日本代表 26-23 トンガ代表

【2010年6月26日(土) at サモア・アピアパーク】

ANZパシフィック・ネーションズカップ
text by Kenji Demura

ボーナスポイントを奪ってトンガを破れば、優勝の可能性も残されていたパシフィック・ネーションズカップ最終戦。
あるいは、気合いが気負いとなってしまった部分もあったかもしれない。
日本はいろんな意味で最悪のスタートを切ってしまうことになった。

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開始1分。いきなり敵陣でPKのチャンスを得た日本だったが、この日アピアパークに吹き荒れていた横殴りの強風の感触をつかんでいなかったことも影響したのか、SOジェームス・アレジがPGを失敗。
続く2分にはトンガのドロップアウトからBK展開してCTBアリシ・トゥプアイレイがラインブレイクしてチャンスをつくるが、激しいタックルを受けてノックオン。
ボールを拾ったトンガBKにボールをつながれ、そのまま一気にトライを許してしまう(ゴール成功で0-7)。

さらに、悪いことは重なる。

5分。カーワンジャパンBKのキープレーヤーと言っていいCTBライアン・ニコラスが脳しんとうのため、退場を余儀なくされてしまったのだ。

「ライアンのことで動揺してしまった」というWTB遠藤幸祐の言葉どおり、この後の日本はミスばかりが目立つ、まったくリズムに乗れない時間帯を過ごすことになる。
ボールを持てばノックオン、蹴ればダイレクトタッチというように、サモア戦では皆無だった"アンフォースド・エラー"の連発。
15分にはトンガSOカート・モラスにPGを決められ、リードを10点に広げられた。
この後も日本にミスが多い内容はハーフタイムまで続くことになるが、トンガが得点を加えることも前半終了までなかった。

「時間だけが解決してくれることってある。みんな何をするかわかっているけど、何をやってもドツボにはまってしまう。もう、そういう時って、状況を変えようとしてもなかなかうまくいかないので、時間をかけて、エリアをとって、ブツッ、ブツッ、とゲームを切って流れが変わるのを待つ。極端に言うと、『ラグビーをしない』というような感覚が試合の中で必要だったりする」
これはテストマッチだけで57試合の経験を積んできたベテランWTB小野澤宏時の前半の苦しい時間帯に関する考察。

「極端な話、ダイレクトタッチだって、試合を切るという意味ではオッケーという場合もある」
そして、実際にピッチ上でも「とにかく時間をかけて。ゲームを切っていこう」という指示を一番外側から送っていた小野澤の思惑どおりに、試合は推移することになる。

時間の経過とともに落ち着きを取り戻したジャパンは、エリアどりのキックでも冴えを見せ始めていた指令塔のアレジが、17分、40分とPGを決めて立ち上がりのパニック状態から考えるならミニマムと言っていい、わずか4点のビハインドを背負っただけでハーフタイム入りすることに成功した。

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前半終了間際には、ようやくジャパンらしいテンポいいアタックも見られるようになり、計3度トンガインゴールにボールを持ち込むシーンもあったが、いずれもボールを押さえることができずにノートライ。
それでも前半の内容からするなら、6-10での折り返しは、「よく我慢した」(FL菊谷崇主将)と言っていいものだった。

「リズムをつくるプレーヤーがいなくなって、流れを変えていくのが難しかったけど、ひとつのミスをみんなでカバーしあって、粘って、1トライ、1ゴール、1PGだけで前半を折り返せた。前半に関しては、本当に我慢のひと言に尽きる」(同主将)

前節の内容が良かったこともあって、この日の先発でサモア戦から入れ替わったのは、PR平島久照(←川俣直樹)だけだった。

開始早々にニコラスが退場し、生まれ故郷のトンガとの対戦を楽しみにしていたNO8ホラニ龍コリニアシも太ももを強打したために、後半開始と同時にマイケル・リーチと交代。
さらに、後半11分にLO北川俊澄がルーク・トンプソンに、そして同16分にはFB松下馨がショーン・ウェブに、それぞれ交代。
チームの骨格をなすと言ってもいい、真ん中のポジションの選手ばかりが入れ替わり、後半早めの時間帯でジャパンは“サモア戦モデル"とはかなり趣きの異なるチームとなっていた。

