今年も開催された「大学ラグビートークバトル」。抽選のくじ運に関するジンクス(?)から、慶應のタックルの秘密(!)まで、今回も楽しい話題で盛り上がりました。20日の開幕にむけて、このリポートでお楽しみください。

■「全国大学ラグビー トークバトル2009」出演者

○パネリスト
(あいうえお順)

木村季由監督(東海大学)
桜井勝則監督(関東学院大学)

中竹竜二監督(早稲田大学)

林 雅人監督(慶應義塾大学)

*関東大学対抗戦A・関東大学リーグ戦1部から、
それぞれ上位2チームの監督が出演

○コーディネーター

村上晃一(ラグビージャーナリスト)

○司会
豊原謙二郎(NHKアナウンサー)

 

 

豊原: それではトーナメント表をみながら、話を進めていきたいと思いますが、とっても熱い、抽選結果になりましたね。

トーナメント表
村上: そうですね。まず、決勝がどうなるのか‥‥すごく多くの対戦が思い浮かぶんですよね。一回戦の関東・帝京がどうなるのか。そこを早稲田がくぐり抜けられるのか、とかね。
豊原: 早稲田大学の中竹監督は、いかがですか。
中竹: とにかく強いといわれているところを全部倒して勝ちたいので、抽選の前から、どこと当たってもガッツポーズでがんばっていこうと、話していました。いちばんいい組合せだと思います。
豊原: 今年は常に、選手たちに危機感を煽ってこられましたが‥‥。
中竹: 今年のキーワードは「危機感」ということで、いまもけが人が多くでて、厳しいなかでベストな選手権かなという気がします。一回戦で立命さんか、中京大学さんか、どちらと当たるかはわかりませんが(注/12日の時点では未定。その後、13日に立命館大学に決定)、一回戦から全力でいきたいと思っています。
豊原: 選手たちの反応は?
中竹: ベスト、だね、って言ってますね。
村上: なにが来てもベストなんですよね(笑)。
中竹: 本当になんでもいいんです(笑)。
中竹竜二監督(早稲田大学) 中竹竜二監督
(早稲田大学)

 

豊原: 東海大学、木村監督はいかがでしょう。
木村: おそらく皆さん、くじ運が‥‥と思っていらっしゃるでしょうが、うちとしてはずっと対抗戦のチームに敗れていますので、対抗戦のチームと当たることになり、喜んでいます。
村上: ここは、体育系のブロックになりましたね。筑波に勝ったとしても、次の摂南、天理はあなどれないですよ。トンガからのすごい選手がいますし。
豊原: 慶應大学、林監督、お願いします。
林: 慶應は去年、とんでもないカードからスタートして(対帝京)、そのままいなくなってしまいましたので、年末年始はひまで(笑)。それに比べれは今年は、精神的には少し楽で‥‥とはいえ、学生スポーツというのは本当にわからないので、ひとつひとつ慶應のラグビーをやり続けるだけです。
豊原: 選手たちの反応は?
林: やはり去年の抽選結果の印象が相当強かったので、なぜかガッツポーズをしてました(笑)。私じゃないですよ。選手たちが。
村上: 今年も帝京に当たることになったら、抽選をやり直してもらうって、いってましたよ。
林: 抽選箱を壊しに行ってましたね(笑)。
豊原: 関東学院大学の桜井監督は、抽選の結果をみて、どんな心境だったのでしょうか。
桜井: うちはその最悪の組合せで、考えてみますと(昨年は早稲田)2年連続で最悪のくじをひいてますね(笑)。基本的にうちの安藤(キャプテン)が、くじ運がよくなくて、ゲーム前のコイントスも、いつも負けたりして、その安藤がひくんだから、という話をしていました。最初に早稲田さんのいる山に入った段階で、あーっとなって、せめて最初の対戦くらい楽な相手で、と思っていたら、そんなことを思ったものだから帝京さんが相手になってしまって(笑)。しかし林監督もおっしゃっていたとおり、学生スポーツですから、国立競技場まで進めることができるように、ひとつひとつがんばっていきます。
桜井勝則監督(関東学院大学) 桜井勝則監督
(関東学院大学)

 

