個人の注目選手
豊原: 次に各チームの注目選手についてです。まずは早稲田大学から村上さんに紹介していただきます。
村上: 最近、すごいですよね、瀧澤選手。チームが苦しいときに、ものすごくいいプレーをします。このあいだの早明戦のときも、タッチライン際のパスとか、本当に頼りになるなあと思います。きっと大学選手権でも活躍するのではないかと。そして早田キャプテンに関しては、中竹監督が、早田が爆発すれば優勝するんだと、おっしゃっているように、いつ爆発するのか、一試合一試合、見ていきたい。
豊原: 中竹監督、このふたりについてはどうですか。
村上晃一氏(右)と、司会の豊原謙二郎氏(NHKアナウンサー) 村上晃一氏(右)と、司会の豊原謙二郎氏(NHKアナウンサー)

 

中竹: まあ、順当に注目される選手かなと‥‥まあ、早田は見ていなくていいんじゃないですかね。選手たちには、本当に誰が出るか分からないと本気でいってますし、みんなも本気でそう思っていて、挙げた選手が出ない可能性もあります。でも、今年期待しているのは、2年生の山下昂大ですかね。いまフォワードは全員がリーダーみたいな感じで、日替わりでキャプテンやっているような感じなんですけど、2年生ながらも、体は大きくないですけどね、そろそろ本領を発揮していい頃かなと。
村上: 有田君、中田君のけがは、どうなんですか。
中竹: けがはひどくてですね、この間ふたりに、今シーズンお疲れさまでしたーって言っちゃいました。
村上: それくらい、厳しいと。
中竹: それくらいと思ってて、いいのかなと。本当にあてにしていないで、うちとしては、そのふたりをはずして、チャンスだと思っている他のやつを入れて。治ったとしても、そいつのほうがよければ、そいつを使うつもりなんで。今年ずっとそうやってきてますので、けが人が出ても、いまがベスト(メンバー)と、思えるようになってきた、ということじゃないですかね。
村上: 有田君は相当痛そうでしたね。ボールを投げるだけでも痛いようで。
中竹: もう、しゃべるのも、笑うのも、息するのも‥‥だから、みんなで笑わしてますけど。
村上: 二回戦も無理?
中竹: いや、他のやつががんばりますよ。
豊原: 新しいかたちの危機管理という感じですね。
中竹: 早慶戦のときも、田邊がいなくなったり、いろいろなやつが(けがで)出ないなかで、結構(そういうことを)今年は普通にやってきてるので。今回は、ぎりぎり間に合って準決勝か、決勝、くらいにしておくと、みんな腹をすえてがんばるんじゃないかな。
豊原: どんな名前の選手が出てきて、どんな活躍をするのか、そのあたり興味深いですね。
村上: それが、二回戦ではみんな揃っている、なんて可能性もありますよね(笑)。
中竹: (小声で)ないと思いますけどね‥‥他に注目してほしいのは、先ほどの山下昂大と、レギュラーになるかどうかは別として、監督としてではなく個人としての思いでは、うちは小さな選手が多くてですね、桜井選手、この間少し出た吉井選手。大学界では小さすぎて話にならないと言われて大学にやってきた、中学生と小学生みたいなハーフ団です。あと、宮澤とか、中村とか、それに清登(きよと)っているんですが、これがちっちゃくって存在感がなくて、ゾンビのような選手で、小さい選手がどう戦うかという意味で、ぜひ注目してもらいたいと思います。
豊原: いま吉井選手の名前が出ましたが、あの早明戦、あそこでよく替えたな、と思っておられるファンも多いと思うのですが。
中竹: 大舞台で吉井を披露したくてですね、絶対できると、ぼくとしては思っていましたし、初めての早明戦で、しかも負けている状況で、山中と替わるというときに、あのちっちゃい体でどうするのか、ぼくとしても楽しみでした。
豊原: さて次は慶應大学です。村上さん、お願いします。
村上: 金子選手は帝京戦で、けががありましたけれども、あれで慶應がずいぶん崩れましたからね。三木選手は先ほども言いましたように、素晴らしい活躍をしていますので。
林: 金子は肋骨を骨折してしまったんです。中竹監督といっしょで、毎日笑わせて喜んでいるんですけど。スローイングとか、セットの要ですし、本当に真面目な子なので、頼りにしています。
村上: 復帰は一回戦は無理ですか?
林: 難しいですね。早ければ二回戦、遅ければ準決勝でしょうか。そのへんは、骨のつき具体ですから、分からないですけど、早く治ってほしいですね。
村上: (復帰がいつになるかは)大きいですよね。(27日の二回戦の相手は)法政が濃厚だと思うんですが。
林雅人監督(慶應義塾大学) 林雅人監督
(慶應義塾大学)

