第47回 全国大学選手権大会
全国大学選手権プレイベント熱戦が期待される大学選手権に先立って、今年も「大学ラグビー トークバトル」が開催されました。各監督の秘めたる闘志、そして試合観や選手育成に対する考え方など、今回も熱いトークが繰り広げられました。さあ、舌戦のキックオフです。

 

「大学ラグビートークバトル」

■「全国大学ラグビー トークバトル2010」出演者

○パネリスト
(あいうえお順)
岩出雅之 監督(帝京大学)
木村季由 監督(東海大学)
辻 高志 監督(早稲田大学)
林 雅人 監督(慶應義塾大学)
吉田義人 監督(明治大学)
○コーディネーター

村上晃一(ラグビージャーナリスト)

○司会
豊原謙二郎(NHKアナウンサー)

 

 

豊原: 全国大学ラグビー トークバトル2010。さっそく本題に入りましょう。前回大会は12年ぶりに新チャンピオンが誕生する大学選手権になりました。帝京大学が見事に初の栄冠を勝ち取りましたが、今年はどうなっていくのかを監督の皆さんに伺ってまいります。
しかし、その前に今回ご登場していただきました監督の皆さんに、ある方々からメッセージをいただきましたので、まずはそちらをご覧ください。
ビデオによる監督へのメッセージ
●帝京大学 吉田光治郎キャプテン
『自分たちをここまで引っ張ってきてくれて、ありがとうございます。これからは監督、チームスタッフ全員、部員一丸となって、大学選手権では監督をもう一度胴上げできるように頑張っていきたいと思っているので、これからもよろしくお願いします』
豊原: どんなふうにお聞きになりましたか。
岩出: 今日も「渇」を入れてきたんですが、なんかこう…グッときますね。一緒に頑張っていきたいと思います。
豊原: 記者会見では、吉田キャプテンがいい言葉を投げかけるシーンもありましたけど、どんなキャプテンですか?
岩出: いいキャプテンです。まわりが彼に頼りすぎることがあるので、そういう意味では、もう少し伸び伸びやってほしいと思います。
豊原: では続いて東海大学の木村監督には、この方から。
●東海大学 前川鐘平キャプテン
『去年は決勝で負けて悔しい思いをしたので、今年こそ優勝して監督を胴上げしたいと思います。あと少しですが、よろしくお願いします』
豊原: 笑いをかみ殺しているようでしたが。
木村: あと少し、というのが寂しいなあと思います。入学してきてから4年。特別な思いがありますので、少しでも長く一緒にいたいと思います。
●早稲田大学 有田隆平キャプテン
『え~、辻さん。(トークで)カまないように。ほかの大学をトークで圧倒してください。お願いします』
豊原: 激励が届きましたが…
辻: カまないように、頑張ります。親孝行の息子を持ちました。うれしいですね。
豊原: このトークバトルについて、どなたかからアドバイスとかあったのですか?
辻: さっき林監督から「戦ってこい」と。
豊原: では林監督には、こちらの方から。
●慶應義塾大学 竹本竜太郎キャプテン
『一戦一戦、慶應らしく戦って、あとは、まっとさんが示してくれた道を選手が信じていくだけなので、これからもよろしくお願いします』
豊原: 男前ですね。ちょっと緊張しているように見えましたが。
林: 早稲田の余裕のコメントと違って、ちょっと恥ずかしいです。
村上: まっとさん、と呼んでいましたか?
林: 馬鹿にしてんじゃないですか(笑)。あいつらしい、場を読めない、まじめなトークで、いいと思います。
豊原: 次は、こちらのキャプテンです。
●明治大学 杉本博昭キャプテン
『いつもチームをみていただいていて、本当に選手と監督が信頼しあっている関係で、良い雰囲気だと思いますので、優勝にむけてもう一度頑張っていきたいと思います。あと少しで大学選手権が始まりますが、よろしくお願いします』
豊原: 大きくうなずきながら聞いていました。
吉田: キャプテンが覚悟を決めて、日本一になりたいという気持ちでいますので、私も常に全力でやっています。男と男の本気の勝負を一緒にやって、彼ら4年生を(優勝させて)卒業させてやりたいと思っています。
トークバトル2010

 

