帝京大学 73-20 早稲田大学 マッチレポート

 晴天、微風の国立競技場において、2大会連続11度目の大学選手権優勝を狙う帝京大学に、3大会ぶり17度目の優勝を目指す早稲田大学が挑んだ。

関東大学対抗戦から圧倒的な強さを誇る帝京に対し、東洋大、明大、京産大との接戦を制して勝ち残った早大の戦い方が注目される。

 開始2分にいきなり先制された早大だが、帝京FWの強烈なアタックにダブルタックルで応戦し、序盤の攻防を何とかしのいだ。身体の芯で帝京のアタックを受け止め、下がることなくディフェンスのフェイズを耐える。チームとしてディフェンスから前に出て、キックでの前進を図る。その我慢と攻撃の積極性がセットアタックからのトライを生み出した。

17分、早大SO伊藤大祐がラインをヨコに動かし、アングルチェンジしたCTB岡﨑颯馬がラインブレイク。このパスアウトをSO伊藤、WTB槇瑛人とつないでトライ。続く17分には、ラインアウトから展開。SH宮尾昌典、SO伊藤のロングパスから大外に展開しWTB松下怜央を走らせて連続トライ。準備されたアタックが切れ味を見せる。(7-12)

 しかし帝京は慌てなかった。SO高本幹也のキックで確実にエリアを進め、早大陣にボールを運ぶと強力FWを前に出し、プラン通りの攻撃をスタートさせる。早大は粘り強くタックルを繰り返すが、フェイズが重なりそこに人数をかけることで外のDFが薄くなる。帝京はそれを見越したように右サイドに立つFL青木恵斗がタックルを跳ね飛ばしてトライ。帝京の強いヒットが早大のタックルを押し下げていく。(14-12)

そして27分、帝京のスピードアタックに早大のDFが破綻する。ラインアウトからSH李錦寿の早く長いパスにSO高本が思いきって前に出る。そこに帝京自慢の強力FW第3列が飛び込んで来る。SO高本がギリギリまでDFを引きつけ、アングルを内側に向けたNO8延原秀飛へ絶妙のパス。ショートサイドのアタックでは食らいつく早大のタックルが、このハイスピードに一発で破綻、ゴールポスト直下へのトライを明け渡した。(21-12)

 ここからゲームが動く。32分、帝京のスクラムが一気に前に出た。何とか低く、堅く組んでいた早大スクラムを後退させペナルティを獲得。帝京の王者への進撃が始まる。そして前半終了間際には、キック処理のこぼれ球をつないでWTB高本とむがトライ。ついに差を拡げた。(28-15)

 

後半の帝京は、さらにその強さを国立に集まった観衆に見せつける。SO高本の堅実なゲームメイク。スクラムでペナルティを奪い、アドバンテージから縦横無尽に攻め続ける。早大はショートサイドのアタックにはタックルで耐えるが、後方からスピードで飛び込んで来るランナーに対応ができない。ディフェンスの準備が整わない中、縦の突破からトライを許した。ここからはゲームの勝敗を超えて、大学ラグビー最強の帝京の目指してきたラグビーが展開される。

ミスのない、ぶれない攻撃に、もはや死角はなかった。ボールを奪われない、継続できるスキル。大型FWの縦の突破に加えて、BKの自在なステップとボール確保の強さ。イーブンボールへの反応も早大を勝り、後半だけで7トライ。大学決勝における合計11トライは最多記録となった。(73-20)

 試合終了と同時に歓喜の帝京。その表情は自信にあふれ、揺るぎない強さをスコアボードの得点差で示した。強い個とぶれない攻撃ポリシーを持つ、新たな伝統が生まれつつある。

求めていた勝利を確実なものとして躍動する帝京のジャージーには、この日喪章が付けられていた。かつて監督、部長を務めた増村昭策名誉顧問がこの優勝を前に亡くなったことによる。連覇の立役者である岩出雅之前監督、そして相馬朋和新監督とつながる襷は帝京ラグビーの圧倒的な強さを印象づけてこのシーズンを終えた。

全く隙のない王者の勝利だった。(照沼 康彦)


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記者会見レポート

▼早稲田大学共同記者会見

大田尾竜彦監督

「今日は勝つつもりで準備してきました。ここまでやれたということではこのチームは素晴らしいチームでした。今日の試合でこういった展開になってしまったことについて選手たちも辛いと思いますが、勝たせられなかったことは僕の責任であるとともに力の無さを痛感しています」

 

―今日のゲームプランと、そのプランの遂行度合いはいかがでしたか?

