ワールドカップスペシャル・ロング対談
日本スタイルの実践でワールドカップ勝利を
―ラグビー箕内拓郎×サッカー井原正巳氏


キャプテン、いい響きである。

人は人を知る。キャプテンはキャプテンを知る。競技はちがえど、強いチームには、かならず本物のキャプテンがいるものだ。

箕内拓郎。31歳。ワールドカップにいどむラグビー日本代表のスキッパー(船長)である。4年前の前回ワールドカップに次ぎ重責を担う。『桜』のプライドをかけ、目の前のファイトに体を張る。

けっして4年前の屈辱と悔恨を忘れない。豪州の地で、ジャパンは4戦全敗に終わった。「経験と自信が足りなかった」と漏らす。

その箕内が尊敬を込め「アジアの壁」と讃えるのが、サッカーの39歳、井原正巳さんである。現在は日本五輪代表のコーチを務める。現役時代、日本代表戦に最多の123試合も出場し、サッカーの1998年ワールドカップの主将もつとめた。

奇しくも、98年のサッカーワールドカップは、箕内ら『JKジャパン』がおもむくフランスでひらかれた。井原さんは経験を踏まえ、箕内にエールをおくるのだった。「同じボールゲームとして、世界のトップレベルにチャレンジする日本代表の姿は大きな励みになる。注目も応援もします」と。

2007年初夏。いざフランスワールドカップへ。ラグビーとサッカー。清々しい『夢の主将対談』を。

 
サッカー元日本代表キャプテン井原氏(右)と、ラグビー日本代表の箕内キャプテン
サッカー元日本代表キャプテン井原氏(右)と、ラグビー日本代表の箕内キャプテン

ワールドカップは、いい準備が大切

――さあラグビーのワールドカップ(9月開幕・フランス)です。ジャパンは成長していますか。
箕内「クラシック・オールブラックス相手にもやろうとしたことが通じました。もちろん、まだまだクリアしていかないといけない課題もでてきていますけど、自信という点では手ごたえを感じています」
井原「どれくらい、いい準備ができるのかが、大会でいい成績を残すためには大切だと思います。98年の(サッカーワールドカップの)ときは、最後の最後に日本の出場が決まったので、本当に時間がなかった。ワールドカップの年には強豪相手に試合をほとんどできなかった。欧州のキャンプで2試合やったくらいです。準備としては、いい形、完ぺきではなかったのです」

――ワールドカップ前の準備が大事だということですね。
井原「そう。とくにそれを感じました。日本からいく完全アウェーの地域でもあるし、時差的にも不利なこともある。コンディション的に完ぺきでいってもどれだけ戦えるかというのがあります。これからワールドカップまで何試合やるのですか」
箕内「パシフィック・ネーションズカップが5試合で‥ま、4カ月で10試合近くすることになります」
井原「結構、試合数はあるんですね。ワールドカップ出場が決まったのは?」
箕内「ちょうど1年前ですか。サッカーのワールドカップは予選が大変ですよね。勝ちあがるのが」

――サッカーのワールドカップフランス大会の井原さんの印象、ありますか。
箕内「ぼくはそのとき、イギリスに留学(オックスフォード大)していて、テレビで見ていました。日本人が集まってスポーツカフェのようなところで。井原さん、"アジアの壁"って呼ばれていて(笑)。体を張ってディフェンスしている姿が印象に残っています」
井原「箕内さんの体に比べたら、僕はずいぶん薄い壁みたいで(笑)」
箕内「アタックとディフェンスでいくと、ぼくはディフェンスに好きな選手が多い。ディフェンダーの人って、相手のアタックの機会を摘んでいくわけで。アジアの壁、カッコいいなと思っていました」

――ラグビーのFWとサッカーのDFってメンタリティが似ていますよね。
井原「動きがリアクションなんです。ほとんど相手のFWの動きに合わせないといけない。受身になるポジションではありますね」

スポーツは注目されてナンボ

――ラグビーのワールドカップ初戦(9月8日)はリヨンですか。
箕内「そうリヨンですね」
井原「サッカーのワールドカップでは3試合目がリヨンでした。トゥールーズ、ナント、リヨン」

