7月2日更新
チャンスを多く作ったJAPAN XVだが、初戦はマオリ・オールブラックスに軍配。
このままでは終わらない、豊田の夜はきっと熱くなる。
6月29日(土)におこなわれた初戦で、マオリ・オールブラックスはJAPAN XVに36-10と快勝した。
両チームが奪ったトライ数は6と2。作ったチャンスの数は「超速ラグビー」を掲げるJAPAN XVの方が多かったが、インゴールにボールを置いた数はマオリ・オールブラックスの方が上回った。試合の3日前に来日も選手間のコミュニケーションがとれており、チャンスに効率よくスコアを重ねた。

JAPAN XVを率いるエディー・ジョーンズ ヘッドコーチ(HC)は、ハードワークで自分たちのスタイルを色濃く出そうとする若い選手たちについて、「エフォート(努力、取り組む姿勢)については感銘を受けた」とした。ただ、「負けるのは大嫌い」と、結果を素直に受け入れることは拒絶した。
7月6日(土)に愛知・豊田スタジアムでおこなわれる2戦目に向けて、JAPAN XVはイングランド代表とのテストマッチでも見られた決定力不足、遂行力の不足に関しての修正とブラッシュアップを続ける。「2027年(RWC)に完成するまで、毎週必ず成長し続ける」と話すジョーンズHCは、勝利が進化のスピードをはやくすることも当然分かっている。豊田の夜はきっと熱くなる。
マオリ・オールブラックスのロス・フィリポHCは第1戦で快勝した後、短い時間でチームが結束できた理由を、「成熟している選手がいて、キャプテン(FLビリー・ハーモン)は生粋のリーダーシップを持っています」とした。
そして言葉を続けた。
「選手たちには、マオリ・オールブラックスに選ばれた誇りがあり、自分たちが何を期待されているか分かっています。そして、そのためにやるべきことも。なぜ自分たちがこのジャージーを着てプレーしているのか、(それぞれの思いを)胸に刻んでプレーしている。その姿を見ていられるのは幸せなことです」
チームは出発前、予期せぬ事態に直面した。ツアーに参加する可能性もあった一人の選手が急逝したのだ。
HCは、「悲しくて、心が揺さぶられる出来事だった」と振り返る。しかし選手たちは喪に服しながらも、マオリ代表としての責任を果たし、プライドを守ることで友人を天へ送り出した。
ソウルフルなチームとの対峙はJAPAN XVにとって、特別なものを得る戦いになるだろう。
それは、観戦者にとっても同じ。琴線に触れる80分が待っている。
6月29日(土)に秩父宮ラグビーで、7月6日(土)には豊田スタジアムで、JAPAN XV 対 マオリ・オールブラックスとの2連戦が行われる。ニュージーランドの先住民、マオリの血を受けつぐ選手たちで編成される「マオリ・オールブラックス」は一体どのようなチームなのか。伝統文化を重んじるチーム精神、歴史、注目の選手を元ラグマガ編集長田村一博が紐解く。
JAPAN XVとマオリ・オールブラックスの試合は2014年以来、約10年ぶり
ただ強く、ただラグビーをするチームではない
マオリ・オールブラックスは、カルチャーを大事に、ニュージーランドの魂を継承、伝える集団だ。
マオリ・オールブラックスの歴史は長い。初めてチームが結成されたのは1888年だ。当時の呼び名は「ニュージーランド・ネイティブス」。14か月をかけて英国遠征を実施し、その間に戦ったのは107試合。78勝23敗6引き分け(772得点、305失点)という戦績だった。マオリ代表が正式にステータスを得たのは1910年。オーストラリア遠征を実施した。
同代表の残してきた輝かしい足跡を振り返る前に、「マオリ」のことを知っておきたい。ニュージーランドの先住民族のことだ。
ポリネシア諸島の伝説の島「ハワイキ」から、約1000年前に、7隻の船(航海用カヌー)でやって来たポリネシア系の人たちがいた。彼らは新しい足を踏み入れたその土地を『アオテアロア』(長く白い雲がたなびく国/マオリ語でニュージーランドの意)と呼んだ。
厳格なマオリ代表の資格、芯にあるのはチームへの忠誠心
マオリ代表の資格は厳格だ。「カウマトゥア」と呼ばれるチームの文化顧問が選手の家系を追跡調査。血統の継承を確かめ、選手資格を認定している。選手のプロフィールには『イウィ』が記される。それぞれのオリジナルを示すもので、『部族』を表す。
そもそもマオリとは「普通」という意味。もともとそこにいた、の主張が感じられる。その人たちがいくつもの部族に分かれて各地に点在、定住して伝統文化を創造していった。選手たちは全員、どこかの部族にルーツを持つ。
選手資格ひとつをとっても、伝統文化を大切にしているチームとよく分かる。結成されると、まず選手たちへのマオリ文化の再教育がおこなわれる。ハカ(試合前の舞い)も独特だ。
【動画8秒〜】試合前の舞い「ハカ」
自分たちの出自を大切にしている者たちだから、チームへの忠誠心は深い。それが芯にあるから勝利へのパッションも溢れる。歴史をひもとけば、語り継がれる勝利がいくつもある。時には、「オールブラックスより強いのではないか」と声が聞こえてくることもあった。
例えば、1946年にはオールブラックスの好敵手、オーストラリア代表に20-0と完勝。1961年にはフランス代表に5-3と勝利し、1981年には南アフリカ代表相手に12-12と引き分けた。
2000年代に入っても、2005年にブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ(19-13)、2010年にイングランド代表(35-28)に勝った。直近では、2022年にアイルランド代表を破っている(32-17)。日本代表とは3回戦い、全勝だ。

