Text by Kenji Demura

先手を打ってきたのはフランスだった。
もちろん、試合ではなく、メンバー発表時のやりとりでの話だが。
48時間前までの発表というルールを大きく前倒しするかたちで、フランスがW杯初戦のメンバー発表を行ったのは、日本との対戦までまだ100時間以上あった現地時間6日午前8時。
しかも、発表されたメンバー構成は、ある種の驚きを伴うものでもあった。
「ケガ人を除けば、ほぼベストと言っていい布陣。フランスが日本に関して真剣に戦わなければならない相手だと認識している証拠だろう」
そんなふうに、フランスの日本戦メンバーに関する印象を語ったのは、ジャン・ピエール・エリサルド前日本代表ヘッドコーチ。

RWC 9.10「フランス代表 vs 日本代表」プレビュー(プールA 第1戦) RWC 9.10「フランス代表 vs 日本代表」プレビュー(プールA 第1戦)
ジョン・カーワン ヘッドコーチ トンプソン選手

実際、フランス代表のマルク・リエブルモン監督がメンバー発表記者会見で強調していたのが、日本戦に"本気モード"で臨むということだった。

「日本は興味深い戦い方をするチーム。スピードがある選手が揃っている上に、攻守共に非常に組織化されている印象。当然、我々としても日本戦には真剣勝負で臨むことになる」(フランス代表マルク・リエブルモン監督)

スコッド中最多キャップを誇るFBダミアン・トライユ(84キャップ)こそ、負傷のためメンバー落ちしたものの、FLティエリー・デュソトワ主将をはじめ、HOウィリアム・セルヴァ、PRニコラ・マス、LOリオネル・ナレ、通算64キャップのFLイマノル・アリノルドキ、BKに目を移しても不動の指令塔になりつつあるSOフランスワ・トランデュック、CTBオレリアン・ルジュリー、そしてヴァンサン・クレールとマクシム・メダールの両WTBにFBセドリック・エイマンスなど、4年前にリエブルモン体制になってからも主力として活躍し続けてきたビッグネームがズラりと並んでいる。

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アイブス選手・大野選手 日和佐選手

もちろん、この4年間で世界ランキングを18位から13位に上げてきたジャパンにとって、その成長ぶりを世界に示すためにも、フランスがかっこうのチャレンジの相手であることは間違いない。

「こういう(フランスの)メンバーを待っていた」

フランスのメンバーを知った直後、一段と引き締まった表情でそう語ったのは、ジョン・カーワンヘッドコーチ。

菊谷崇主将も「すごいメンバーと試合できて光栄。いかに自分たちのテンポに持ち込めるか。日本のラグビーを世界に発信したい」と、相手のメンバーが決まったことで、本当の世界の強豪と対戦するイメージがよりクリアになったようでもあった。

7月下旬から3週間にわたってイタリア合宿を敢行したのも、何よりワールドカップ初戦で当たるフランス対策のため。
ことに、フランスの強力なスクラムに対応するため、その隣国でやはりFWにこだわりを持つイタリアとの対戦を組んだといってもよかった。
「世界一のスクラムにチャレンジしたい」と語るのはPR平島久照。

あるいは、次のようなエピソードさえ、フランスラグビーにおけるスクラムへのこだわりを裏付ける証拠と言えるかもしれない。
フランスのラグビー専門紙『ミディ・オリンピック』(8月8日号)で、W杯対戦国における「知られざる脅威」として裏1面全部を使って紹介されていたのが、その平島。
成長した日本の象徴として、その卓越したスクラムワークに着目していたのだ。
スクラム大国フランスの専門紙も認めたスクラムワークが、「イタリアよりもさらに個々のパワーが上回るイメージ」(平島)という相手にどこまで通用するのか。

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小野澤選手 フランス代表の記者会見

「イタリア戦ではマイボールスクラムに関しては良かったけど、相手ボールの時にプレッシャーを受ける場面もあった。フランスはさらに8人で押してくるイメージだと思うので、対応する必要はある。たとえば崩れてもボールを出せれば、フランスのスクラムを無力化することができるかもしれない」

平島同様スクラムのキーマンとなる畠山がそう語る通り、どんなかたちであれボールを供給できなければ、日本のペースに持ち込めないことは確かではある。

もちろん、過去のW杯で4強入りしなかったのは1度だけというフランスの強さは、スクラムだけにあるわけではない。

"シャンパンラグビー"とも呼ばれる、ボールキャリアに対して次々にフォローする選手が現れ、パスをつないでゲインを奪っていく奔放なアタッキングラグビーは常に世界を魅了してきた。
日本としては、スクラムなどのセットで対抗した後は、「3人とも同じチーム(トゥールーズ)でプレーしていてコンビネーションもいい」と、カーワンHCも警戒するWTBクレール、同メダール、FBエイマンスのバックスリーを中心に走り屋が揃うBK陣のアタックをしっかり止めることが、接戦に持ち込むための絶対条件となる。

RWC 9.10「フランス代表 vs 日本代表」プレビュー(プールA 第1戦) RWC 9.10「フランス代表 vs 日本代表」プレビュー(プールA 第1戦)
大畑選手(元日本代表)と握手する菊谷キャプテン 龍コリニアシ選手

「低いタックルで1人目で倒して、こっちのDFラインが前に出られるようにしたい」というのはNO8ホラニ龍コリニアシ。

そのホラニ、そしてCTBニコラスライアン、WTB遠藤幸佑などが、フランスのリエブルモン監督が注目する日本のプレーヤー。SOジェームス・アレジのキッキングゲームに関しても「洗練されている」と警戒していた。

アタックでは、前に出てくるフランスDFに対して、「フラットなかたちは変えないで、前に出られるか」(CTB平浩二)もポイントになる。フランス戦用に練習を重ねてきた、新たなサインプレーが見られる可能性もある。

これまでは、立ち上がりの時間帯に失点するケースも目立つジャパン。
「最初の20分間をいかにしっかり戦えるか。そのために、アップなどの方法も変えたり、メンタルを高めて臨む」(FL菊谷崇主将)
この4年間、ジャパンが積み上げてきたものは、世界の列強にどこまで通用するのか。
「やるべきことは明確なので、自分の役割を果たすだけ」(WTB小野澤宏時)
フランス戦の最初の20分間で、JKジャパンがどこまで進化してきたのか、その真相がある程度明らかになる。

RWC 9.10「フランス代表 vs 日本代表」プレビュー(プールA 第1戦)
日本代表の記者会見