第13回目の「みなとスポーツフォーラム~2019年ラグビーワールドカップに向けて~」はスポーツジャーナリストの中西哲生氏をお迎えし、「スポーツが持つ力」をテーマに6月20日(月)、麻布区民センターにて行いました。

サッカー選手として、またスポーツジャーナリストとしてのご経験から、スポーツの持つ力、スポーツが震災復興に役立てるとしたら、どういったことか。また、国際大会が選手に与える影響、ファンに与える影響と2019年にラグビーワールドカップ開催を控える日本のラグビー界への提言といった興味深いテーマをたっぷりとお話しいただきました。

中西哲生氏
中西哲生氏

【スポーツとは何か】
スポーツとは「教育の場」であると中西氏は述べられました。子供の理想像として挙げられる、健やかな体、豊かな心を育む場であると。自分一人では何もできないということもスポーツを通して実感できる、まさしくスポーツが一番力となるのは教育の場であると述べられました。
では、一流のサッカー選手に求められる資質は何か。
それは、たくさん点を取る選手、技術が優れた選手ということではなく、選手である以前に一人の大人として立派な選手であり、ファンやサポーターに夢や感動を与えられる選手であることが何より大事であるといいます。また、パーソナリティに触れさせることができる、つまり自分自身の本当の姿や、生き様を見せられる選手こそ愛される選手であると述べられました。例えばマナー、TPO、言動、立ち居振る舞い、周囲への敬意、謙虚な心といったことに心がけ、社会的模範となることがパブリックに生きる人間の使命であると話されました。

【スポーツを教え、伝える取り組み】
中西氏は「教育の場」としてのスポーツを考えた時、スポーツに取り組む環境は3つ、学校、家庭、地域(行政、スポーツクラブ)を挙げられました。またこれらがそれぞれで活動をするのではなく、連携してできることが理想であると話されました。中西氏ご自身がなさっている取り組みとして「中西シート」(川崎フロンターレの試合で毎回数名分の席を確保し招待する取り組み。試合観戦だけではなくピッチに降りたり、芝生を触ったりもする)や、(財)日本サッカー協会で行っている「JFAこころのプロジェクト“夢先生”」を紹介されました。このような取り組みを通して中西氏は夢を持つことの大切さや、仲間と協力することの大切さを伝えていきたいと話されました。またスポーツをしている瞬間は打ち込んだり、日常を忘れられたりする良さもある。先日被災地で子供たちと交流した際には「一生忘れません」と言われた。この言葉はとても心に響いたし、スポーツを一生続けていきたい、スポーツっていいなと改めて思ったと述べられました。

【ワールドカップの影響とは】
2002年のサッカーワールドカップ日韓大会を例として、ワールドカップの影響として3つのことを挙げられました。一つ目は、「地域と国の繋がり」。カメルーン代表のキャンプ地として当時も有名になった大分県中津江村やイタリア代表のキャンプ地であった宮城県仙台市とのその後の交流について話されました。二つ目に「人と人のつながり」。日本人のホスピタリティが世界で称賛されたように、人と人との交流によって日本という国を世界に見せることになると述べられました。三つ目は「地域スポーツの活性化」。アルビレックス新潟のように、日本各地でスタジアム建設などが進められ、地域スポーツが根付くきっかけとなると述べられました。

【海外で活躍する日本人選手】
海外で活躍する日本人選手として、長友佑都選手(インテル・ミラノ)を挙げられました。彼のすごい所を中西氏は「世界一のサイドバックになります!」と常に元気があって前向きで夢を口に出し続けていることころであると話されました。海外のチームメイトからも「彼は今までの日本人とは違う。彼はラテンだ」と言わせるほど、コミュニケーション力があって、どこでも話しかける人柄、周囲に馴染む力があると述べられました。海外で活躍するためには、技術はもちろん、人間的にオープンマインドで馴染む力がなくてはならないと話されました。また「夢を語る」ことについて、中西氏ご自身も子供たちに接する際、夢を聞くようにしているそうです。なぜならば、口に出して夢を語ることは現在の自分の位置確認となり、失敗にもこだわらなくなる。周囲からも自分の夢への後押しを受けることができ、夢の実現に繋がると述べられました。