日本ラグビー デジタルミュージアム

マオリ・オールブラックスのプレースタイル
マオリ・オールブラックスのジャージーには、独特の柄がデザインされている。選手たちも、体にタトゥーを入れている選手が多い。マオリにとってタトゥーは、ファッションではなく、家紋のようなもの。自身の祖先、ルーツなどを表わしている。
プレースタイルに目を移せば、接点でのハードさは広く知られている。ただ、タイトなプレーに固執することなく、BKの攻撃力も高い。いつの時代も、無骨な FWと、好タックラー、好ランナーが多く揃っている。
今回の来日メンバーにも精鋭たちが揃っている。FWで注目されるのは、PRジョー・ムーディーだ。オールブラックスに選ばれてテストマッチ57試合でプレー。2015年と2019年のRWCに出場している。
経験豊富な1番は、スクラムでJAPAN XVに圧力をかけてくるだろう。クルセイダーズの一員としてスーパーラグビーキャップは109。35歳になっても強力なスクラメイジャ―として活躍中だ。ジュニア時代はレスリングの世界でも代表選手に選出されて国際大会で銅メダルを獲得した。体の使い方が巧みな証拠だ。
FLのカレン・グレースもオールブラックスの経験がある。今シーズン、所属するクルセイダーズはスーパーラグビー・パシフィックで低迷するも、本人はNO8とブラインドサイドFLとして14試合に出場。ワークレートの高いプレーで輝いた。
BKのキャップホルダーはSHテトイロア・タフリオランギとCTBクイン・トゥパエア(ともにチーフス)のみも、スーパーラグビー・パシフィックの今季決勝にブルーズ×チーフスに出場した選手たちが4人いる。SOには24歳のリヴェズ・ライハナ、21歳のタハ・ケラマと、クルセイダーズの若い2人が入った。
タフリオランギは2018年に3キャップ。日本代表戦にも出場している。パス、ランプレーとも鋭い。トゥパエアは2021年、2022年に14キャップを獲得し、今季のスーパーラグビー・パシフィックでも準優勝のチーフスで14試合に出場と経験値は高い。ミッドフィールドを引き締めそうだ。
世界各地へツアーに出れば、フィールドの内外でマオリカルチャーを広める活動にも力を入れるチーム。今回は、10選手が初めてのマオリ代表。来日中に伝統の継承がおこなわれる。ラグビーの良さのひとつに「絆」があることを再確認させてくれる男たちの魂を感じよう。
【リポビタンDチャレンジカップ2024 JAPAN XV vs マオリ・オールブラックス】
東京・秩父宮ラグビー場
日程:6月29日(土) 19:00 K.O
主催:公益財団法人 日本ラグビーフットボール協会
主管:関東ラグビーフットボール協会、東京都ラグビーフットボール協会
特別協賛:大正製薬株式会社
後援:東京都
チケット情報・試合情報はラグビー日本代表応援サイト「WE ARE BRAVE BLOSSOMS」をご覧ください。
https://www.rugby-japan.jp/braveblossoms/match/20240629
愛知・豊田スタジアム
日程:7月6日(土)18:00 K.O.
主催:公益財団法人 日本ラグビーフットボール協会
主管:関西ラグビーフットボール協会、(一社)愛知県ラグビーフットボール協会
特別協賛:大正製薬株式会社
後援:豊田市
チケット情報・試合情報はラグビー日本代表応援サイト「WE ARE BRAVE BLOSSOMS」をご覧ください。
https://www.rugby-japan.jp/braveblossoms/match/20240706