東北初のテストマッチは、勝利に意欲を燃やすジャパンの、意表を突く逆サイドへのキックオフで始まった。
キックを効果的に使った組み立てとディフェンスラインの速い押し上げから、終始、敵陣で押し気味に試合を進めるものの、セットプレーに安定性を欠き得点に結びつかないジャパン。特にスクラムは今年から採用された新しい組み方への対応がまだできないのか、フリーキックを連続して取られた上に、バックチャット(レフリングに対して、ついネガティブな反応を示してしまったものと思われる)などでさらに10m下げられ、波に乗れない。一方、サモアも時折ジャパン陣内に攻め込むが、しつこいディフェンスにあい、ハンドリングエラーでボールを失う。

前半16分、今村のラインブレイクからサモアがたまらずタックルオフサイド。安藤のPGでジャパンが先制し3-0。赤く染まったスタンドの勢いそのままに、集中力の高いディフェンスで当たりの強いサモアに対して一歩も引かないジャパンは、ターンオーバーからキックで再び敵陣に。前半38分に箕内主将が負傷退場。フィジー戦の混乱が頭をよぎるが、今大会で確かな成長を続けるジャパンは、一人一人が意識を高く保ち、主将代行のLO大野を中心としてゲームプランの遂行に迷いなど生じない。最少得点ながらジャパンがリードのまま前半終了。

後半、ランキング上位国として意地でも負けられないサモアが立ち上がりから激しくジャパンを攻め立てる。
7分、ジャパンのノットロールアウェイの反則からサモアがPGを決め、3-3の同点とする。接点で反則が増え始めたジャパンだが、CTB大西の鋭い出足からの突き刺さるようなタックル、FLマーシュを始めとするFW陣の密集での働き、サモアのラインアウトのミスに助けられ、陣地を取り戻す。28分、遠藤のカウンターアタックからの突破を起点に、大きく展開して得た反則でSO安藤がPGを狙うが失敗。ドロップアウトのボール処理にもたつくところにサモアが殺到。密集でジャパンが反則を犯すと素早く展開し22番ファアタウにタッチライン際を突破されてついにトライを献上する。

ここからジャパンが猛攻。WTB遠藤がタッチライン際を好走し大きくゲイン。連続攻撃を仕掛けるが細かなミスで攻めきれない。35分、サモア陣で得たPKからタッチキックでゴール前6mのジャパンボールラインアウト。絶好のチャンスであったが、投げ入れられたボールはLOトンプソンの手を越えて、サモアがピンチから脱出。40分、PGを追加され10点差とされるが、最後までトライラインをめざして低く・速く前に出るジャパン。しかし、追加点を挙げることはかなわず、このままノーサイドを迎えた。

99年のパシフィックリムでは点の取り合いでサモアから勝利を収めたジャパンだが、それ以外の対戦ではことごとく30点以上の差をつけられてきた。今回、ここという場面でのミスによって勝利を引きよせられなかったことは事実であるが、緊迫した互角の戦いを演じられたことは、ディフェンスの成長と折れない心の証明であり、選手も自信を深めたに違いない。(宮城県協会:高松)

IRBパシフィック・ネーションズカップ TOSHIBAジャパンラウンド

日本代表 3-13 サモア代表   日本代表 3-13 サモア代表   日本代表 3-13 サモア代表
日本代表のジョン・カーワン ヘッドコーチ(左)、大野均ゲームキャプテン
日本代表のジョン・カーワン ヘッドコーチ(左)、大野均ゲームキャプテン

写真提供:宮城県ラグビー協会 高橋良明

日本代表 3-13 サモア代表(6月16日(土)14:00 at宮城・ユアテックスタジアム仙台)

◎日本代表
○ジョン・カーワン ヘッドコーチ
「すばらしい試合をすることができた。テストマッチは一つのことで勝敗が決まる。まさしくそのとおりの試合であった。ディフェンスの押し上げもよく、ラインアウトもうまくやれていた」

○大野均ゲームキャプテン
「東北初のテストマッチで、ぜひとも勝ちたかったが、結果は残念であった。オーストラリアラウンドの経験と反省から、世界一速いラグビーを目指して今日のような試合ができたことはよい経験となった」