【質疑応答】

ジャーナリストとして難しいポイントは何ですか?
「ジャーナリストであるということは論理的に、どうすればよいかの提言ができなければなりません。自分だから言えるという力を見せなければならないし、想像力を持って伝えることを大切にしています。良かった点、良くなかった点、どうすれば良くなるかまで話をするということです」

なぜジャーナリストになられたのですか?
「サッカーのみならず、スポーツ界に生きる人間としてスポーツの素晴らしさを伝え、スポーツの社会的地位向上を目指したいからです。スポーツのおかげで自分がここまできたことへの恩返しとも考えています」

ラグビー界にあってサッカー界にないものは何ですか?
「知人に『サッカー選手は一人で喜び過ぎだ』と言われたこともありますが、ラグビーで点を取った後の選手の姿や全員でトライをかみしめる姿はサッカーにはないと思います。どのスポーツにも良い所、参考になるところがありますね」

指導者にはなられないのですか?
「これまで自分には教える才能はないと思っていました。しかし2007年には日本サッカー協会の指導者ライセンスのC級を取得しました。B級、A級、S級とまだまだ上があるのですが、仕事上のスケジュールで取得が厳しいです。仕事が落ち着いたら、イタリアに行き、ライセンスを所得したいと考えています。56歳~60際の時に指導者として勝負をかけられるようになっていたいと思います」

震災の時、ラジオのパーソナリティでずっと声をかけられているのが印象的でした。
「震災を経験し、人生が変わったと思います。毎日寄せられる声に涙が止まりませんでした。自分が泣いてもしょうがないけれども、何もできないことがもどかしかったです。以降、誰かのために生きるということを考えるようになったし、メディアにいる人間として自分ができることをやっていきたいと思います。サッカー日本代表がワールドカップで優勝することが今の目標です」

サッカー界にあってラグビー界にないものは何ですか?
「ラグビー界をみていて感じることは、すごく一体感があるということです。しかし一体感があるが故に円滑に進めるには障害があるのかもしれないですね。サッカー界にももちろん以前はありました。しかし、若手の意見だったり、メディアとの共存だったり新しい血をいれていくことで変わったのだと思います」

ラグビー選手の育成システムについてどうお考えですか?
「ラグビー界にも若いうちから才能を発揮する選手はたくさんいるかと思います。サッカー界でも行っていることではありますが、才能のある人にどんどん機会を与える、特に高校世代の選手に注目して、国際環境を体験させるなどしていくことが必要ではと思います」

ラグビーのプロ化は必要だと思いますか?
「ラグビーは企業スポーツの側面があると思います。しかし、むしろその良さを広げていけばよいと思います。社会人としての仕事もしながら選手はプレーしていて、人間力を向上させることに繋がっていると思います。そのような企業スポーツである日本独自の発展方法があるはずです。それは、マスのファンではなくコアのファンを作ることかもしれませんし、プロリーグを目指す道というよりは、何をもって成功で、どう見せたいのかを明確にすることだと思います」

ラグビースクールに通う5歳の子供がまわりの子にちょっかいを出すなど真面目に取り組みません。どうすればよいしょうか?
「もしかするとそれも一つの才能なのかもしれませんね。大人はまわりと同じにできることを良いと考えがちですが、そうではなく、それも個性ですよね。大人からみると迷惑な行動をしているわが子が心配になるかもしれませんが、子供同士で解決しているのであればそれでいいと思います。僕も子どもたちに教えていていろんなタイプの子供がいると実感しています。あまり心配なさらないで子供の個性を大切にしてほしいと思います」

今回のみなとスポーツフォーラムにおいて、参加者からの参加費と、会場での募金額の合計37,133円は、東日本大震災の義援金として日本赤十字社へ寄付させていただきます。