 

林: そうですね。中竹監督といっしょで、うちも誰が出られなくなても(いつも通り)やれなくちゃいけない‥‥と言っても、早稲田とぜんぜんちがうくらい、弱くなってしまいますが(笑)。でも、上30人の強化というのをずっとやってきましたから、リザーブの選手も、最初から出ると心が決まっていれば‥‥。みんな精神面が弱いんですよね。リードしているときに後半から(入れ替えで)入っていくと、守ろうとするんですよね。その点差を。それで自陣に釘付けになってしまう。点差なんか忘れて攻める気持ちになれればいいんですけど。
三木は遅刻さえしなければ、本当にいい選手なんですけど(笑)。
村上: 遅刻するタイプなんですか。
林: ときどき、いないんです。
豊原: 肝がすわっている証拠でしょうか。
林: そうですね、大物ですよね。
豊原: 林監督が楽しみにしている選手は?
林: そうですね、両センターの増田、竹本‥‥。
村上: 竹本君はもう大丈夫なんですか?
林: 竹本も、微妙なんですよね。二回戦、準決勝あたりですかね。あとロックの栗原なんか、すごく運動神経がありますし、あとウイングの小川が、チームでいちばん運動神経があると思いますね。目立たないけど、いい仕事しますんで。
豊原: 帝京戦では、フルバックもこなしていましたね。
林: そうですね。たとえば上のボールのキャッチなど、なんていうんでしょうか、動じずに捕りに行けますし。慶應の選手はほとんど、95パーセント、上のボールに動じちゃうんですよね。おどおどしちゃって(笑)。ですから、すごく貴重な存在です。
豊原: 慶應も金子選手など、けがの治り具体が気になりますが、どんな選手がどんな活躍をするのか、楽しみにしてまいりたいと思います。さあ続いては、東海大学の注目選手です。木津・豊島の両選手をあげていただきました。
村上: マイケル・リーチ選手は毎回出るので、あえてはずしました。初キャップを11月にとってしまった木津選手。すごい強運ですよね。能力も高いですけど。
木村: 困っちゃいましたね‥‥(笑)。去年、フッカーやろうか、と話をしたときに「ぼく、出られるならどこでもいいです」と言っていたんで。もともと器用で、相撲が強くて、股割りができたりする。足腰の強さ、体幹の強さは尋常ではないです。スクラムも組み始めたらよかった。そうしたら春先に肉離れを起してしまって、春はほとんど練習しなかった。実質、夏合宿からです、フッカーやりだしたのは。7月、8月、9月、それで11月にジャパンじゃないですか(笑)。これ、トップリーグの人が怒りますよね。しかし、本人はその気になってましたね。ぼくはジャパンだ、みたいな。
村上: 大学生がジャパンに選ばれると、突然うまくなるんですよね。
豊原: それは意識の問題?
村上: 意識だと思います。ジャパンに選ばれることによって、ものすごく能力が引き出される。
豊原: (第1列で)フッカーがいちばん大きいスクラム、というのも珍しいのでは?(木津選手は183cm)
木村: うちは、1・3番も大きいんで、いいんです(笑)。
村上: 強力ですよね。1列が。豊島選手はU20(U20世界ラグビー選手権)のときも素晴らしかったですけど、いまやバックスの要です。東海はいいバックスがいっぱいいますね。
木村: ただ、うちはフォワードのチームだっていうことを言いながらずっと来てて、やはりラグビーはフォワードで勝てなければ絶対に勝てないと、去年いやというほど思い知らされましたよね。それでフォワードはすごくよかったんです。でもバックスがだめだったんですが、ここへ来てトライをとれるようになってきて。バランスはよくなってきてますね。豊島は(以前は)あまり目立ってはいなかったんですがね、まだまだブレイクすると思います。
村上: 他には誰かいますか。注目すべき選手は。
木村季由監督(東海大学) 木村季由監督
(東海大学)

