6月27日、 『リポビタンDチャレンジカップ2018』を戦い終えた日本代表のジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(以下HC)が、同大会に関する総括記者会見を行いました。

イタリア代表(2試合)、ジョージア代表という欧州の強豪とのテストマッチシリーズを2勝1敗で勝ち越した日本代表の戦いぶりをジョセフHC自身はどう評価しているのか。
会見の要旨をお伝えします。


——イタリア代表に1勝1敗(34—17、22—25)の後、ジョージア代表には28—0で快勝。『リポビタンDチャレンジカップ2018』での日本代表の戦いぶりをどう総括しますか。

ジョセフHC「とても素晴らしい6月のシリーズとなりました。
イタリア代表戦では、我々のラグビーのブランドを示すことができたと思います。
選手たちは自信を持ってやり切ってくれました。世界レベルのテストマッチにおいて、いい判断をしてトライを取りきる素晴らしいスキルを披露してくれました。

そして、ジョージア戦では、失点を0に抑えて勝つことができました。世界ランキング12位の相手に対して1点も与えなかったのは初めてのこと。チームとしても本当に特別な試合となりました。成長した姿を見せることができたと思います。

ラグビーワールドカップ2019に向けて、チームとして必要とされるキャラクターを持ち始めているのを感じます。選手たちを誇りに思います。

また、リーダーシップの部分でも成長が見られました。
我々はこの18か月間、キャプテンを変えたりしながら、リーダーシップのスキルも磨いてきました。
ハル(立川理道)、翔太(堀江)からマイケル(リーチ)にキャプテンが変わりましたが、二人もしっかりサポートしてくれました。
今回のシリーズでは流さん(大)がサントリーサンゴリアスやヒト・コミュニケーションズサンウルブズでも証明しているように、卓越したキャプテンシーを見せてくれました。田中さん(史朗)のサポートも大きかった。

数年前、エディー・ジョーンズ前日本代表ヘッドコーチがまとめたレビューを見たのですが、そこには『日本ラグビー発展のためには、選手、そして指導者は、高いレベルの競争にアクセスしていく必要がある』と書かれていて、それが今実現していると思います。
ファンやメディアはスーパーラグビーで結果を求めますが、実際にはサンウルブズはナイーブな存在という側面も持っています。日本のラグビーはアマチュアで会社員の選手が多いですが、他のチームは20数年プロフェッショナルラグビーを続けてきています。
そういう状況にありながらも、日本ラグビー協会がスーパーラグビーへの参戦を決断したことが、代表チームが大きく成長する道を切り拓いたのは確かだと思います。選手たちはサンルブズでのプレーによって大きく成長しています」

——チームは成果を出しているという話ですが、ラグビーワールドカップ2019大会に向けた準備として、どの程度選手を集められるか、アクセスできるかという点に関しては予定通りに進んでいると感じていますか。

ジョセフHC「順調だと思います。来年のラグビーワールドカップ2019で日本がベスト8に進めたなら、とてもすごい業績を残したということになりますが、そのためには、選手たちがひとつのチームとして多くの時間を一緒に過ごすことが重要になります。
私がいつも強調するのは“アライメント”(alignment)ということ。ラグビーで結果を出すためには、集団としての強さ、団結力が必要だと思っています。
コーチングチームは6か月サンウルブズのために犠牲を払い、それが6月のテストマッチシリーズの結果につながりました。
他のタイミングとしては、昨年11月のテストマッチシリーズでオーストラリア代表に負けた後にフランスに渡り、トンガ代表に勝ち、フランス代表には勝つべき試合だったが惜敗。その過程で多くの時間を一緒に過ごすことができました。チームの団結力は強まっています。
ただし、その一方でバランスも必要です。いま、選手たちは多くの時間をラグビーに割いていますが、もちろん休養も必要ですし、家族と過ごす時間も重要になります。そのバランスをうまく取っていく必要性を痛切に感じています」

——サンウルブズの試合では、集中力を欠くような時間帯がある試合もみられましたが、その点は改善されたと思いますか?

ジョセフHC「確かにサンウルブズの試合では、たくさんのミスが起こって勝ちきれなかった試合もありました。この6月のテストマッチシリーズでは、選手たちは高い集中力を維持し続けたと思います。
違うチームでの違う大会。やはり、代表の試合はスーパーラグビーの試合とは異なるものです。
『リポビタンDチャレンジカップ2018』の期間中にもチームは大きく成長しました。イタリア代表との第2戦では、相手は第1戦とは全く違うチームになっていました。パッションに溢れ、フィジカル面でも強く押してきました。我々も追い上げましたが、来年のラグビーワールドカップ2019ではイタリア代表の第2戦の前半のような”ソフトモーメント”があっては、アイルランド代表やスコットランド代表には勝てない。貴重な経験を積めたし、翌週はフィジカルの強いジョージア代表に80分間集中力を切らないパフォーマンスをすることができました」

——11月に予定されているテストマッチに向けての課題は。

ジョセフHC「ひとつはフィジカル面です。他の国の選手たちと比べると、体格が劣るし、日本代表は伝統的にフィジカルなチームではありません。
今回のイタリア代表との第2戦ではイタリア代表がかけてきたプレッシャーにうまく対応できませんでした。第1戦ではできていたのに、です。ただ、その点も1週間で課題を修正してくれたと思います。ジョージア代表はフィジカルなチームでしたが、スクラム、モールでどう戦うか。どういうスキルを使っていくか。1週間で学ぶことができました。秋に向けてもフィジカル面の強化は進めていかないといけない」

——セレクションの幅を広げていく可能性は?

ジョセフHC「ジャパンラグビー トップリーグには目を向けています。これからも、可能な限り多くの試合を見ていくつもりです」

——スーパーラグビーで戦っていることが日本代表の利点になっていると感じますか?

ジョセフHC「フィジカリティの安定性、一貫性という面はスーパーラグビーで戦っていることの利点でしょう。コーチングが一貫してきたし、選手たちのパフォーマンスにも一貫性が出てきたと思います。ただし、サンウルブズの日本人選手はトップリーグが終わった後少しだけ休み、3〜4週間のトレーニングをし、ハリケーンズやハイランダーズ、ワラターズに勝つことを求められるのはフェアではありません」

——サンウルブズではなかなか結果が出ない時期もありましたが、リポビタンDチャレンジカップ2018では2勝1敗で勝ち越し。正直な気持ちは?

ジョセフHC「ホッとしています(笑)。正しいことをしていると信じていれば、前に進んでいくだけです。
時には、努力を重ねても、予期しない方向に物事が進んでいってしまうこともあります。長いシーズンの中、ケガ人が出たり、体調を崩したり、ミスもある。
重要なのは、選手の信頼が変わらずしっかりしているか。自信を持ってプレーできているか。そういうチームが結果を出すのです。
6月のテストマッチシリーズでは、その点がしっかりしていることが結果につながりました。ハッピーです。

重要なのは、ラグビーワールドカップ2019を見据え、前進を続けることです」

text and photos by Kenji Demura