両チームが1PGを加えて9-13で迎えた後半10分。ようやく、日本に初トライが生まれる。

敵陣深くのラインアウトで組んだモールはトンガのコラプシングで崩れたものの、HO堀江翔太がサイドをこじ開けたあと、ラックからPR畠山健介が飛び込んで逆転に成功した(アレジのゴール成功で16-13)。
これで、試合は日本に流れるかに思われたが、「若いメンバーが多いが、今年の方が去年より強い。特に、今日は彼らのベストゲームといっていい素晴らしいラグビーをした」とカーワンHCが高く評価したトンガが、またも日本のミスをつくかたちで、一瞬にしてトライを奪い、再逆転に成功する。

26分。WTB小野澤のキックチャージからチャンスをつくり、CTBトゥプアイレイ、PR畠山健介の突進でトンガゴールに迫ったが、タックルを受けた畠山がノックオン。カウンターアタックからトンガCTBアリパテ・ファタフェヒが足にかけたボールを自ら拾って100mトライを決めた(SOモラスのゴールが決まって16-20)。

フィジー戦でも課題として浮上した、「自分たちのミスからの相手のカウンターに対するDF」がまたも機能せずに、再び4点差のリードを背負い、残り10分間の攻防に突入することになった。

「最後の10分間、選手たちは非常に冷静に戦うことができた」(カーワンHC)

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30分にトンガゴール前でのスクラムから、いったんはボールを失ったものの、ブレイクダウンでFLタウファ統悦が頑張りターンオーバー。右展開からWTB遠藤がインゴールに飛び込んだかに思われたが、わずかにタッチラインを割ったとの判定でノートライ。

さらに32分にはトンガ陣22m内でPKのチャンス。すでにラインアウトからの攻撃でトライをとっていただけに、再びセットから取りに行く選択肢もあったが、菊谷主将は4点差を1点差に縮めるPGを選択する。
この時点で、後半のリスタートからノンストップで動かし続けていた手元の時計は36分を指していた。場内にプレー時間を示す掲示はなく、菊谷主将は冷静に残り時間を確認してから、PGを狙うことをスティーブ・ウォルシュ・レフリーに伝えた。

「残り時間が5分より短ければ攻めようと思ってたんですけど、レフリーに聞いたら7分という答えだったので、7分あればその後ゲームがどう動くかわからないし、ここで1点差にしておけば、もう一度、波が自分たちに来る場面もあるだろうと。みんなの顔を見たら攻めたがってましたが、そこは空気を読まずに決めました」

正面からSOアレジが確実に決めて1点差に迫った後、35分にトンガSOモラスにPGを返され、またも4点差に離されたものの、菊谷主将の読みどおり、最後の最後に日本への波は確かにやってきた。

敵陣深くのラインアウトからモールで攻めた後のスクラムで反則を繰り返すトンガFWを尻目に、今度はスクラムにこだわり続けて、最後の最後にペナルティトライを勝ち取り、熱戦に終止符を打った。

「最大の収穫は、あまりいい内容ではなかったのに、勝てたこと。選手たちは確実に厳しい状況でも勝つ方法を身につけてきている。それが今日証明できた。もの凄く重要な勝利だ」(カーワンHC)

大黒柱を試合開始早々に失い、自分たちのペースでプレーできない時間帯も長かった。元々、気温は30℃を超え、尋常ではない蒸し暑さの中での試合。
そんな厳しい条件の中、勝利をものにしたカーワンジャパン。

「2年前はパシフィックで勝てるとは思ってなかったようなところがあったのが、いまは勝つのが当たり前になってきている。今日もトンガに対してあんなに苦しい展開だったのに結果を出せた。来年のW杯にもつながる試合になったと思う」(LO北川)

史上初となるパシフィック・ネーションズカップでの2勝。そして勝ち越し。来年の秋、NZで直接対決するトンガ戦で見せた勝負強さ。

順位自体は昨年と同じ3位ながら、実に多くの収穫を得て、カーワンジャパンは南太平洋での戦いを終えた。