 

木村: 1年生なんですけど、三上匠(ロック)ですね。192cmあって、まだ身長伸びてるんですけど(笑)、練習ではものすごいヘタクソなんです。1対1のタックル練習なんかやらせると、もうラグビースクールみたいなタックルしかできなくて。それくらいだめなんですけど、試合になると、実にいい仕事をする。常に密集に頭を入れて、体がもう少し大きくなってくれば、リアルロックになるんじゃないかと、そういう動きができるので、期待しています。あとはやはり1年生なんですけどスタンドオフですね。阪本ですね。
村上: 度胸ありますよね。1年生なのに。
木村: 皆さんそうおっしゃるんですが、けっこう小心者で(笑)。それでもリーグ戦に全部出て、ひと皮むけてきたかなというところもあるので、いまはけっこういい感じですね。
豊原: 東海大学はリーグ3連覇をして、このあと大学選手権でどこまで行くのか、本当に楽しみですね。では続きまして、関東学院にまいりましょう。
村上: フランカーの安藤選手はどこにでもいて、素晴らしいですね。
桜井: そうですね、チームのなかでいちばん運動量はあるだろうし、ラグビーセンスがすごくある選手ですね。
村上: スクラムハーフの大島選手は流れを変えられるというか、プレースキッカーとしても素晴らしい。
桜井: どちらかといえば、スクラムハーフというよりは、ゴールキッカーとして(メンバーに)入れているようなもので(笑)。スクラムハーフは他にも、パスまわしが早くできるような選手がまだまだいますのでね。
村上: 関東学院はスクラムハーフがめちゃめちゃ多い。
桜井: スクラムハーフだけで1チームできるくらいいますね。
村上: 東海大学も多いとか。
木村: そうですね、スクラムハーフに転向する選手が多いんですよ。転向するんですが、スクラムハーフも専門職なので、日の目をみないことも多くて。うちも1チームできる人数がいますね。
豊原: 他に注目すべき選手は?
桜井: バックスでは、アウトサイドセンターの笹倉、ウイングの夏井。この2人は7人制日本代表に選ばれまして。
村上: 活躍したそうですね。
桜井: 金メダル(「東アジア競技大会」で優勝)下げて帰ってきましたけど。この2人が働くと、バックスとしては大型なので、得点力が上がってきます。それに、フルバックの荒牧ですね。彼いわく「ぼくはトリッキーなプレーヤーなんです」なんて言ってますけど(笑)、我々からすると「なんていい加減なプレーヤーなんだ」ということになるんですが。フォワードでは、No.8の平田ですかね。No.8としては、決してサイズは大きくないのですが、ボールを持ち出すスピードは、相手が決して追いつけない。それに加えて密集でのボディコントロールなどは、非常に卓越してますね。どちらかというと玄人好みの選手ですね。
桜井勝則監督(関東学院大学) 桜井勝則監督
(関東学院大学)

 