――トゥールーズでの初戦の思い出ありますか。
井原「いや、あまり思い出したくない(笑)。トゥールーズってラグビーのほうが盛んな地域なんです。サッカーよりラグビーの試合のほうが観客も入るそうです」
箕内「フランスのあのあたりは、ラグビーって人気ありますよね」
井原「ラグビーのすごくいいチームがひしめきあっている。ぼくもテレビで何度かラグビーのワールドカップをみたことあります。国内のトップリーグも。大学(筑波大)のときはちょうど大学ラグビーがすごく人気があるときで、ま、全盛期でしたよね。大学サッカーより、大学ラグビーでした」
箕内「いまの大学サッカーはどうですか」
井原「Jリーグが始まって大学サッカーも観客が入るようになった。しばらくしたら少し落ち込んでいたけど、いまは大学からJリーグで活躍する選手が増えてきたので、また状況が変わってきました」

――サッカーとラグビーは似ているようで、取り上げられ方はちがいますね。
箕内「Jリーグができてから、サッカーはプロ化のほうへガーッといって、ラグビーは取り残されたイメージがあります。サッカーは華やかなイメージです。グラウンドの中も外も。同じスポーツなんですけど、サッカーはこう、エンターテーメントというか、いろんな人を巻き込んでやっている。ラグビーからみると羨ましい。スポーツ選手は注目されてナンボだと思います」


武士道、日本スタイルの発信


人気という意味ではラグビーワールドカップは起爆剤になる可能性がある。世界最高のステージで活躍することで脚光も集まるはずだ。

――ワールドカップのテーマはなんですか。
箕内「ひとつは日本のスタイルを発信すること。そのためには、こういうことを目指していこうなどと話し合っています。スタッフがどの試合でも、妥協なく、勝つためのシナリオをつくってくれているので、選手はそれを遂行するだけですね。自信がキーワードです。コーチが選手を信じるように、選手がコーチを信じる。チーム状態としてはいい感じです」

――ジャパンで長くプレーしてきています。手ごたえはありますか。
箕内「はい。一本筋が通っています。よくご存じだと思いますけど、どの選手にどんな質問をしても同じような答えが返ってくるでしょ。外人コーチ(ジョン・カーワンヘッドコーチ)がいるんですけど、気持ちの部分で、日本の武士道などをすごく勉強しています」

――宮本武蔵の『五輪書』も読むそうですね。
箕内「選手に対し、コーチが"武士道とは"と説く。ひとつひとつ。例えば仁とか義とか。この言葉をグラウンドにあてはめたらどうなるのだ、と。キーワードをつくっていく。あきらめない。仲間を信じるとか、勇気を持って戦うとか。その話し合いをすることがいいことだと思います。僕ら、これまで武士道が何なのか、考えたことがなかったんです」

――武士道ですか。ラグビーに共通する部分もあるのでしょう。
箕内「日本のオリジナリティを出したいというのがJK(ジョン・カーワンヘッドコーチ)の狙いだったと思います」
井原「サッカーも同じだったと思います。いまの現役の連中は、日本の伝統というところが薄れてきているところがある。もちろん個人スキルは上がってきているかもしれないけれど、チームが一丸となるためのメンタル的な部分とか。その辺が昔と比べると、ものたりなさがあるのかな。指導者が選手をうまくマネジメントしていかないといけない。育ってきた環境が違う部分もあるので、その辺がすごく難しい」

――武士道とは。
箕内「7つの徳をみていく。仁、義、忠義とか、あとは勇とか、いろいろあります。ラグビーと武道とは共通点がある。サムライは常に鍛錬するとか。有言実行とか。練習中にそういうキーワードが出ると、さぼれない、ずるができない」

――たとえば。
箕内「コーチからノー・チーティングとか言われる。ずるをするな、言い訳するなという意味です。選手はずるできなくなる。手を抜けなくなるんです」

――日本の独自のスタイルですか。
箕内「それを打ち出さないといけない。いまのジャパンだけでなく、将来的にも。日本代表の選手とはどうあるべきか、継続して示していきたい」

ワールドカップで勝つ。強い目的意識。

――キャプテンは大変ですね。
箕内「はい。まず自分がやらないと、だれもついてきてくれないですから(爆笑)。JKから僕のほうへ、まずくるので。言葉より、体をはっていきます」
箕内「ラグビーはあまり、ヨソをむかない。HCがいて、チームの規律というのは、いまはしっくりいっています」
井原「そこは日本のセールスポイントになる部分であると思います。それだけで勝てれば、もうそこだけに集中すればいい。プラス技術的な部分とか、戦略的な部分とかも出てくる。サッカーの場合、メンタルの部分は当たり前のように持っているという感覚がありました。でももう1回、見直さないといないでしょう。原点に帰って、もう1回、メンタルからしっかりして戦わないといけません」