「『前半とにかく粘ろう』と、キックを使ってエリアマネジメントをきちんとやりながら、攻めるタイミングがあれば自分たちが準備したプランで攻めていくということにしていました。前半最後の帝京大の3連続トライ、特に高本とむ選手に走られたトライのところでは、試合の流れとして良くなかったと思います。前半にもっとうまく戦えていたら、いろんな戦略も変わってちょっと違ったのかと思いますが、そこだけではなく力の差が大きかったと思います」

 

―『そこだけではない力の差』とは具体的には何だと思いますか?また、対抗戦での対帝京大戦(注:帝京大49-17早稲田大)からさらにこれだけ点差が開いてしまったことの原因は何だとお考えですか?

「『そこだけではない部分』というのは、ミスをしたときの処理などうちは失点に繋がることが多かったのですが、帝京大はミスをしてもそこだけで完結して最小の傷口だけで済んでいるところです。あと、ボールを失わない力や、何回継続して早大側が人数かけても、ボールを獲れる気がしなく、オプションプレーでアタックかけてくるなどのところで、ボールのキープ力でかなり違うなと感じました。これだけの大きな点差になりましたが、ラインブレイクをされる数がかなり違ったと思います。ファーストフェイズからあれだけラインブレイクされることはなかなか経験したことはないですし、想定できていませんでした。その点は対抗戦での対戦から大きく変わっていたと思います」

 

―帝京大は前半にはオフロードパスを使ったり、ノータッチのキックが多かったり、繋いで来る印象でしたが、途中からはタッチキックなどでプレーを切るようになったと思います。帝京大が落ち着いて試合するような戦術の変化を見て、早稲田としてどのように対応していこうと思いましたか?

「勝つチャンスを考えたときに、彼等の余裕を奪うためには点差で離されずにくっついていくしかないのですが、やはり点差が離れてきました。もともとセットプレーが強みのチームなので、セットプレーを多くするように試合を作ってきて、うちがそれについて行けなくなって、帝京大にさらに余裕を持たせる試合展開になってしまったと思います。うちとしてはやりたいエリアでもう少しやりたかったなという感想ですが、やはり一度、帝京大のアタックが始まるとそれをなかなか取り戻せないというところが大きかったと思います」

 

―前半の最後、ハイパントのこぼれ球への再獲得を目指しての帝京大のリアクションの速さ(注:早大SH宮尾のボックスキックに競り合ったWTB槇がキャッチできず、そのこぼれ球を獲った帝京大がWTB高本のトライに繋げたプレー)での差についてはどう見ていますか?また、この『差』についてはどういったところでどのようにして『差』を埋めることができると思いますか?

「今年1年間チームを作ってきた中で特に対抗戦での対帝京大戦あたりから、自陣でのプレーへの対応をしてきましたが、少し一本調子になったのかなと思います。前半の最後、WTB槇が帝京大の選手と競り合ったところではボールの落下地点で帝京大の選手数はたぶん5、6人いたのではないかと思います。ああいったところで、うまく散らしながら蹴るということができなかったのだと思います。こぼれ球への反応、それを追っての周りの選手の反応などの全てで帝京大に上回られていたと思います。僕は2年間監督をやっていますが、その2年の監督経験にベースをおくと、攻撃に負荷をおいて練習をしていますが、これをベースとして、極端に練習時間をアタックかディフェンスのどちらかに振るのか、このベースを信じてアタックにはあまり手を加えずに組み立てるのか、といったような何か極端なものを仕掛けないといけないのかとも思います。今日、大量失点をして選手達もショックだと思いますが、これでもそこから何か得られるものを捜して何かやるとか、何かを残してくれるとか、そういったことにフォーカスしてやっていかなければならないと思います」

 

―事前取材の時は、スタンドオフの起用について少し迷われていたようですが、今日の2本目のトライでは伊藤大祐がいいロングパスを出してWTB松下がトライを決めました。ああいったところでは想定していたことがうまく行った手応えを感じましたか?

「そうですね。前半のトライの2本とも準備できたプレーでしたが、そこに大祐へのプレッシャーはあったかなと思います」

 

 ―『差をどう埋めるか』というお話でしたが、帝京大のフィジカルが強いというところとの差を埋めるにはどうしたらいいと思っていますか?

「今シーズンは我々もフィジカルな面に注力してベースアップして大分戦えるようになってきたと思いますが、それに加えて、イメージ的には、特にディフェンスで、ちょっと鋭さが足りなかったかと思います。昌彦(相良主将)はじめ、ボールを取り返せる選手はいるのですが、その選手達がコンテストをできるような、相手を早く倒せるタックルが少なかったのかと感じます。2、3秒粘られていたことの連続かと思います。まっすぐ来た選手へのタックルで、すぐコンテストに行けるような鋭い動きが『プラスα』で乗っかってこないといけないと思います」

 

相良昌彦キャプテン

「悔いが残らないようにしっかり一年間やってきて、この1週間いい準備もできていたのですが、やはり、ラグビーはセットプレーで負けたら勝てないのだなということを改めて感じました。やはりそこで帝京大の方が一枚も二枚も上手でした。今年積み上げてきたはずの接点やセットプレーで足りなくて、100%やってきたつもりだったのですが、もっと頑張らなければいけなかったのかなと感じます」

 

―試合開始後しばらくのところではタックルもすごくいいインパクトで入っていましたが、接点での強さの違いはどのように感じましたか?

