルの構造化ができて、コミュニケーション能力に長けたコーチをたくさんつくって彼らにやっていただきます。

時間はかかりますけど、燃え上がるような組織体にならないといけないわけです。ラグビーファミリー全体として協会とか選手だけでなく、ファンの方々を含めて一体となってやっていくことが19年の成功につながると思っています。

【質疑応答】

──今回話していただいた構造化などの話は、IRBの資格を取得したという話もありましたが、どのように学ばれたのでしょうか?

「今の仕事の前に早稲田大学の監督をやったんですけど、その前はラグビーの世界にいなくて、コンサルティングの仕事をしていました。その前にも留学をして、物事の視点をどう変えて見るかという社会学をやっていました。そういう意味では構造化することや、違う視点で物事を整理していくことは私がずっと専門にしてきたことで、この構造化とか仕組みを作っていくことに関してはIRBよりちょっと上にいってるかなと思います(笑)」

──一貫性のあるコーチングでチームごとの特色がなくなってしまわないでしょうか?

「素晴らしい質問だと思います。一貫性とは同じことをやれということではありません。やり方や考え方の一貫性だと思っています。どんなふうにコーチングをしていくかということに一貫性が必要だと思っています。接近プレーをやれというのは接近プレーというものを押しつけているんですが、相手を抜くためにいろいろな選択肢を考えて、自分たちで判断させるようなコーチングをしましょうと。そのひとつに接近プレーがあり、突進があり、パスで抜くことがあると。
答えがあるわけではなくて、答えを考えられる人を育てなくてはいけない。方針として一貫性を保つことが我々のやるべきことだと考えています」

──こうした講演やセミナーをもっと増やせますか?

「コーチの育成では研修をやっていますが、時期が限られています。内部では少しずつ増やしているんですが、日本にコーチが学ぶ文化がないんです。シーズンが終わった時に自身のコーチングがどうだったかと振り返るぐらい。僕自身、ド素人で監督をやったのでどうやって学ぼうかなと思っても清宮さんのビデオを見るしかなかったですから(笑)。
学ぶ場を作っていくことが大事だと思っています。若い世代を教える先生たちに言うのは練習を減らしてくださいと。『プロじゃなくて、毎日練習しているからプランニングやレビューはできない』と言われます。だったら練習を減らして一週間に一回でもスタッフがじっくり考える日にして、選手はウェイトをやるか、一緒に考えてもいい。
ユース世代がスコットランドに勝ちましたが、当然だと思っています。ユース世代で世界で一番練習しているのは日本です。毎日練習して週末も練習している。こんな国はほかにありません。それでも世界で一番強くなれてないのは練習効率が悪いからです。忙しいと言うなら練習を減らして準備して振り返って考える、考えさせる時間をつくってくださいと言っています」

■中竹氏に聞く「あなたにとってラグビーとは?」

「たくさんあるスポーツの中でいろいろいな人が活躍できるスポーツのひとつ。僕みたいなポテンシャルのない人間に活躍の場を与えてくれたスポーツだと思います。
逆に、僕はラグビーそのものへの思い入れはないんです。だからこそ客観的にラグビーの未開発の部分を冷静に見られるのかなと。僕自身はラグビーという競技に感謝しています。僕という人間が"活きる場"を与えてくれたスポーツだと思います」

今回のみなとスポーツフォーラムにおいて、参加者からの参加費と、会場での募金額の合計92,310円は、東日本大震災の義援金として日本赤十字社へ寄付させていただきます。

写真提供:スポーツナビ