――キャプテンとしてチームづくりで特に意識や工夫をしたことは。
井原「僕らは始めてのワールドカップだったので、何もしなくても、みんなの気持ちが高まるシチュエーションだったし、サポーターの熱い期待というのも感じていたので。いやがうえにも選手はやらないといけない状況だった。出ることで満足する部分もあった。初めてだったので、もう出ることで役割を果たしたという満足感があった。その満足感ゆえ、最終的に勝ち点を1つもとれなくて帰ってきたのかな。最初からワールドカップで勝つという、強い目的、目標意識を持ってのぞまないと世界の壁を打ち破ることはできないと感じた。なまじっか、日本は初出場で、簡単に勝ち点が取れるというのは甘かったのかな。そんな状況に周りも自分もなっていたのかな」

――その点、ラグビーは地に足がついたワールドカップになりますね。
箕内「そうですね」
井原「日本は何回目?」
箕内「6回目です」

―― 一度(1991年ワールドカップ、ジンバブエ戦)勝っていますよね。
箕内「いや一回勝って、あとは‥。ことしのワールドカップで勝って勝利を積み重ねていかないと。ラグビーはプロ化の波がきて、そう1990年代ですよね、世界のプロ化が急速に進んで、日本は取り残された感があります。まだ世界に追いつけていないところがあります」


ひとつになります


対談は熱気を増していく。

このあたりで焦点をキャプテンに移したい。スポーツ界における主将とは大事である。とくに大きな舞台になればなるほど、その責務、辛苦は増すのである。

選ばれた男どもが30人、40人で海外に遠征する。時にはちいさな波風、あつれきもあるだろう。よそ見をさせず、全員のアングルをひとつにまとまるのは至難の業だ。

――ひとつになりますか。
箕内「なりますね。この時期からずっと一緒なので、お互いどんな人間か、だいたい分かります。ラグビーの選手はおとなしいのかもしれませんけど」
井原「ラグビー選手って、純粋なところがあります。試合前、半分涙を出しながら、気合をいれてピッチに入っていく。サッカーではそこまでやりすぎたら、ちょっとダメだろうって。ははは」

 
サッカー元日本代表キャプテン井原氏
サッカー元日本代表キャプテンの井原氏

――ラグビーは、やったことありますか。
井原「はい。大学の授業で。こわいですよ。タックルひとつにしても勇気がいるじゃないですか。絶対、けがするじゃないですか。とても大きな選手にもぶつかっていかないといけないじゃないですか」

――ポジションは。
井原「どこでもやりました。大変ですよ。スクラム組むのも。マイクロソフト杯の決勝(東芝×サントリー)も観戦にいきました」
箕内「ぼくは解説席で。試合が終わったら、テレビ局の人から、"また来年もお願いします"と言われて。なんと答えたらいいのかと(爆笑)」
井原「試合を見て、ほんとオトコのスポーツだなと感じました」

キャプテンシーと信頼

――自分をどんなタイプのキャプテンだと思いますか。
箕内「ぼくはまず、イチ選手として、周りから信頼されるために、体を張っていこうと心がけています。いつも逃げずに、どんな相手がきてもタックルにいったり‥‥。このオトコのためなら、おれもやってやろうと。ぼくも他の選手にそういうものを求めます。それぞれが練習からできれば、キャプテンシーとか、あまり必要ないのかな、と。信頼です。グラウンドに出たとき、試合をするとき、チームをどういう風にもっていくかは、キャプテンに求められていると思いますけど」
井原「キャプテンの役割はラグビーのほうが多いんじゃないかと思います。サッカーは監督からグラウンドの選手に指示がでたりする。ラグビーは監督がスタンドの上でほとんどみています。だから、よりキャプテンの判断が重要になるのでしょう。選手一人ひとりの役割とか、キャプテンはしっかり把握していないといけない。サッカーでは、監督、どうするんですか、とベンチを見るときがあります」

――井原さんも体を張っていくタイプでした。
井原「昔の人たちと一緒にやっていましたから。プロができる前の連中は、サッカーの技術はへたくそだけど、ラグビー精神をもってやっていたところはありました(笑)」

――国内と海外は違います。相手が違えば、恐怖心も出るときがある。ワールドカップなど、どうチームをまとめたんですか。
井原「選手が自信をもってやらないと、絶対いいプレーはできないので、まずはそこからだと思います。海外で試合をやるにしても、自分のプレーに自信をもってやる。どんなに名前のある選手に対してもびびることはない。あとはそういう経験値がどれだけあるかということ、その経験値を高めていくことが重要かなと思います。知らない土地へいって、メディアを通してしか知らない相手とやるとなれば、もろさもでてくるでしょう。やはり経験を積んでおくことが重要かなと思います」