「序盤はすごく粘れていたと思います。(帝京大に)ゲインラインを超させないようにはしていましたが、そこの接点で相手は2枚くらいで来ていましたが、自分たちはそこに3枚かけていました。相手が2枚のところにこちらは3枚で、互角にやれているように見えてはいましたが、結局はそこでは互角ではなかったと思います」

 

―22mラインの中に相手を入れてしまうと、なかなか止められないといったところはありましたか?

「『22mの中に入れてしまうと』というのもありますが、帝京大はどこからでもトライを取れるチームだと感じました。接点でやられたところもありますが、オーソドックスプレーでブレイクされるとか、フォワードだけでなくバックスもすごかったと感じました」

 

―スクラムでは、前半にはマイボールは確保できていたと思いますが、後半の途中からマイボールの確保も厳しいといった感じになりました。相手の『圧』が前後半で変わらなかったのですか?もしくは自分たちの『圧』が後半に弱くなってしまったのですか?

「再三、組み直しになったりしましたが、レフリーとのコミュニケーションがうまく取れなかったところがあったと思います。特に帝京大の『圧』が後半に強くなったとは思いません」



▼帝京大学共同記者会見

相馬朋和監督

「本日は協会関係者の皆様、早稲田大学の皆様、ファンの皆様、本当にありがとうございました。このような素晴らしい環境の中、決勝戦という舞台で戦うことができて、心から嬉しく思っています。学生たちは素晴らしいパフォーマンスを見せてくれて、優勝という形で今シーズンを終えることができて本当に幸せだなと思っています。どうもありがとうございました」

 

ー胴上げの時の思いは?

「今シーズンを振り返りまして監督という立場でここに座っておりますが、やはり横には岩出先生が居て下さって、ずっと帝京大学を支えて下さったスタッフの皆さんも、これまでと同じように学生たちをサポートして下さいました。学生たちが毎日、努力を積み重ね、そういった事を思い出しながら、監督として自分は本当に何をしたのだろう、そんな事を振り返った時間だったと思います」

 

ー今日は選手のジャージーに喪章が付いていましたが、増村昭策さん(帝京大学ラグビー部元監督、1月3日ご逝去)についての思いは?

「私が帝京大学に入った時が増村先生の1年目で、私を帝京大学に誘って下さったのも、私に最初にスクラムを教えて下さったのも増村先生で、素晴らしい先生でした。その当時、かなりお歳だったと思うのですが、実際、私と1対1で組みながら、首の使い方はこうなのだと教えて下さいました。実際にやって下さった事を、今も私が学生たちに同じように教えています。そうやって、ずっと繋がって行ければと、繋がって行かなければいけないと思います」

 

ー帝京大学の強さの理由は?

「何か一つではないと思うのです。本当に沢山の事が積み重なって。岩出先生が作ったこの文化、ここがまず一番重要な要素で、そこにキャプテンのように努力する事の素晴らしさを知っている学生たちが、毎日毎日、厳しい練習をすると共に、学生としての勉強にも励み。そういう事の繰り返しを多くの献身的なスタッフの皆さんが、彼らを包み込むようにサポートしているというのが、本当にこのチームの姿だと思います」

 

ー松山選手のキャプテンシーは?

「本当に全ての瞬間に全力でプレーできる、勇気の塊のような素晴らしいラグビー選手の一人です」

 

ー今日はポジティブなラックが多くできましたが?

「やはり、コンタクトの部分は我々の強みですし、その部分にこだわりをもって岩出先生が指導して下さった事ですし、我々が我々である為にすごく重要な要素です」

 

ー表彰式の間、岩出前監督とはどのようなやりとりが?

「私がこの一年間で何を感じ、何を学んで、それをどう学生たちに伝えて行くのか。それが、この一年間、私自身に向き合って来た部分なのですが、その中でこの決勝戦を見て。学生たちと同じなのですね。学生たちも岩出先生から色々なフィードバックを受けて。振り返って、沢山の質問をしていただいたというのは。そういう時間を決勝の後、先生と二人で過ごす事ができていました」

 

ーこういう所が良かったとかは無かったのですか?

「コーチとしてラグビーに向き合って来て、監督としてこうして初めて一年間過ごして来て、やはり多くの違いがあり、私の足りない部分も沢山あり、良いものは残し、さらに強化しながら、足りない部分をいかに補って行くのか。そんな事を話していました」

 

ー今でも十分強いが、足りない部分とは?