豊原: それでは4大学以外のチームをみていきたいと思います。まずは関西勢から(関西大学Aリーグ)。
村上: 関西は影が薄いんですが(笑)。
豊原: 数字をみるとやはり関西学院大学がひとつ抜けているようにみえますが。
村上: そうなんですが、(関西勢は)みんな少し雑な感じなんですよね。みんな失トライが20以上ですし。ただ、観ている分にはものすごく面白いんです。お互いに攻め合うので。で、関西の大学の指導者の皆さん言われることなんですが、ブレイクダウンのところが関東と差がある。ボールの奪い合いのところで劣勢になる。(個別にみると)バランスがとれているのは関西学院大学ですね、フォワードも大きくなってますし。天理大学は、U20日本代表でもあるスタンドオフの立川選手がけがをしてしまっているので、それが痛い。
豊原: 初戦を突破すると関西勢と当たることになる木村監督、関西のチームの攻撃力をどうとらえていますか。
木村: まだ‥‥ですね。先週くらいからビデオを集め始めていますけど、まずは一回戦の筑波大学の準備をしていかないと大変なので。
豊原: 関西勢はみな関西同士で一回戦を戦うことになりました。
村上: 特に天理・摂南は、去年も一回戦で対戦していて、2年連続で同じ顔合わせなんですね。天理は摂南とやったときに、いっぱいけが人が出ているんです。摂南がめちゃくちゃ激しいので、トンガの選手を含めて。だからけっこう天理の選手はいやだと思いますね。勝ってはいるのですが、やはり止めるのに相当労力を要するので。関西学院と同志社は、この間の12月5日に関西学院が大勝していますが、同志社も個々の能力が高いので、一回対戦すると対応してきますから、関西学院の人もいやだって言ってました。
豊原: 抽選会のとき、同志社の村上キャプテンは関学を引いて、非常にいい顔をしたんですよね。
村上: それで、(抽選会場のトーナメント表のところに)大学のプレートを逆さに貼ったんですね。あれ、たぶんギャグだったんですけど、ぼくがのっけられなくて、ちょっと後悔してます(笑)。村上キャプテンは、負けたチームともう一回やれるのがうれしいと言ってました。
豊原: 続いて、4大学以外の注目選手をあげていただきました。まずは帝京大学のフランカーの吉田選手ですね。
中竹: 足も速いし、強気で、いいフランカーだと思います。外国人とやるときには、こういう選手を入れて、けんかするくらいの感じで、だから一回ジャパンに呼んでもいいんじゃないですか。ちょっと反則は多いですけど(笑)。
豊原: 桜井さん、初戦で当たりますが、この吉田選手はどうご覧になってますか。
桜井: こう、流れを変える、キーになるプレーヤーだと思います。帝京には外国人選手がふたりいますけど、おそらくそれ以上の運動量になると思うので、要注意です。
豊原: 続いては、法政大学から、キャプテンの文字選手(スタンドオフ)。
村上: 文字君は独特のゲームをコントロールする、なにか哲学のようなものをもってますね。彼がどういうゲーム展開を選手権でみせてくれるのか、楽しみなんですよね。
豊原: 本当に大黒柱ですよね。林さん、お互い勝ち進むと対戦することになりますが。
林: そうですね。すごくいい選手だときいてますので‥‥。
村上: まあ皆さん、「一回戦に勝ったら」とは言いにくいですよね。
豊原: 次は、関西学院大学の西川選手(フランカー/No.8)。
村上: この選手は突破力ありますよ。フォワードのキーマンですね。彼とNo.8の大滝君は、突破力があって、ボールを持って前へ出られる選手ですね。関西では、抜け出すような、ペネトレーター的な選手が少なめで、どちらかというと小さくてもがんばって走るみたいなタイプが多いんですけど、彼らは違いますね。
豊原: 続いて、天理大学からはハベア選手をあげていただきました。
村上: トンガ出身の選手なんですが、ステップが切れ切れの動きで、彼を止められないと天理には勝てないです。当たるかもしれない木村さんとしてはマークしないと‥‥。
木村: いい選手ですよね。
豊原: 彼もU20日本代表ですね。小さいんですが、攻守にキーになっています。
木村: すごく体を張ってプレーしますから、うちで(U20日本代表に選ばれて)行った連中も、いいって言ってます。
豊原: 続いては摂南大学から、イオンギ・シオエリ選手です。
村上: この人はすごいですよ。何回か関西の試合を観に行ってますが、関西の大学のほとんどの選手はこの人を止められないです。天理も、ここで止められなかったらここで、ここでも止められなかったらここ、というような感じで、3つくらいのポイントで考えて止めてましたね。ひとつめは絶対抜かれるんです。摂南の河瀬監督も、これまで来たトンガの選手のなかで一番だと言ってますね。対戦相手にとっては脅威です。でまた、彼が抜けることを前提にゲームが組み立てられているので、周りのサポートがすごく多い。だから、やられるチームは大量失点することが多いんです。それから天理のハベア選手も、摂南のシオエリ選手も、将来、日本代表に入る可能性があるので、そういった意味でも注目してほしいと思います。
注目のキーワード
豊原: ここからは、いくつかのキーワードを元に話を進めていきたいと思います。最初のキーワードはこちら、「明治大学」です。
村上: このチームはどうなるんだろう、ということは皆さん気になると思うんです。
中竹: 見てのとおり、本気出したら止まらないって感じですよね。そこの力が毎試合出るかどうかが勝負じゃないでしょうか。強いことは分かっていますし、面子をみても、AチームからBチームまですごい人がごろごろいます。そういう選手ひとりずつを磨いていけば、すごく強いチームになると思います。我々としては国立でもう一回やれれば、うれしいです。
村上: 5位という順位は、実力が反映されていないでしょうか。
中竹: チーム力に試合ごとにブレが出ることもチーム力の内なので、そういう意味では、順当、かなぁ。順当なんですが、我々とやるときには、必ず強いですから、この前の早明戦も、そういったことは度外視して準備してますし。度外視しなかったら去年みたいになってしまうので(22-24で敗戦)、実力は十分にありますし、脅威ですよね。選手たちも、対抗戦のなかでいちばん激しく来たって言ってましたので、昔の明治は残っていると(監督の)吉田さんも言ってますけど、明治のDNAは残っている、と思いますね。
中竹竜二監督(早稲田大学) 中竹竜二監督
(早稲田大学)