――勝てるはずだった試合のターニングポイントは。JAPANが握るべきものは。
○カーワン ヘッドコーチ

「前半JAPANにチャンスがあったが点に結びつかなかった。後半、突破からトライを奪われたが、試合全体では互角という判断が正しいのではないか」

――スローワーの入れ替えのタイミングに問題はなかったか。
○カーワン ヘッドコーチ

「タイミングということで言えば、足がつっていた松原はもっと早く入れ替えるべきだったと思う。これは私のコミュニケーションの問題」

――今日はトライを奪えなかった。ワールドカップまで時間はないが、今後攻撃のオプションを増やしていく考えは。
○カーワン ヘッドコーチ

「今回はキッキングゲームで臨んだ。トライは必要だが、相手をよく知り毎試合戦術を変え、クレバーにやりたい。今後も戦術を磨いていきたい」

――箕内主将の負傷退場後、チームの統率は。
○大野ゲームキャプテン

「フィジー戦の反省を生かし、一人一人が強い意志で戦術どおりにやれたと思う」

――安藤選手のPG(ペナルティゴール)失敗が続いたが後半にも狙わせた場面の判断は。
○大野ゲームキャプテン

「ラインアウトは考えなかった」
○カーワン ヘッドコーチ
「PGを狙う判断は間違っていなかった」

――もっと正確なキッカーが必要では。
○カーワン ヘッドコーチ

「SOとしての安藤選手の今日の出来は、ディフェンスラインの統率と押し上げなどをはじめ、良かったと思う。日々ステップアップしている」

――他のキッカーを考えることは?
○カーワン ヘッドコーチ

「先週は別の選手に経験をさせた。私はスコッドの広がりを考えている。プレッシャー下での経験をスコッド全体に積ませたい。もちろんもっと良くならなければと思っている」

――昨年と比べてチームの成長を感じることは。
○大野ゲームキャプテン

「昨年のPNCは大敗の後、後半戦は気持ちで頑張っていた。今年はJKの示してくれたシンプルなゲームプランを実行し、手応えをつかんでいる」

――具体的に進化を実感することは。
○大野ゲームキャプテン

「体格に勝る相手に当たり負けしないことと、ディフェンスラインの押し上げが機能していること」

――優勝宣言は果たせなかったが、プランの狂いと修正すべき点は。
○カーワン ヘッドコーチ

「今日はプランどおりに試合を行えた。内容はハッピーなもの。結果は残念だが、選手は成長しているし、よく理解もしてくれている。PNCでは優勝できなかったが、来週の強い相手にも今日のようなプレッシャーを与え、拮抗した試合をしたい」

日本代表 3-13 サモア代表   日本代表 3-13 サモア代表   日本代表 3-13 サモア代表

サモア代表のマイケル・ジョーンズ ヘッドコーチ(左)、レオ・ラファイアリ ゲームキャプテン
サモア代表のマイケル・ジョーンズ ヘッドコーチ(左)、レオ・ラファイアリ ゲームキャプテン

写真提供:宮城県ラグビー協会 高橋良明

◎サモア代表
○マイケル・ジョーンズ ヘッドコーチ
「今日はとてもラッキーだった。JAPANの健闘ぶりを祝福したい。我々に絶えずプレッシャーをかけるチームの成長とよくコーチングされている点に感心した」

○レオ・ラファイアリ ゲームキャプテン
「JAPANはよく練習し、成長したことを実感した。おそらくは皆さんが思うよりずっと私たちは体で感じた」

――南アフリカからの長旅の影響は。
○ジョーンズ ヘッドコーチ
「言い訳にはしたくないし、それはJAPANの善戦の理由ではない。ディフェンスのプレッシャーは実にすばらしいものだった」

――これまでベストメンバーを揃えていないと言われているが。
○ジョーンズ ヘッドコーチ
「我々はワールドカップに向けて30名を選ぶ必要がある。そのためにいろいろなメンバーを試さなければならない」

――試合終了後、JAPANのスタッフと長く話していたが。
○ジョーンズ ヘッドコーチ
「敬意と称賛を表した。我々も弱いチームではない。その我々に対してJAPANはこういう厳しいゲームをした。コーチが火をつけ、選手は勇気と覚悟のあるプレーを実践した」

――JAPANには何が必要か?
○ジョーンズ ヘッドコーチ
「今日のゲームプランはチームに合っていると思う。実際、我々は苦しめられた。しかし、ここというところでのミスが問題ではないか。我々も同じ課題を抱えているが、小さなミスの有無が世界の強豪と呼ばれるチームとの大きな差。これを無くしていかないと、たとえば来週のJAPANの相手のようなチームには手痛い目に遭わされてしまう」

――JAPANに無くてSAMOAにあるものは?
○ジョーンズ ヘッドコーチ
「大きな違いはない。ごらんのように今日は『JAPAN'S DAY』。しいて挙げれば、我々にはSUPER14やプレミアシップなどのレベルの高いリーグに所属し、もまれている選手がいるので、そういう経験の差があると言えるかもしれない」
○ラファイアリ ゲームキャプテン
「ジョーンズコーチの言ったとおり、大きな差はない。今日は勝つことができて本当に良かった」

○ジョーンズ ヘッドコーチ
「最後に、我々を温かくもてなしてくださった日本の皆さん、仙台の皆さんに心から感謝いたします」