抽選会、そして初戦への思い
豊原: では、ここからは監督に主役となってもらいトークバトルを展開していただきたいと思います。まず、今年のトーナメント表をご覧いただきましょう。先日、組み合わせ抽選会が行われました。村上さん、この組み合わせはいかがでしょう。
村上: (今回は)抽選方法を少し変えて、同じリーグの大学がなるべく当たらないように工夫しました。うまく振り分けられたと思います。皆さんの注目は、帝京がどこにくるか、ということでした。
流通経済大学と筑波大学は屈指の好カードになるかもしれません。ここにいる監督の皆さんは正月を越して、国立競技場へ行くつもりだと思います。しかし(今回の組合わせで)どうしても上がれないのは、帝京か慶應のどちらかということになりますね。
豊原: 帝京がどこに入るかに注目が集まり、去年も一昨年も抽選の前に岩出監督が、どの監督の隣に座ったかが話題になっていました。今年はどうだったのでしょう。
岩出: 今年は桜井さん(関東学院大学監督)と握手をして、それで決まりました。3年連続で引き当てました。一昨年は林監督の隣に座りまして、そのまま組み合わせも一緒でした。去年は林さんが僕からかなり遠ざかって、視線も合わさないような感じでした(笑)。去年は最初、中竹さん(早稲田大学の前監督)と話をしまして、そこに桜井監督が来られて、「一緒になるよ」と言っていたら、本当にそのまま一回戦が関東学院、二回戦は早稲田になりました。
今年は木村監督も僕を避けて、会場に時間をずらしてギリギリに入っていらっしゃるくらい徹底していましたね。「棄権ですか?」と聞いたら、ムッとした顔をしていました。会場の席でも、僕のほうを見ないんですよ。もう友だちをやめようかと思いました。
岩出監督 岩出監督
(帝京大学)

 

村上: 木村さんは、だいぶ意識されたていたんですか。
木村: 覚えてないですけど…。友だちと言ってますが、先輩ですから。一生、先輩ですから、あまり近づかないようにしておこうと…。
豊原: その結果、関東学院大学と2年連続で初戦に当たりました。
岩出: 決して油断のできる相手ではないので、気を引き締めています。昨年も同点でしたから。ここでしっかり去年の結着をつけて、次の近畿大学…違いますね、慶應大学への勢いをつけたいと思います。
村上: 林監督。(帝京の)ビデオとか分析とかは、もうしなくてもいい感じですか?
林: いやいや観ていますよ。ただ(映像の)手振れがすごくて…。
豊原: 木村監督は、今回の組み合わせはいかがですか。
木村: うちは関西のチームと当たることが多く、関西出身の選手も多いので、みんな楽しみにしているみたいです。
豊原: 初戦は京都産業大学と岐阜の朝日大学の勝者というカタチになっています。
豊原: 辻監督はいかがでしょう。
辻: 抽選かん…抽選会は…
村上: 噛みまくってますね。(会場爆笑)
辻: 学生を怒るときも噛みまくって、まったく効果がないこともあります。抽選会はすごくドキドキしました。残り3枠で帝京さんが残っていて、これは去年と一緒で来るかな、と思いましたが、ほかのところへ行ってくれて正直ホッとしました。
辻監督 辻監督
(早稲田大学)

 