豊原: 去年の抽選のとき、控室で林監督のとなりに座っていたのが(帝京大学の)岩出監督だったそうですね。
林: そうです。それで、抽選の前にめちゃめちゃ話したんですね。それで「一回戦で当たったら絶対いやですね」なんて話をしていたら、本当にそうなっちゃった(笑)。今年はもう、岩出さんとは絶対に話さないようにしようと、すごい距離をおいて(笑)。今年は福岡大学の監督さんと、名刺交換をして、よく話していたんですよ。そうしたら見事に(一回戦で)当たることになってしまって。これ、本当の話です。
豊原: その岩出監督のとなりには、桜井監督が座っていらした?
桜井: そうなんですね。それに去年は(一回戦で当たった)早稲田の中竹さんととなり同士で話していたんです(笑)。
中竹: 今回はぼくの前にずっと岩出さんがいたんですよ。抽選の前に。気持ちワルイなーと思いながら。これはやばいなーと思って、抽選が始まるちょっと前に「ここにいると(トーナメントで)となりになってしまうので」といってすっと逃げたら、そのあとに桜井さんがつかまったんです(笑)。
豊原: 実は、岩出監督は抽選の前、「今回は木村のとなりに座ろうかな」とおっしゃっていたんですが。
木村: そういう話を聞いていたんで、ぼくはひとり離れて、頑なに誰ともしゃべらずにいました。
村上: 岩出さんが悪魔みたいになってますが‥‥。
豊原: 来年の控室は、しんと静まりかえっているかもしれませんね。
豊原: さて、ファンにとっては楽しいこの抽選方式、監督さんにとってはどうなんでしょうか。
桜井: 去年・今年の結果からみると、ぼくとしては決していい方法とはいえませんね(笑)。今年も関西リーグ同士で当たったり、えーっというか、うらやましいような組合せもあったりで、もう少しリーグ戦での順位を考慮したものに‥‥まあ、去年・今年ともっと楽な組合せになっていたら、こんなことはいいませんが(笑)。
林: 同じリーグ同士の対戦だと面白くないですから、もう少ししばりを強くするとか‥‥あるいは4コーナーだけ決めて、あとは強い順にそれぞれ好きな位置に入っていくとかですね。
林雅人監督(慶應義塾大学) 林雅人監督
(慶應義塾大学)

 

豊原: 某格闘技イベントのようなやり方ですね。
林: そのほうが面白いかもしれませんよ。
豊原: しかし関西協会の方は喜んでおられるのでは。
村上: そうですね、とりあえず2チームはベスト8に間違いなく残りますからね。ただ、花園で、関西同士が当たってなにが面白いのか、という声は関西の監督さんからも出ていますが、福岡をのぞけば基本的に3つのリーグのチームが戦うので、難しいんですよね、抽選でやる以上は、同じリーグ同士の対戦も仕方がない面がありますから。
木村: あと、くじにするには数が少ない気がしますよね。リーグ戦の順位が反映されないのもどうかと‥‥。
村上: これが昔の(リーグ戦の順位で決まる)関東交流試合みたいなやつだったら、今回は東海と帝京が当たることになってましたね。
木村: はーっ‥‥。
豊原: どこと当たるか分からないと、宿泊先の手配などが大変という中竹さん。
中竹: 去年から相当言っていますし、紙にして出してもいますけど、2つの視点からいうと、ひとつは、抽選でラグビーのトーナメントが面白くなればそれでいい。エンターテインメントとしては素晴らしい方法だと思います。しかし現実に、この年末の週末に移動、チケットの手配をするには、瑞穂・花園・福岡と全部おさえておかないといけないんです。抽選結果が出たところでキャンセルしますから、キャンセル料も発生します。チケットの実費だけでなく、そういったところまでも協会さんで面倒をみてくれれば抽選でいいと思います。さらに1試合の対戦の面白さというよりも、トーナメント全体をさらに面白くするには、シードのあり方を考えてみてもいいでしょうし。普及・人気の観点と、一回戦から決勝までをうまく組むということについて、世の中にはそういう専門家がたくさんいますから、話をきいて検討してみるべきではと思います。
豊原: 九州や名古屋のファンの皆さんが、関東のチームの真剣勝負をなかなか観る機会がないなかで、いまの大学選手権のあり方は価値があるのではないかと思いますが、トーナメントの抽選などについても、よりよいものになっていくのでは、と思います。
村上: 今年は特に、力が拮抗していますから、シードどうこうは全然関係ないかもしれません。
木村季由監督(東海大学) 木村季由監督
(東海大学)

 

4大学の注目ポイント
豊原: 今日の4大学の、注目点についてみていきたいと思います。(11月23日、20-20の同点となった今年の早稲田 vs 慶應の試合のビデオを観ながら)
村上: (最後の早稲田・山中選手のトライについて)ここは林さん、ディフェンスにミスがあったんでしょうか。
林: ノミネートのミスですね。直前のラックからボールが早く出たことで、セットして、誰が誰をみるというコールが十分でなかったので、山中君を誰がみるのかというのが、増田も竹本もノミネートできていなかった。あの素晴らしい早稲田の球出しに、こちらが準備できなかったということです。
豊原: 一方、早稲田の山中君は、(後半21分に)投入されてからドンドン前にいっていましたが。
中竹: 9人目のフォワードとして投入しましたから。最後、いっぱい外に余ってたのに、絶対パスしないって決めていたみたいですね。
各大学チーム成績(関東大学対抗戦A)

