広大なフィールドに立つのは選ばれし7人。7人制ラグビー(セブンズ)で試される能力は、相手を置き去りにする「スピード」や無尽蔵の「体力」、壁をぶち破る「突破力」、繊細な「技術」と幅広い。精鋭が集う男子セブンズ日本代表が、9月20日・21日に中国・杭州で開催される「アジアラグビーエミレーツセブンズシリーズ2025 中国大会」に挑む。一瞬先すら読めない、セブンズの躍動感を体感しよう!

 

世界レベルのフィジカルに近づこうと厳しい練習に励む男子セブンズ・ディベロップメント・スコッド(SDS)の選手たち 

(男子SDS福岡合宿 2025.06.03)

◇「究極の鬼ごっこ」

 セブンズは15人制と同じ広さのフィールドを使用して、7分ハーフで試合が行われる。ポジションはフォワード3人とバックス4人で構成するが、キックオフをしてしまえば、役割は流動的に。一人一人の選手がカバーする範囲が広く、ボールが大きく動きながらのダイナミックなプレーの連続は、「究極の鬼ごっこ」とも表現される。3対3で組むスクラムや3人以下が並ぶラインアウトなど、15人制との細かな違いも見ていて面白い。また、セブンズは2016年のリオデジャネイロオリンピック(五輪)から正式競技として採用されて、日本でも強化が進んだ。

 そのトップ選手の集まる男子セブンズ日本代表は、2024年9月に就任したイングランド出身のフィル・グリーニング ヘッドコーチ(HC)のもとで、新しい仕組み作りを進めてきた。それは、7人制だけではなく15人制そしてユース世代も含めた日本ラグビー界全体の底上げを視野に入れた、セブンズの強化策である。

 フィル・グリーニングHCの就任直前、日本は真夏のフランスで悔しさに打ちひしがれた。2024年7月のパリ五輪、1次リーグでニュージーランド、アイルランド、南アフリカに3連敗して、9~12位決定戦でもサモアに完敗。11・12位決定戦でもウルグアイに敗れて5戦全敗に終わった。リオデジャネイロ五輪4位、東京五輪11位に続く3度目の五輪で初めての最下位に沈んだ。当時キャプテンを務めた石田 吉平は「本当に悔しい、言葉が見つからない。自分たちのプレーを貫こうとしたが、経験の差は大きかった」と振り返った。 


パリ五輪では手応えを感じる場面もあったが、結果は最下位に終わった

(パリ五輪 7人制ラグビー競技 9~12位決定戦・準決勝 日本 vs サモア)

◇ 「Waterfall Effect」への期待

 グリーニングHCが注目したのも、まさにこの「経験」の部分だった。就任記者会見では「(日本には)若くて楽しみな才能を持った選手が大勢いる。7人制のプログラムを通して経験値を与えて、リーグワンや15人制代表で花咲くような選手を育てていきたい」と語った。

 セブンズ強化の展望を語るはずの場で出た異なるカテゴリーの話。就任から約1年がたち、グリーニングHCがその真意を明かした。

 「今の日本の23歳以下の若手のフィジカルレベルは、イングランドやニュージーランドなどの強豪国・地域の10代の選手と同じくらいの力しかない。日本ラグビーの底上げのために今の若手に必要なのは、早い時期からプロのコーチの元で指導を受けて、フィジカルのレベルが高い国際舞台で戦う機会を持つこと。セブンズであればその機会を提供できる。(15人制代表の)エディー(・ジョーンズ)HCともコミュニケーションを綿密に取って、パスウェー(進路)を作り上げている」

 日本より世界ランキングが上位の強豪国・地域では若いうちからセブンズで国際舞台を経験させて成長を促し、ゆくゆくは15人制の主力を担わせるような仕組み作りが既に確立されている。グリーニングHCは「セブンズ、15人制、ユース世代が同じビジョンを持って、『Waterfall Effect』、滝が流れるように勢いよくスムーズな強化につなげ、日本ラグビー界全体の底上げにつなげたい」と今後の展望を思い描く。


フィル・グリーニングHCはセブンズ強化だけではなく、日本ラグビー界全体の底上げに意欲を示す

(男子SDS別府合宿 2025.08.22)

 

 背景には近年、セブンズのプレースタイルが変化して、15人制により近づいていることも一因にある。グリーニングHCは「パリ五輪でもドライビングモールなど、昔のセブンズの大味な1対1の勝負だけではなく、15人制のような細かい戦術も見られるようになった。逆にフランス代表の(アントワーヌ・)デュポンのジャッカルはセブンズで培った技術だと聞く。近年のセブンズはスキル、フィットネス、フィジカルで15人制と同レベルが求められ、両者はより近付いている」と分析する。

 セブンズのイングランド代表アシスタントコーチやアメリカ代表アシスタントコーチ兼ハイパフォーマンスコーディネーターなど経て来日したグリーニングHC。元々、日本文化に興味を持っていて、好きな言葉は「一期一会」「わびさび」。二度と同じ時間はない、との意識で一瞬一瞬を大切にしながら、セブンズにとどまらない日本ラグビー界全体の明るい未来に視線を向けている。

◇セブンズ一本、津岡の覚悟

トライゲッターとしての誇りを胸に、チームに尽くす津岡翔太郎

(男子SDS熊谷合宿 2025.06.18)

 

