女子のラグビーを見たことのない方にこっそりオススメしたい。この夏は女子セブンズ観戦デビューのチャンス!


かつては「男のスポーツ」と称されたラグビーも、現代では男女が同じ条件で行われるスポーツとして世界的に普及拡大中。それは日本も同じで、特に女子7人制の日本代表(愛称サクラセブンズ)は現在世界の舞台でブレイク中だ。国内での大会は少ないが、世界6都市を転戦するワールドシリーズ「HSBC SVNS」では3月のバンクーバー大会でチーム史上最高順位を更新する4位入賞。ラグビーには15人制と五輪種目になっている7人制があるが「女子7人制」は男子と女子、15人制と7人制の中で、最も世界のトップに近いカテゴリーなのだ。

HSBC SVNS2025バンクーバー大会でアメリカ代表に勝利し、史上初のベスト4進出を決めたサクラセブンズ

 その女子7人制ラグビーを国内で満喫できる大会が始まる。国内トップ12チームが国内4カ所を転戦してチャンピオンを争うミニワールドシリーズ「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ」だ。今年は6月21―22日の埼玉・熊谷大会で始まり、7月20―21日の福岡・北九州大会、8月2-3日の大阪・花園大会と続き、3大会での獲得ポイント上位8チームが、8月17日に北海道の大和ハウスプレミストドーム(旧・札幌ドーム)で年間王座をかけたグランドファイナルに臨む(12チームのうち獲得ポイント下位4チームは下部との入替戦に回る)。

大会は2014年に、五輪に向けた選手の発掘・育成と実戦機会の創出を目指して誕生。16年リオから21年東京、24年パリと3度の五輪に日本代表で出場した選手は全員がこの大会で実戦経験を積み、世界へ向けて飛び立った。

2014年大会に出場した桑井亜乃レフリーはオリンピックに選手としてもレフリーとしても出場


大会の魅力は大きく分けて3つ

その1は世界でブレイク中の日本のトップ選手を見られることだ。

この大会は昨年まで、ワールドシリーズと日程が重なることが多かったが、今季はスケジュールを見直した。今季のワールドシリーズは5月3-4日のロサンゼルス大会で閉幕し、日本代表の選手たちはそれぞれの所属チームへ帰還して開幕に備えた。

大会でぜひ注目してほしい選手はまず、ワールドシリーズの年間ドリームチームの一人に選ばれた梶木真凜(自衛隊体育学校)だ。25歳のFWは身長164㎝と大柄ではないが体幹の強さは抜群で、海外の大型選手にも臆せずタックルを浴びせ、相手からボールを奪い取るスティール(旧称『ジャッカル』の方が馴染み深いか?)が真骨頂だ。

サクラセブンズの主力でパリオリンピックでの活躍も印象的な梶木真凜

もうひとりは日本体育大学の2年生、20歳の谷山三菜子だ。日本が初の世界4強入りを決めたワールドシリーズバンクーバー大会準々決勝では、延長戦で日本の勝利を決めるサヨナラトライ。このトライはワールドシリーズの年間ベストトライに選出された。谷山の武器は視野の広さ。パスとキックで味方を活かし、スペースがあればダイナミックなステップで相手タックラーを転がし、自らトライラインを攻略する、蹴って良し走って良しの頼れる司令塔だ。リーグワンの強豪・埼玉ワイルドナイツの万能BK谷山隼大は実兄。28年LAで兄妹揃っての五輪出場を狙う。

HSBC SVNSアワード2025で「トライ・オブ・ザ・イヤー」を受賞した谷山三菜子

痛快さNO1のトライゲッターは東京山九フェニックスの奥野(旧姓・原)わか花だ。東京とパリの五輪2大会に出場し、昨秋に結婚したのを機に引退する意向を表明していたが、リーグワン3部の狭山ラガッツでFWとしてプレーする夫・奥野翔太さんに刺激を受けて現役続行。武器は猛加速で大外のスペースを走り抜ける圧巻のスピードで「新幹線娘」と呼ばれた。今季からは「新幹線マダム」か?

新潟県出身で抜群の俊足、新幹線が好きなことから「新幹線娘」と親しまれる奥野わか花


魅力その2は世界のスーパースターが集結していることだ。

中でも、三重県が本拠地のパールズには、ラグビー王国ニュージーランド(NZ)の代表「ブラックファーンズ」で長く主将を務め、五輪とワールドカップあわせて6度も世界一に輝いてきたレジェンド、サラ・ヒリニ(32)、ブラジル代表でワールドシリーズ通算100トライを達成したタリア・コスタ(28)が加わった。タックルに密集戦にタフに身体を張るサラと南米超特急タリアの疾走は今大会の必見ポイント。この豪華競演が見られるのは世界で初めてなのだ!