 

豊原: 今年は各大学とも頭を悩まされたかと思いますが、次のキーワードは、「インフルエンザ」です。
木村: うちは、11月ですかね、スタッフを入れると130人くらいいるんですが、ちょうど試合があいた週に70人くらいどっと出たんですね。70と、プラス1(私)。だけど、本当に大変でしたね。合宿所に万延してしまいました。
豊原: 夏は関東学院も大変でしたね。
桜井: 2週間の夏合宿、ほとんど何もできずに、ほとんど学生の看病で終わってしまって。(菅平に)上がって2日目で、40度近い発熱者が出るわ出るわで、1日に4人、5人と倒れて、しまいに診療所から断られてしまって、最後は菅平を下りて上田の病院まで行ってましたね。結局、感染したのは60人くらいでしょうか。
村上: ラグビーは、感染しますよね。ひとりでも誰かが無理しちゃうと。慶應の合宿所に行ったら、ドアのノブごとに「このドアノブにはウイルスがついている可能性があります」って書いてあって、めちゃめちゃ徹底されてましたね。
林: そうですね。いろんなところに貼りまくりましたね。それに毎日時間になると消毒をして。でもおかげさまで、145人の部員のうち感染者はのべで10人くらいでしょうか。いまはゼロですし。
監督にききたいこと、知りたいこと
豊原: それでは会場の皆さんからの質問に4大学の監督が答える、という質問コーナーにいきたいと思います。まずは中竹監督に。

「監督がいなくなっても成長し続ける組織をつくること」が最終目標と著書で述べられていますが、現在の早稲田はその完成形のレベルに達しつつあるのでしょうか?