豊原: やはり帝京は気になるんですね。初戦は大阪体育大学です。
辻: はい。どうですか村上さん。(注:村上氏は大阪体育大学出身)
村上: 大体大は練習試合でも、早稲田に一回も勝ったことがないんです。歴史上、一番苦手なチームなんです。ただ清宮さん(早稲田大学の元監督)が監督一年目に秩父宮で、負けそうになりました。
辻: そうですね。僕もそのイメージが最初にあって。
村上: 早稲田が50点ぐらいとって、清宮さんが安心してリザーブの選手を全部出したら、急に盛り返されてしまって。もうあと5分ぐらいあったら、逆転されていたかもしれなかった。あのとき負けていたら、清宮さんは監督を辞めて、そのあとの早稲田(の快進撃)はなかったかも。侮ってはいけないですね。清宮さんも、中竹さんも、就任一年目は優勝していませんしね。
豊原: さらっと重要なことをおっしゃいましたね。
辻: まずは大阪体育大学にむけて、全力を尽くしたいと思います。(会場から拍手)
豊原: 林監督はいかがですか。
林: まずは近畿大学との試合をしっかり準備したいと思います。どうしても無事に勝つことを夢をみるじゃあないですか。そうすると(次は)帝京と関東のどっちか…まあ、ひとつずつ勝っていきたいですね。
豊原: 去年と同じように、初戦が遠征になりましたが。
林: そうですね。大阪に一回戦で行くと調子がいい…と自分で思って慰めながらやっています。遠征は雰囲気が変わるので、それはそれでいいかなと。
豊原: 吉田監督は抽選を終えていかがですか。
吉田: 決まったなあ、という感じです。もともとどことやっても、明治が今年やってきたラグビーを心がけるだけです。
豊原: まず中央大学。それを突破すると筑波と流経大の勝者という組み合わせですが、それぞれの印象は?
吉田: 対抗戦で筑波には昨年は完敗。今年はなんとか主導権がとれて、勝たせてもらいました。非常に崩れない、規律の正しいチームなので、わたしがチームを作るうえで筑波さんにはたくさん学ばせてもらいました。選手たちもあの戦いのあと、大きく成長したと思います。
豊原: まずは初戦を突破して…そのあとのことは伺いづらいところですね。
村上: 大学生は一戦一戦ごとに強くなるので、ここで勝つのと負けるのとでは来年のチームが違ってきます。監督の皆さんは、一個でも上にいきたいと思っているはずです。
各チームの注目ポイント
豊原: 次に、今年の各チームの注目点をみていきたいと思います。まずは映像をご覧ください。帝京大学と筑波大学。10月17日の試合です。岩出監督、今年の筑波戦はいかがでしたか。
岩出: 最後の最後までわからないゲームだったと思います。去年は負けていますし…いい選手も揃ってきているので、なかなか侮れない。若い選手も多いし、気をつけたいです。
村上: 帝京は、ゆっくりチームを仕上げる感じですか。対抗戦では、まだ調子が上がってこなかったとか。
岩出: カラダのピークと心のピークがあると思うので、対抗戦でいい結果を出すことは大事ですが、それで達成感を得てしまって、もう一度気持ちが高まってこないと困ります。そこにポイントをおいて調整しようと思っています。この後どのくらい調子が上がってくるか、僕自身も楽しみにしているところです。
豊原: この試合は10-0とスコアがひらきまして、そこから逆転という試合でした。
村上: 今、かなり喜んでましたけれど。
岩出: 恥ずかしいです。テレビは気をつけないといけないですね。あとから、ここまで(映像が)でてくるとは。
豊原: 続きまして東海大学と関東学院の試合です。木村監督、これは前の法政戦で、苦しんだ後の試合ですよね。
木村: 法政戦ではきれいにやろうとしすぎて、自分たちが強みにしていた戦い方と少しずれていた感じでした。関東戦に関しては、攻撃だけを意識しました。関東学院は尻上がりにチーム力が上がってくるし、伝統的に力があるチームです。ブレイクダウンも簡単にはいけないから、(選手には)「人数かけてでも激しくいけ」と、かなり意識させていました。
木村監督 木村監督
(東海大学)

 

村上: 意外と前川君は足が速かったですね。
木村: 177センチで100キロちょっとなので、一般的には肥満なんですが、彼は高校から趣味がウエイトトレーニングで、すごく鍛えていて体脂肪もほとんどないんです。低圧室に入っての持久力アップするトレーニングをしたり、スプリントトレーニングをしていますが、彼には効果があるみたいで、どんどん足が速くなってきました。
村上: スプリントトレーニングは、ずっとやっているんですか。
木村: 春から陸上の先生にお願いしてやっています。各選手とも、走り方が変わってきましたね。自分にはちょっとできない、結構えげつないトレーニングをやっています。うちの大学の先生なんですが、陸上競技の高野さん(バルセロナ・オリンピックなどで活躍)と一緒に指導している短距離の先生なんで、学生も言うことを聞かざるをえない感じです。
豊原: これまで全勝で、死角無しに見えますが。
木村: 岩出監督がおっしゃったように、ここで達成感を感じて満足してしまうのが一番こわいので、リーグ戦が終わってからは、またさらに厳しく(練習を)やっています。
村上: 東海大はバランスが取れていますよね。フォワードでゴリゴリいけばいいのにと思っていると、きれいに展開したり。
木村: もうちょっと行けばというところでボールを出したり、まだその辺がうまくできていないところもあります。自分たちで何でもできる、と勝手に思っているところもあってですね…。
豊原: 3年連続、負け無しでリーグ戦を終え、大学選手権ということになります。最後のトライをあげたのは新田浩一選手(プロップ)ですね。春はリザーブだった選手ですからね。層も厚くなってきている東海大学です。続いては、この試合をご覧いただきましょう。11月23日の早慶戦です。今年も非常に激しい試合になりました。前半はペナルティゴール1本ずつという試合でした。辻さんは、どうご覧になっていましたか?
辻: 慶應が相手なので確実にセットしていきたいと考えていました。
豊原: 話題になったシーンもありました。(インゴールに入ったように見えてノックオン)この瞬間は?
辻: 両手でトライすることを教えていなかったので、すごい責任を感じています。林さんのこだわりは、両手トライなんですよね。監督就任のとき、これは守ってくれ、ということで「両手トライ」をあげたと聞いて、僕もそうすればよかったと思いました。
林: 教えていなくてよかったです。(会場から笑い)
村上: 慶應のディフェンスは素晴らしかったですね。前半で感動されたとか。
林: 感動してしまって、関係者ではなくなっていました。
豊原: 古岡承勲選手(スクラムハーフ)が、非常にディフェンスを頑張っていましたね。
林: はい。足が速くて、あきらめない。普通はいないようなところに彼はいるんです。でも教えても練習では、あんなプレッシャーにはいけませんが。こうして観ると抜かれたりして、劇的なシーンを自分たちで演出しているみたいですね。
林監督 林監督
(慶應義塾大学)

