text by Kenji Demura
湿度が限りなく100%に近い過酷な条件の中、昨季の"アジアNO2"を完封してみせたカザフスタン戦から6日。
アラブ首長国連邦(UAE)を中心にしながらもカタールやクウェートなど、中東・湾岸地区を横断する代表チームとして存在していた「アラビアンガルフ代表」が解体となり、今季からは単独でアジア5カ国対抗に参加することになったUAE代表。
単独チームになったとはいえ、2週間前にホームゲームでカザフスタンを24-10で破ってもいた。
日本の先発メンバーはカザフスタン戦から11人が入れ替え。特に、BKに関しては2試合連続してキックオフ時にピッチに立っていたのは上田泰平のみ。その上田もポジションはWTBからCTBへと変更になっていた。
「BKを見てみたい」(ジョン・カーワンヘッドコーチ)
カザフスタン戦ではHO木津武士が4トライを奪うなど、8トライのうちFWで奪ったものが6個。
「自分のトライはFWのみんなが仕事をしてくれたおかげ」と、代表1試合目の先発にして、いきなり1試合=4トライという離れ業をやってのけた木津が語ったとおり、セットにしろ、モールにしろ(実際、木津が挙げた4トライ中3トライがラインアウト→モールでのものだった)、FWプレーに関しては、今季初戦だった香港戦に比べて格段の進歩が見られたのは紛れもない事実だった。
その一方で、4月の宮崎合宿から取り入れられている、浅く、フラットなラインを敷きながらボールをどんどん動かしてテンポ良く攻めるBKの新しいアタックには、まだまだミスが目立っていた。
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ニコラス選手 |
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大野ゲームキャプテン |
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菊谷選手 |
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宇薄選手 |
次はBK──。
カーワンHCがUAE戦のポイントをそう考えるのも当然と言えた。
結論から言うなら、前節からほぼ総入れ替えとなったBK陣は、見事に期待に応えてみせた。
キックオフ直後のセンタースクラムから右、左にテンポ良く攻め続けて一気に敵陣深く攻め込んだ後、ゴール前スクラムから4試合ぶりに指令塔に復帰したSOジェームス・アレジがDFラインのギャップをついて、あっさり先制(2分)。
以降、BKのアタックという面では、過去のカーワンジャパンの歴史をひも解いても、トップクラスに位置するようなパフォーマンスを見せつけて、111-0というアジア5カ国史上最多得点差記録を更新する大勝をものにした。
前半9個、後半8個の計17トライ。そのうちBK陣が記録したものが13トライ。
もちろん、単純には比較できないものの、8トライ中6個がFWによるものだった6日前のバンコクでの試合とは、全く内容の異なるパフォーマンスだったことは間違いない。
「今日はBKが取り切ってくれた」
福島県郡山市出身で、原発事故に苦しむ人、そして日々原発事故処理のために現場で奮闘する人にもメッセージが伝わるようにと、カーワンHCからこの日のゲームキャプテンに指名されたLO大野均も試合後、BK陣の進化に言及。
カザフスタン戦前の練習では鬼の形相で叱咤激励を飛ばす場面もあったカーワンHKも、UAE戦直後は満面の笑みで「BKはみんな良かった」と手放しで喜んだほど。
ちなみにカーワンHCとは試合翌日にも顔を合わせたが、その際にも「ビデオでもチェックしましたが、凄くいい」と高評価は変わっていなかった。
代表初キャップだった香港戦では「全然さばけなかった」と語っていたSH日和佐篤だが、この日は本来の動きを取り戻して、BKラインに生きたボールを供給し続けて、攻撃テンポを作り出すのに成功。
「ウェールズ、イングランドと、プレッシャーのかかる状況でプレーすることによって成長できていると思う」と語るSOアレジは、実に絶妙なバランスでパス、ラン、そして憎らしいほど絶妙なキックを散りばめ、「BK全体をよく仕切っていた」(カーワンHC)。
ブルドーザーのように相手ラインを突き破る走りが健在であるところを見せたWTB遠藤幸佑、そしてラインに入ってくるタイミングとスピードでは他の追随を許さないFB有賀剛の復帰組。さらに、初キャップながらいきなり4トライの離れ業をやってのけたWTB宇薄岳央と、誰がマン・オブ・ザ・マッチになってもおかしくないほど、それぞれが特徴のあるプレーぶりを披露した。
もちろん、前試合の木津に続いてニューヒーローになった宇薄が「(自分のトライは)FWの我慢のおかげ」と語ったとおり、BKが思いどおりに動き回れたのも、FWがしっかり仕事をしていたから。
そのFWにしても、BKがテンポ良く攻めることは「凄くやりすい、セットプレーから常に前の方向にサポートできるので、理想のかたち」(PR平島久照)だという。
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111-0で勝利 |
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会見の模様 |
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単純な気温では香港よりも、バンコクをも上回るドバイ。ただし、湿度は一気に少なくなり、ナイターゲームということもあって、試合中の選手の消耗度は意外に少なかったことが好影響を与えた面もあっただろう。
そして、相手のレベルという意味でも、これくらいはやれて当然でもある。
「ようやくあるべきレベルにいけた。目標はここではないので、ここから下げないようにしないと」(FB有賀剛)
カーワンジャパンはW杯に向けて上昇気流に乗る軌道が想像できる、価値あるアジア3戦目になったことは間違いない。
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