中竹: まあ、かなり近いんじゃないですかね。ほとんど何もやってませんから。「中竹さん来たのー」みたいな雰囲気でやってまして、今年はもう、試合前のミーティングも、試合が終わったあとのミーティングも、基本的には選手主導でやっているので、今は、(監督が)いなくなってもいいかな、という、だいぶいい感じで。
豊原: 帝京戦のあとで、より自主的なものに切り替えたという話をきいていますが。そういう体制を目指していたわけですか。
中竹: そうなればいちばんいいとは思っていましたが、ちゃんと反省できるようなゲームでないと、つまり50対0のような試合をしたあとに、反省しろといってもあまり説得力がない。だから、ぎりぎりで勝った、という試合がいいタイミングなので、じゃあここからお願い、ということで、帝京戦からになりましたね。
豊原: あの、不安はないですか?
中竹: 任せると決めたので、責任はぼくが取ればいいかなと思っているので。変な反省してるなーとか、変なテーマだなーとか、ときどき思いますけど(笑)。でも、ぼくも「これはこうしたほうがいいんじゃないの」とかときどきアドバイスをするんですが、「そんなの意味ないっしょ」で片づけられたりして、あー、それは大きなお世話でしたねー、といったかたちでいままでやっているんで。不安はないです。これでいきます。
豊原: 木村さん、任せるというのは、同じ指導者としてどう思いますか。
木村: いやあ、素晴らしいと思いますね。究極のかたちだと思いますよ。たぶん、ぼくが同じようにしたら、「じゃあお前いらないね、クビね」って言われちゃうでしょうね(笑)。
豊原: 木村監督に。

チームメンバーから、U20日本代表、日本代表、7人制日本代表に選抜された場合、チームの誇り、個人の成長というプラス面と、チーム戦力の低下というマイナス面が考えられますが、どのようにお考えですか?

木村: 今年はおかげさまで、多くの選手を代表に選んでいただいて、ぼくは基本的に、この国でラグビーをしているわけですから、日本代表を目指すのが正しい道だと思います。ただ、みな間違いなく成長して戻ってきているのですが、難しいのは、大学生でそれほど経験値が高くないですから、戻ってきてすぐにチームに溶け込めるかというと、けっこう時間がかかったりします。そういったマイナス面はありますが、最終的にそうした経験が熟成していく時間はありますから、プラス面だけを考えて、こっちは腹をくくっています。
豊原: 先ほど村上さんから、大学生は代表に選ばれると伸びる、という話がありましたが、木津選手などはどうですか。
木村: コンタクトの強さがぜんぜん違うのと、練習時間がやたら短くていい、と言って帰ってきました(笑)。マイケルもそうだったんですけど。せっかく代表に行ってきたんだからと、みんなの前でしゃべらせたんですけど「無駄な時間がないんです。練習前にミーティングをして、短時間でぽんぽん、ぽんぽん、すごく集中できました」みたいなことを言うんです‥‥ちょっとカチンときましてね。その日は思いっきり長くやりましたけどね(笑)。
豊原: でもいろいろな方法論に触れるということは、選手の成長を促すんでしょうね。
木村: それはそう、素晴らしいと思います。行ってきて、見たこと、しゃべったこと、聞いたこと、全部彼らのプラスになっていると思います。ただし、本人が勘違いしないように、コントロールしないと。
豊原: そこがいちばんのキモかもしれませんね。それでは次の質問は、林監督にです。

慶應大学には体育系の学部がないのに、どうしてすべてのスポーツで全国レベルで、しかも強いのか?