 パスウェーを重視する指揮官の下、この一年間は多くのカテゴリーをミックスする形で選手を招集してきた。五輪経験者やセブンズのアカデミー出身者、先に15人制代表を経験した選手やリーグワンのクラブから若手も受け入れ、世界に通じるフィジカルとフィットネス、スキルの強化と国際舞台の経験を積み重ねてきた。

 パリ五輪を経験して主力選手の一人としてチームの先頭に立つのが津岡 翔太郎だ。「僕の仕事は分かりやすくトライを取ること。1対1の攻防のところなので、そこはアジアに限らず世界に出ても負けてはいけないし、自信を持ってやっている。今季のテーマは爆発的な速さと強さを身につけること」と自らのプレースタイルを語り、生粋のトライゲッターとして大きな存在感を放つ。

 元々15人制でも活躍をしていたが佐賀工、帝京大を経て加入したコカ・コーラレッドスパークスが21年末に活動終了となったことを受けて、セブンズ活動に専念するようになった。最初は「15人制と7人制、どちらを続けるか悩んだ」というが、「セブンズの方が分かりやすくシンプル。15人制が2時間映画だとしたら、セブンズは短いショートドラマみたいなイメージで、その中に醍醐味が凝縮されている」と次第にのめりこんだ。

 「あの時点でできる、最大限は出し切った。ただ、世界と比べると経験値とフィジカルが全然まだまだ及ばなかった」と振り返るパリ五輪を経て、昨年秋からグリーニングHCの指導を受けるようになり「フィルは今までにない戦い方。例えばボールの動かし方や戦術、守り方などを示してくれる。今、僕たちは驚くほどの成長曲線を描けている自信がある」と個人としても、チームとしてもさらに前進できているとの、手応えをつかむ。

 セブンズ一本で取り組んできたからこその、決意や誇りもある。15人制と比較するとまだまだ厳しいセブンズの競技環境や競技人口。津岡は「セブンズの面白さにもっともっと目を向けてもらいたい。そのためには僕たちが勝って結果を出して、高校生や中学生が目指してくれる場所にならないといけない。責任は重大です(笑い)」と、胸の内に熱い思いを持ち続けている。 

◇大会方式も大きく変化

チームでは五輪経験者やアカデミー出身者、リーグワン所属など様々な背景を持つ選手が交わり、相乗効果を生む

(男子SDS別府合宿 2025.08.22)

 

 グリーニングHCの就任後は、パリ五輪を経験した津岡や古賀 由教、ケレビ ジョシュアら、アカデミー出身の仲間 航太や植村 陽彦ら、15人制代表から李 智寿や高本 とむ、リーグワンからも荻田 直弥や宮坂 航生、吉本 匠希など、トレーニングメンバーを含めて幅広い背景の選手が呼ばれてきた。この一年で様々なカテゴリーの人材の交流が進んだ。グリーニングHCは「それぞれが持つ経験や考えが相乗効果を生んで、成長のスピードを加速させてくれる」と語り、ここまでの改革は前向きな要素が多そうだ。

 世界のセブンズも大きな変革の最中だ。これまでのHSBCワールドラグビーセブンズシリーズやチャレンジャーシリーズを来季から3部制に再編。最上位カテゴリーの「HSBC SVNS DIVISION 1」、2部相当の「HSBC SVNS DIVISION 2」、3部相当の「HSBC SVNS DIVISION 3」となる。「HSBC SVNS DIVISION 1」は2025年11月から2026年3月まではレギュラーシーズンとして6大会を行い、4月から6月に香港、スペイン、フランスでワールドチャンピオンシップ3大会を開催予定。日本はまずは「HSBC SVNS DIVISION 3」(2026年1月開催予定)への出場権を獲得するために、今回のアジアラグビーエミレーツセブンズシリーズ2025 中国大会、そして10月のスリランカ大会で好成績を残し、総合優勝することが今秋の最大の目標となる。

 まず、中国大会で幸先よいスタートを切ることが必要不可欠だ。大会の模様はオンラインの「Rugby Pass TV」やアジアラグビー公式YouTube、公式Facebookなどで配信予定。グリーニングHCは「日本特有のスキルをいかした早い展開のラグビー、そして最後まで走りきって戦い続ける『サムライウェー』を見てほしい」と呼びかける。速い、強い、うまい――。三拍子そろいつつある男子セブンズ日本代表の新たな旅が始まる。


まずは直近のアジアラグビーエミレーツセブンシリーズ2025 中国大会での活躍が期待される男子セブンズ日本代表

(男子SDS福岡合宿 2025.06.05)

 


(文・角田直哉)


<アジアラグビーエミレーツセブンズシリーズ2025 中国大会>

■男子セブンズ日本代表 大会スケジュール

<プールB> ※大会1日目 (9月20日)

 

現地時間

(予定)

日本時間

(予定)

対戦相手

プールB 第1戦

12:18

13:18

スリランカ代表

プールB 第2戦

16:42

17:42

シンガポール代表

プールB 第3戦

21:06

22:06

タイ代表

※大会2日目(9月21日)については、大会1日目終了後にJRFUホームページにてご案内いたします。


■外部リンク

男子セブンズ日本代表 中国遠征のスケジュールと参加メンバーはこちら

アジアラグビー 公式ホームページはこちら

アジアラグビー 公式YouTubeはこちら

アジアラグビー 公式Facebookはこちら

Rugby Pass TV (試合視聴サイト、要無料登録必要)はこちら