「私自身が成長する事が一番だと思っています岩出先生も、その場に留まる事はなく、常に成長されていました。そういう姿を見て、私自身もいかに学び続けられるのか、私の成長が止まれば、選手たちの成長も止まりますし、岩出先生のそういう部分に関して、これから私が継承していけるのかが重要だと思っています」

 

ー労いの言葉は無かったのですか?

「おめでとうと握手をして頂きましたし、本当に良く頑張ったという言葉も掛けて頂きました。それはもちろん、沢山の労いの言葉を頂きました」

 

ー胴上げの時の感覚は?

「そうですね、不思議な感覚でした。優勝した瞬間び私は泣くだろうなと思っていましたが、涙が出なかったのは不思議でした。やはり、自分自身がどのように成長して行かなければいけないのか、という事の方に意識が強く向いていると思います」

 

ー後半、スクラムで圧倒したが、どのように専門分野を伝えたのですか?

「まず、一人一人が強い『個』である事。どうすれば負けるのかという事を伝えながら、その為に必要な事を繰り返し努力して身に付ける事です。今日は素晴らしかったと思います」

 

ー決勝史上最大の得点差になった訳は?

「点差のことは意識していないと言いますか、とにかく、目の前の一瞬一瞬のプレーを積み重ねる事、その先に試合の結果がどうなるか。なので、今日はそういう結果でしたが、本当に展開次第では、逆になる事もあり得るとおもいますので、とにかく、目の前の一瞬一瞬、一つ一つのプレーを積み重ねて行くという事が大事だと思っています」

 

ー今年の4年生から学んだ事は?

「私にとって、一番最初の4年生です。これから何年監督をやれるか分かりませんが、まず、最初の基準になるのは彼らです。本当に仲の良い4年生たちだったなあと、見ていて思います。試合に出る、出ないに関わらず常に一生懸命にチームの為にできる事を探して、彼らから学生スポーツの素晴らしさ、この年代の成長して行く姿、喜びや嬉しさ、そういったものを沢山くれた4年生だったと思います」

 

 

松山千大キャプテン

「本日はありがとうございました。一年間、この舞台で優勝するために頑張って来ました。月並みな言い方ですが、やはり、メンバーだけでなく、メンバー外の全員で戦ってこのような結果になったと思います。本当にありがとうございました」

 

ー去年と違い、先発して優勝した思いは?

「とても嬉しいです。去年の優勝は出場時間も余りなく、自分の力で優勝できたかと言われると、あまりそうではなかったので嬉しさの反面、悔しさもありました。そこから一年間、自分は何ができるのだろうと考えて、チームを引っ張る立場としてハードワークして、結果優勝できたのをとても嬉しく思います」

 

ー序盤は判断ミスなどもありましたが?

「ゲームをしている中で、自分たちの規律の乱れがあり、相手に流れを掴まれてしまうシーンもあったのですが、しっかり、自分たちで原因が分かっていて、やるべき事も明確になっていたので、そこはしっかり修正できたと思っています」

 

ー接点に関して、プレーしてみた感触は?

「やはり、早稲田さんも決勝戦で簡単な相手ではなかったのですが、自分たちがこれまで積み上げて来たものがしっかり通用したと思います」

 

ー相手に取られた時、どのように修正を図ったのですか?

「スコアされたシーンが、自分たちのペナルティから自陣に来られて、そこからセットピースのアタックでトライを取られたので、もう一度、リズムの所を見直して、絶対に敵陣で戦う為に規律を守ろうと。早稲田さんがセットピースの所を狙って来るのは準備の段階で分かっていたので、そこを見つめるのではなくて、根本的な所を見直して来ました。常に敵陣で戦う事を大事にして、自分たちがスコアされるシーンはペナルティからの相手の攻撃なので、そこをしっかり一年間準備して来ました」

 

ー監督からのハグはどうでしたか?

「最高でした(笑)」

 

ー監督の人柄は?

「良く質問されるのですが、僕がいつも答えているのは、情熱的な方と感じているということです」

 

ー決勝史上最大の点差になった訳は?

「点差の事はあまり意識していませんでした。ただ結果に走ってしまうと、やはり一つ一つのプレーが疎かになってしまうので、プロセスの部分をしっかり大事にして戦いました。その結果が、こういう結果に結びついたと思います。チームメイトに感謝したいと思います」

 

ー下の学年に受け継いで行ってもらいたい事は?

「一年間僕が感じたのは、相手よりも準備の段階から、また試合の中でハードワークできるかどうか、そこが一番重要に感じました。その部分は3年の江良や奥井がしっかりと分かっているので、大丈夫だと思います」