村上: 他の人にきいたほうがいいかもしれませんね。
林: まったく分からないですね、ぼくも。どうしてですか? これは。
中竹: やはり付属がしっかりしていて、付属からきっちりいい選手を送り出している。ラグビーに限らず、野球、駅伝‥‥付属との総合力だと思いますね。ここは早稲田大学もしっかり学んでほしいと思います。
豊原: 早稲田も佐賀と大阪に、系列の学校ができますよね。
中竹: そうなんですが、基本的につながってはいないです。
村上: 東海も、付属校から、ありますよね。
木村: 付属だから黙ってても来る、と思われる方がたくさんいるんですが、他の高校の子たちと同じように付属の子たちにも声をかけて、個別にやっているんです。付属だから、ということはないです。
村上: また東海大仰星から、いい選手が早稲田に入ってしまいますよね(笑)。
豊原: 関東学院も、付属がだいぶ強くなってきているそうですが。
桜井: そうですね。付属ではないんですが、中学・高校と強化を始めて、大学でもやりたい、という学生が出てきたところですね。
桜井勝則監督(関東学院大学)

 

豊原: さて、最後の質問です。皆さんに。

監督退任後の進路、夢は? 中竹さんからお願いします。

村上: だいたい、退任をいつするんですか(笑)。
中竹: これは本当に分からなくてですね。ぼくが決める話ではないので。辞めるなら辞めるで、次もなにか仕事しないと家族に怒られそうだし。ぼく自身、あまりラグビーを軸に生きてきたわけではないので、前任の清宮から話を受けたときに、後輩だから、後輩の荒ぶるに係わるんだったら、なんとか力を貸してあげたいと引き受けたわけで、正直、ラグビー界にいるつもりがあまりないんです。そもそも、夢はないんですよ。やりたいことがあまりなくて、何もやりたくないというタイプなので、強いて言えば料理人かなにか、やりたいかなー、くらいですかね。
豊原: 料理はお好きなんですか。
中竹: そうですね。かといって店を出したいとかではなくて、ただ誰も見ていないところで料理をつくっていたい、という感じですね。
村上: でも他から(監督などの)話がくれば、考える?
中竹: そう、他から来れば‥‥けど基本的に、ぼくの決め方としては、ぼくじゃないと、っていうところしかモチベーションがわかないので。
豊原: それでは、そのときにはNHK「趣味悠々」のゲストとして、料理など‥‥。
中竹: それを次の夢にしたら、いいかもしれませんね! がんばります。
豊原: それでは、木村監督。
木村: ぼく自身、この学校の教員というのが、夢みたいなものだったので、いまはそのなかで、学生たちからすごいエネルギーをもらって、生活できているので。監督は、辞めろと言われれば辞めますが、学校の仕事は続けていきたいと思っています。
豊原: 林さんは、いかがでしょう。
林: そうですね、夢なんていう大それたものはないんですが、慶應の場合、監督はいつまでもできる、というわけではないので、終わった後は‥‥そうですね、いままでも感動をいっぱいしてきたと思うので、この先もそういう人生がいいなと思いますね。
豊原: やはり他では得難いような感動、経験が得られるのでしょうかね、監督というポジションは。
林: そうですね、木村さんも言ってましたが、若い選手から熱をもらえますし、できそうもないことも、学生だと力を合わせてできてしまう、ということから勇気ももらいますし。
豊原: 桜井監督はいかがでしょう。
桜井: ぼくはもともとサラリーマンなので、リコーという会社にいながら、会社の好意で大学の監督をやらせてもらっているわけです。何年かして監督を交代すれば、また会社に戻って会社の仕事をすることになります。ただ個人的には、なんらかのかたちでラグビーに携わっていられれば、ということは思います。
豊原: ありがとうございました。

■「全国大学ラグビー トークバトル2009」出演者

○パネリスト
(あいうえお順)
木村季由監督(東海大学)
桜井勝則監督(関東学院大学)
中竹竜二監督(早稲田大学)
林 雅人監督(慶應義塾大学)

*関東大学対抗戦A・関東大学リーグ戦1部から、
それぞれ上位2チームの監督が出演

○コーディネーター
村上晃一(ラグビージャーナリスト)
○司会
豊原謙二郎(NHKアナウンサー)