大学名 勝敗 総得点 総失点 得失点 PG DG 失トライ
1 早稲田大学 6勝0敗1分 374 47 289 54 43 6 0 7
2 慶應義塾大学 5勝1敗1分 266 74 192 39 28 4 1 11
3 筑波大学 5勝2敗 175 142 33 25 16 6 0 20
4 帝京大学 5勝2敗 230 47 183 36 19 3 0 6
5 明治大学 3勝4敗 174 184 -10 26 19 2 0 27
豊原: ここからは表のデータを見ながら進めていきます。まずは関東対抗戦Aの上位5チームのデータから。
村上: 帝京は4位といいながら、失点・失トライとも少なくて、自力があるというのが数字に出ていますよね。あと、明治の得失点は、5位だからですが失点のほうが多いですね。
豊原: 早稲田と慶應の失点の少なさも目立ちます。
村上: 対抗戦は帝京が波乱の元なんですね。意外なところに負けたり、かと思えば明治には大勝したり、波がありました。ただし失点は一貫して少ない。
豊原: 次はトライ数と得点の大学別個人ランキングです。
個人ランキング(関東大学対抗戦A)

早稲田大学(トライ) 早稲田大学(得点)
1 山中亮平 8 1 田邊秀樹 92
2 早田健二 6 2 山中亮平 51
2 村田大志 6 3 早田健二 30
2 中濱寛造 6 3 村田大志 30
3 中濱寛造 30
慶應義塾大学(トライ) 慶應義塾大学(得点)
1 三木貴史 7 1 和田 拓 64
2 小川優輔 4 2 三木貴史 35
3 栗原大介 3 3 小川優輔 20
3 金本智弘 3
3 高橋立寛 3
村上: 山中選手、強いですね。スタンドオフでこれだけトライが多いのは珍しいと思うんですが。あとは慶應の三木選手ですね。小さいけれど、すごくいいウイングです。
林: 本当にそうですね。小ささを活かす、という感じです。
村上: ここまでの活躍は期待していなかった?
林: そうですね。ここまでとは。日に日によくなっていって。くぐって抜けていきますよね。下からタックルいけませんから。
豊原: 山中選手について、中竹監督はいかがですか。
中竹: 今年はその強さを活かしていけ、と言っています。彼はパスもキックもすごいんですが、今年はフォワードのつもりで、と言ったら、本当にそのつもりになっています(笑)。ただ、大学選手権が始まるので、そろそろスタンドオフに戻ろうかと、今日そういう話をしました。
豊原: 中濱・早田の両ウイングについては?
中竹: 両ウイングとも獲っているのは、チームとしていい傾向かなとおもいます。早田については、いつの間に‥‥という印象もあり、ちょっと意外ですね。
村上: 存在が地味なんですかね(笑)。
中竹: いまチームのなかでは、バックスが獲りきれない、バックスがんばらないと、という雰囲気がある。
村上: でも(トライランキングに入っているのは)バックスばっかりですね。
中竹: フタを開けてみるとそうですね。
豊原: キャプテンになると個人のパフォーマンスは落ちるともいわれますが、早田キャプテンについては、どうみていますか。
中竹: やはり苦しんだ時期があったと思いますね。対抗戦のリーグが始まるときから途中までは、もうこれはBチームに落ちるのでは、というくらい本人も悩んだと思います。しかし徐々にウイングらしい、早田らしいキャプテンシーを発揮してきているんで、皆さん誰も気がつかないかもしれませんが。‥‥決勝戦は活躍すると思いますが、これまでは「なんで早田がキャプテンなんだ」「キャプテンかわれ!」なんて観客からもいわれて、「そのとおりだー、がんばるぞー」と(笑)。
豊原: 決勝戦では、というお話もありましたが。
村上: 去年の豊田君も、決勝戦だけ、だったですよね。
中竹: いや、ホントに、去年の豊田が仕事したのは、決勝戦だけでしたね。それまではチームを乱し、ひっちゃかめっちゃかにして‥‥。
豊原: NHK的には(決勝後の)インタビューでも、やっていただいて‥‥。
中竹: あのあとOBから非常に怒られました。お前の指導はなんだと、あのインタビューを高校生がみたらどう思うのかと。ぼくとしてはいいと思いますけども、今年はジェントルマンシップで言葉に気をつけていきたいと思います。
4監督

 

各大学チーム成績(関東大学リーグ戦1部)