 

豊原: 自作自演ですか。早稲田にしてみると、(主導権を)とらせてくれなかったという感じですか。
辻: ゴール前5メーターのところは厚かったですね。
豊原: いい試合なので、映像を観ちゃいますね。
村上: 林さんも観ていたんですか。
林: そうですね。指示なんか忘れていました。
豊原: 去年のこと(早稲田が逆転)が、脳裏によみがえったのでは?
林: よみがえりまくりで、ハラハラしてました。
豊原: 木村監督は去年のこの場で、早慶戦の試合を観て、東海の選手たちの心に火が着いたという話がありました
木村: 今年もたぶん火が着いていると思います。
豊原: この試合のあとに対戦することになっていた吉田監督は、どのようにご覧になっていましたか。
吉田: 慶應さんの魂が‥‥グランドまわりに、ダーっとかたまりでいるなあ、という印象でした。
村上: 早稲田に勝ってほしい、という発言もありましたが。
吉田: わたしが選手のときも国立で、全勝で早稲田さんと対決して、それが素晴らしい思い出としてありましたので、学生にとっても早稲田さんとの対抗戦の最終ゲームですから、できれば(早稲田も明治も)全勝で戦いたかったと‥‥慶應の林さんには失礼ですけどと、しっかり説明して‥‥。
吉田監督 吉田監督
(明治大学)

 

林: ものすごく微妙(な話)ですね(笑)。
豊原: そしてその早明戦。前半、明治はフォワードで徹底的にいってましたね。
吉田: はい。ゲームプランどおりです。まずは相手を崩す、真っ向勝負を挑む、というのが明治のスタイルですから、それをしっかり実践してくれていると、頼もしくスタンドから観ていました。
村上: 早明戦では選手の能力が、ワッと開花するイメージがあるのですが、今回は早稲田の選手がとても開花しましたね。
吉田: 不思議なもので早慶戦、早明戦は不利といわれているほうが、2割増しぐらいの力を発揮するんです。そういう伝統はあると思います。
豊原: 試合前に取材に伺ったところ、ゴール前5メートルぐらいで早稲田がガンガン来ることを想定して、それに耐えるような練習をしていました。試合展開は、まさにその通りになりました。
吉田: 一番なってほしくない展開になってしまいました。試合後、選手に聞いたら「スタンドから『明治、明治』というコールが背中に響いて、これが早明戦かと思った」と言ってました。
豊原: そして満員でした。前売りの段階で指定券が完売。入場者4万2千という発表です。
村上: 吉田監督のときは6万人ぐらい入って、超満員でしたね…また悔しさがよみがえってきましたか? (映像で早稲田のトライが映される)片手トライだ…。
林: この伝統は、ぜひ守ってもらいたいですね。(会場から笑い)
村上: (早稲田が勝って、トライ数も上回れば早稲田が優勝という状況で)トライ数のことは気にしながら試合をしていたのですか?
辻: いえ。選手にも「トライ数は気にするな。まずは勝つことだ」と言ってました。前半ハーフウェーラインあたりからゴールを狙ったのも、とにかく勝つためにということです。
村上: 吉田さんは、どうなれば優勝か、わかっていましたか。
吉田: わかっていましたが、邪心や邪念を取っ払って、選手には勝負をしっかりと気持ちを入れてやるように、と言っていました。でも、なんで3位なんだろう。まあ3校優勝かな、と思っています。大学選手権のトーナメントで、どこに入るかを決めないといけないので、順位づけをしたんだと思うんです。学生には3校優勝で、自分たちは優勝したんだ、という誇りを持ってほしいと思います。(注:関東大学対抗戦Aは、早稲田・慶應・明治すべてが6勝1敗で並んだ)
村上: もともと対抗戦は、優勝とか決めてなかったですからね。(3校優勝という考えに対して)林さんはいかがですか?
林: まあ、賛成(明治)、賛成(慶應)、反対(早稲田)でしょうね。(会場爆笑)

part 2 へ続く