「みなとスポーツフォーラム~2019年ラグビーワールドカップに向けて~」の第四回目は、神戸製鋼コベルコスティーラーズGM兼総監督の平尾誠二氏をお迎えし、9月7日に開催しました。会場は300名近い聴講者であふれ、大盛況のうちにフォーラムが開始されました。
今回のテーマは「スポーツの価値とワールドカップ」。これまでのラグビー人生や、自らが理事長を務めるスポーツNPO「SCIX」での活動などを通し感じたスポーツの持つ価値や意義、地域や人に対する影響力などについて語っていただきました。

平尾誠二氏  
平尾誠二氏

<スポーツの価値とは>
平尾氏は近年、ワールドカップやオリンピックの日本招致活動において「経済効果」に目を向け過ぎであることを指摘。スポーツの価値の本質とは測りきれない、人間の内面的な感情の起伏をもたらすものであるといいます。人間が一皮むけて、大きくなるためにはスポーツに触れることが大きな原動力となると述べられました。それはスポーツにおいて「やれば何でもできる」「やれなかったことができるようになる」という経験を得られるからだといいます。「できないことができるようになるという達成感や爽快感も得られる。スポーツを見て、触れることにより人生を変えることもある。一人でも多くの方に触れていただきたい」と述べられました。

<ラグビーワールドカップについて>
ワールドカップが開催される以前は、「テストマッチ」としてホームかアウェイで試合を行うのが当然だったことに触れられ、「ワールドカップが開催されるようになり、日本代表の試合数、選手の代表キャップ数も増えた。日本代表となり、ワールドカップに出場するという選手の大きな目標となったことはすばらしい」と述べられました。また、「開催回数が増すごとに、大会のクオリティは上がっている。開催国でボランティア、市民が参加するのは当たり前の光景になってきている。2019年日本開催時、秩父宮ラグビー場でも港区の方のお手伝いを期待したい。そして、それがやりがいに思える土壌づくりによって、もっともっと魅力的にしていくべきだ」と港区に対するメッセージもいただきました。

<若い人たちへ>
「今の若い子たちはみんな良い子である。規律が守れて、まとめやすい」と述べられた上で、「昔は先生が厳しかった。体罰もあった。それが全て良いということではないが、なにクソと思う力が今はないのではないかと思う。跳ね返りの力、というかハングリー精神がやや不足していると思うことがある」とも述べられました。「組織にはある程度の理不尽さが必要ではないか。それを乗り越えて強くなることに繋がる。為してやるという気持ちで、理不尽さに勝つことが自信となる」とおっしゃいました。

フォーラム参加者との質疑応答

2019年ワールドカップ日本開催時、スタジアムをいっぱいにするために何が必要か。以前に比べ、ラグビーを見なくなった人を呼ぶためには何が必要だと思いますか。
「ゲームの質もあります。代表を強くすることで興味が増えると思います。ラグビーにはやはり独特な見方があると最近になって気づきました。サッカーなどと違って常にワーッと騒いでみるのではなく、黙って静寂を保つ瞬間があります。ラグビー通のおじさんを見ていて気づいたのですが、"視線を強く、ピンチの時に、膝に手を置き、中腰になる"。そして、トライの瞬間やピンチをしのいだ時など一瞬にしてどよめきが起こるんですよ。これがラグビーです。ある意味、宝塚ファンに通じるものがあると私は考えていて、ラグビー通の方たちが感じ取っているアイデンティティを残しながら、サッカーなどとは違うマーケットで、ファンを増加させることとのバランスをとることが大事だと思います」

サッカー協会の理事をされていた経験から、ラグビー界に取り入れる要素はありますか。
「まず、予算の量が違います。サッカー協会では底辺拡大ということで、小学校などに芝のグラウンドを作るということなどもやっており、素晴らしいことだと思います。また、レフリーの強化を重要視しており、その視点は大切だと思いました。サッカーワールドカップの準決勝では西村さんという日本人レフリーの方が笛を吹かれました。レフリーのレベルが上がることは、競技力の向上につながります。ルールの認識や、人間の目で判断することなので能力が必要です。レフリーを育てることが大事だと思います」

サッカーのここ数年の進化から、ラグビー界でこの先9年間でやるべきことは何だと思いますか。
「私はNPO『SCIX』でインテリジェンス講座を開いています。この方の話を聞いてみたいという人をお呼びしているのですが、その第1回では加藤久さんという当時サッカー協会の強化委員長をやられていた方をお呼びしました。その時に、サッカーが急激に強くなったのはなぜかと尋ねたところ、一言『パスが速くなった』とおっしゃったのです。それは土のグラウンドから、芝のグラウンドが増え、それによりボールのスピードが上がり、その結果トラップする力がついたとのことでした。一見単純な気づきでも向上させるのは大変で時間がかかります。それをやり続けることが大切です。また、環境を整えることで実現することもあります。ラグビー界でもトップリーグに外国人選手が多く参入しスタンダードを上げたことにより、すごくプレーのレベルが上がり、それが代表の強化につながっています」

講演の中でお話があった理不尽さを生かしたコーチングを導入していますか。
「そうできたらいいなと思っているだけです。(笑)
感情をぶつけるというのはあると思います。サッカーの岡田監督が今の若い人たちの気質は『勝っても喜ばない、負けても悔しがらない、何がおもしろいのかな?』って言っておられました。チームが感情をもつ、というのを私はチームのカルチャーと言います。組織にも表情や感情というのがないと無機質で繁栄しないものとなってしまいます。指導者はそれを引き出すように仕掛けてやる必要があります」

幼児から中学生へのコーチングはどうしたらよいと思いますか。
「難しいことを言わないことですね。この競技はなんて面白いのかと思わせる。印象を与えるというのが全てだと思います。良いコーチはシンプルでわかりやすい。我慢して、真髄をどう伝えるかが大事だと思います」

伏見工高時代の山口良治監督のような生徒を熱くする指導者はどうしたら生まれると思いますか。また平尾さんの人生にどう影響を与えましたか。
「作ってできるものではないです。自分の人生をかけて教えているのです。他の人には真似できない、生まれたときからの、価値観や人柄がそうさせているのでしょうね。人それぞれ、自分のスタイル、できることを見つけられればいいと思います」
「人生に影響を与えたこと…全部プラスではないですよ。総じて良かったと思えます。山口さんに性格的に鍛えられました。回り道したこともありますが、出会えたタイミングが良かったです。もう少し早ければ、ラグビーをやりたくなくなっただろうし、遅くてもね。幸運だったと思います」

将来的にラグビーとどうかかわっていかれますか。GMで終わらないでください
「今はやりたいことをやらせてもらって幸せです。自分に対しては不満だらけです。小さい時には西暦2000年を生きて超えるというのが目標でした。だから今はちょっとした余生です(笑)周りに好きな人たちがいて、いろんな話ができることを幸せと思っています」

講演中は平尾氏のユーモア溢れるお話に、終始笑いありでした。平尾氏は、スポーツの持つ質の高さ、判断力や、情報を集め選択する力、ものの考え方を、社会へフィードバックしていきたいとおっしゃっていました。また地域一体となることで主体性が生まれ、スポーツの本質的価値が生きてくるといいます。地域の理解活動があるから盛り上がることができる。みなとスポーツフォーラムをスポーツの知恵が広がる活動であるとおっしゃっていました。

◆次回のみなとスポーツフォーラムは10月6日(水)に開催します。
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