大学名 勝敗 総得点 総失点 得失点 PG DG 失トライ
1 東海大学 7勝 257 107 150 40 27 1 0 12
2 関東学院大学 6勝1敗 237 95 142 36 21 5 0 14
3 法政大学 5勝2敗 274 113 161 38 27 10 0 17
4 流通経済大学 3勝4敗 185 223 -38 29 17 2 0 33
豊原: 次はリーグ戦、東海大学と関東学院大学の一戦をご覧いただきます。(11月14日、8-12で東海大学が勝った試合のビデオを観ながら)東海大学の豊島選手は、スピード・切れに加えて今年は力強さのようなものが増している印象があるんですが。
木村: 彼いわく春にU20日本代表に選ばれて(「U20世界ラグビー選手権」で)外国の選手と対戦したことが、いい自信になっているみたいです。もともと腰は強かったのですが、さらにねばり腰になったという感じですね。
豊原: それではリーグ戦のデータをご覧いただきます。
村上: 上位陣の力が本当に拮抗しているというのが、数字に表れていますよね。東海と関東学院は本当に互角といえるのでは。
木村: うちは失点がけっこう多いんですよね。失点が多いんですが、実はラスト3ゲームは少ないんですよ。
村上: チーム力が上がってきたと。
木村: 上がってきた‥‥かな。(シーズンの)前半なんかひどいもんでしたから。どうなんでしょう、緩いんですね、気持ちの部分で。
豊原: 緩いんですか。
木村: だから、(11月23日の)早慶戦を観て、みんな感動してましたからね(笑)。ぼくも一緒に感動したんですけど(笑)。次の日の練習で、「早慶戦観たかよ」「これがラグビーだぜ」「この対抗戦のタックルが、なんでリーグ戦でできないのかな」なんて。
豊原: なにがちがうんでしょうかね。
村上: やはりいまおっしゃったように、緩い‥‥ですかねえ。確かに早慶戦とか早明戦のような緊迫感が、ない、ですよね。これは関西リーグにもいえますけど。なんなんでしょうね。お客さんの数でしょうか。
木村: それでマイケル・リーチがですね、ぼくのゼミのときにしゃべってて、「この慶應のタックルって、なんでだろうね」ってきいたら、「先生、伝統ですよ」って(笑)。「そうかー、伝統だよな」って、皆うーんてうなずいてましたけど、「ちがうだろー」って言うんですけどね。
村上: (リーチ選手は)ジャパンでいなかったときは大変でした?
木村: 今年は、いないときのほうが多いですからね。いないのが当たり前みたいな雰囲気だったので、戻ってきたら、あ、帰ってきたね、という感じです。
個人ランキング(関東大学リーグ戦1部)

東海大学(トライ) 東海大学(得点)
1 豊島翔平 8 1 吉田真吾 52
2 宮田拓哉 6 2 豊島翔平 44
3 木津武士 5 3 宮田拓哉 30
関東学院大学(トライ) 関東学院大学(得点)
1 山田 傑 6 1 荒牧佑輔 40
2 荒牧佑輔 4 2 山田 傑 30
3 大島修平 3 3 大島修平 28
3 安藤泰洋 3
3 森 悠記 3
3 長谷川原氣 3
豊原: それでは個人のデータを見ていきましょう。
村上: 豊島選手が、20歳以下の日本代表で成長して、すごくいい選手ですよね。あと、関東学院は山田選手が1位というのが面白い。
桜井: たまたま初戦(中央大戦)で、No.8として初めて使って、本人は(元来の)ロックみたいな苦しいところはイヤな性格なんで、そこから解放されて、後ろのほうで自由に動けるようになって。
村上: 関東学院は、ポイントからきれいに回してウイングで獲る、みたいなタイプでなくて、どこからでも仕掛けて、誰でも獲れるようなタイプなので、それがよく表れていると思います。
桜井: いいように言うと、そうですね(笑)。我々からみると、外に決定力がないというか。
豊原: 関東学院の選手は、ひとりひとりのヒット、当たりが強いという印象があります。
村上: そうですね、ボールの争奪戦のところで、そこに、そこだけにプレッシャーをかけていくというのが、関東学院の伝統ですね。よく早稲田もやられてましたよね。
木村: うちの選手たちも、強かったって言ってましたね。うちも、そこがやられたらどうにもならないチームなんで、うちもそこはこだわっているところではあるんですけど、でもやはり、関東学院戦はきつかったと言ってました。
村上: ですから一回戦の関東学院と帝京は、面白いですよね。岩出さんが「春口さんのアドバイス禁止」って桜井さんに言っておいて、なんて言ってましたけど(笑)。
桜井: まあ、ちゃんといただいてます(笑)。