サラ・ヒリニは「史上最も優れたセブンズプレーヤー」として世界が認めるレジェンド

ブラジルからやって来たタリア・コスタは今年のワールドラグビー女子セブンズ年間最優秀選手賞を受賞

そのパールズで昨年、4大会で34トライをあげ年間トライ王に輝いたパリ五輪ケニア代表のジャネット・オケロは今季、山口県のながとブルーエンジェルス(NBA)に電撃移籍。大会3連覇を目指すNBAには他にもオランダ代表のプルーニ・キヴィット、タイ代表のジラワン・チュトラクン、フィジー代表のアナ・ナイマシなど世界各国から才能が集結。そのチームをまとめるのがパリ五輪日本代表の主将を務めた平野優芽だ。まさにボーダーレスなタレント集団だが、それはNBAに限らない。

横浜市が拠点のYOKOHAMA TKMには五輪2大会のフランス代表ヨレイン・イェンゴ、15人制国内大会で3連覇中の東京山九フェニックスにはカナダ代表で五輪3大会出場のチャリティ・ウィリアムズ、札幌市が拠点の北海道バーバリアンズ ディアナにはウガンダ代表でフェラーリと異名をとるエミリー・レクル…大会自体が多国籍化しているのだ。選手たちは地元の企業の海外部門で働いたり、学校や幼稚園をスポーツ指導に訪れたり。各大会で見られる各チームへの熱い応援を見れば地域社会や職場への溶け込みぶりが分かる。


魅力その3は日本の若き才能の挑戦だ。

昨年12月にNZで開かれたユースの世界大会「グローバル・ユース・セブンズ」で日本はNZとオーストラリアを連破して優勝。そのチームで司令塔を務めた大内田葉月(福岡・修猷館)、空中戦に強い齋藤紗葉(すずは=神奈川・関東学院六浦)、トライゲッターの藤原郁(かおる=京都・京都成章)は今春、日体大に入学。東京都武蔵野市で活動する横河武蔵野アルテミ・スターズには主将を務めた万能BK木川海(きかわ・うみ=宮城・佐沼)が、福岡県が拠点のナナイロプリズム福岡には抜群のスピードでトライを量産した伊礼門千珠(いれいじょう・ちじゅ=佐賀・佐賀工)が加わった。

大内田葉月は6月7-8日に行われた全国大学女子7人制大会(カレッジセブンズ)で
日体大女子の優勝に大きく貢献した


「グローバル…」組だけではない。大阪府の追手門学院大、埼玉県の立正大学生を中心とするアルカス、そして前述・梶木のいる自衛隊体育学校PTSも、国産選手を鍛え上げて強敵に挑む。太陽生命シリーズでは、強敵との戦いを通じて、近い将来サクラセブンズ入りする才能の煌めきを目撃できる。

もうひとつ、太陽生命シリーズならではの存在が「チャレンジチーム」だ。自チームで出場できない選手や高校生の有望選手が集まり強豪に文字通りチャレンジ。前述の梶木や谷山も高校時代からこのチームでトップ選手たちと対戦を重ねて成長を果たした。今季の高校生には、前述・昨年のグローバル・ユース・セブンズに高2で出場した伊藤ちひろ(関東学院六浦、BR東京伊藤耕太郎の妹)、高1で出場した大内田彩月(修猷館、日体大・大内田葉月の妹)など才能がひしめいている。8月の入替戦で太陽生命シリーズ昇格を目指す日本経済大や急成長中の早大などシニアチームからも参戦する選手が現れるかもしれない。

関東学院六浦3年の伊藤ちひろは昨年もチャレンジチームに参加。全国U18女子セブンズでは高1から2連覇中


このように、太陽生命ウィメンズセブンズシリーズでは、世界で躍進を続ける日本のトップ選手と世界のスター、そしてあすの日本代表を担う若き才能たちのパフォーマンスをまとめて満喫できる。昨年は日体大1年生だった谷山三菜子がこの大会で世界と日本のトップ選手と対戦しながら急成長。シリーズ終了後の8月にはサクラセブンズの候補合宿に招集され、9月にアジアシリーズ、11月にワールドシリーズにデビュー。3月には世界の4強入りそしてベストトライスコアラーへと、僅か1年足らずで駆け上った。そんなスター誕生が、今年も再現するかもしれない。


28年ロサンゼルス五輪に向けたヒロインたちの躍動を探す、純粋にトライやタックルの攻防を楽しむ、あるいは選手のカラー顔写真入り大会プログラムや各チームのSNSから推しの選手を見つける……どんな愉しみ方も可能な太陽生命ウィメンズセブンズシリーズは、なんと全大会とも入場無料だ。まずはスタジアムへ出かけて、そのプレーを、スリリングなゲームの連続を、歓喜と失望がめまぐるしく交差する選手たちの表情を、どうぞお楽しみください! 

(文・大友信彦)

(左から)奥野わか花(東京山九フェニックス)、岡元涼葉(東京山九フェニックス)、
平野優芽(ながとブルーエンジェルス)、山中美緒(PEARLS)、
吉田鳳子(北海道バーバリアンズディアナ)、三枝千晃(北海道バーバリアンズディアナ)


◇ 太陽生命ウィメンズセブンズシリーズとは?

・『応援があるから、挑戦できる。』太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ:https://www.youtube.com/watch?v=nZ_Ur69NWP0
・実施概要・当日情報: https://www.rugby-japan.jp/news/53148