――ラグビーはワールドカップまで4カ月あります。
井原「いいことだと思います。試合数もある。他の国がどのくらい準備されているかわからないけど、万全の準備をするのは大事だと思う。これから強豪とも戦うんですよね」
箕内「はい。強豪ばかりです」
井原「それが一番いいと思います」

前回ワールドカップは自信と経験がなかった

――カレンダーはどうなんでしょ。メンバー発表はまだ先ですよね。
箕内「6月25日あたりです。最終的には八月ですけど」
井原「ぼくたちのワールドカップのときは本戦の一カ月くらい前、キャンプ直前に発表して:。それぞれのポジション争い、競争があるので、本大会までそれぞれが力をどこまで伸ばせるかが勝負でした。競争意識を持たないとメンバーから外される。キャプテンがまとめるというより、それぞれがやるのです。いざこのメンバーでワールドカップにいくとなったとき、そこから試合に向けてのシミュレーションとかが大事になる。ぼくらはワールドカップ本戦の2週間前に"このメンバーでいきます"となったので。どちらかといえば、メンバーが早めに決まるのはいいんじゃないかなと思います。ただ早めに決まれば、もうおれはワールドカップに行けるんだという甘えとか満足感が出るかもしれません」

――前回ワールドカップの反省ってありますか。チーム内に甘えとかは。
箕内「前回はチームに自信がなかったですね。ワールドカップ前の春、何試合もやったけれど、勝てずに自信をなくした。メンバーが発表されて、やっとチームがまとまりだしたんです。自信のなさが最後の20分に出たのです。そこまでは互角に戦えた。足りなかったのは、『経験』とか『自信』とかと気づいたんです」

――前回ワールドカップでは大会に入ってチーム力がぐんと上がった。もっと時間があれば、と思ったものです。
井原「どこにチームのピークをもっていくか。ほんと難しい」

遠征先のリフレッシュ

――グラウンド外はキャプテンとしてどうですか。なにか意識は。箕内さんは口数、そう多くないですよね。
箕内「グラウンドを離れると、ぼくはあまりキャプテンとして期待されていないから(笑)。ミーティングで発言することはありますけど、食事などではムードメーカーがいますから」
井原「メンバーは何人ですか」
箕内「30人ですね」
井原「ちょうど同じですね」

――井原さんのキャプテンのスタイルは。
井原「あまり難しくは。ははは。もちろんピッチの中では、自分が先頭に立っていくということは常に心がけていた。一緒に生活していれば、選手の特徴とか分かるし、どう言えばどういう態度をとるとか。特徴とか、キャラクターとか。年上だからできた。チームの方向性から外れるような雰囲気をもっているやつは、敏感にそれを察知して話をしようと思っていた。選手には監督に直接言えないこともある。チームがひとつの方向を向くには、時には方向を修正していかないといけない」

――グラウンドを離れて怒ったことは。
井原「集団生活で規律は厳しいので、生活面ではほとんどなかったですね」

――アルコールは。
井原「一切禁止です。もちろん飲むやつはいない。きょうは一杯飲んでいいということは中にはありますけど、ほとんど飲まない」

――ラグビーも禁止ですか。
箕内「飲むとしたら、ラグビーは試合の日くらいですか」

――遠征でのリフレッシュは難しいですよね。どうするんですか。
井原「半日休みとか。どれだけ気分転換できるのかは、すごく重要だと思います。ずっとホテルと練習場だけだと気がめげるので。きょうは練習休みとなると、何人かで出かけたりしました。リラックスするときと、やるときはやるという切り替えをするのは長い大会を戦うときには重要かなと思います」

――例えば、どんなリラックスを。
箕内「みんな集まって遊びのゲームをやったりするときはあります。あとはチームディナーとかいって、ちょっとアルコールをいれたりとか」

――チームディナーってカッコいいですね。
井原「ホテルばかりではあきるので、ちょっと外に日本食を食べにいこうか、と。ワールドカップのときはホテルがすごく田舎町で。日本食はそうない。でも町並みがステキなところでよかった。山にいきたいやつはいけとか」

――メディアやファンもすごいでしょ。
井原「ちょっと散歩したいといっても、すーっといけないところがある。アウエーではまだそこまでじゃなかったので、お茶しにいこうとか」

――グラウンドの外でとくに注意する点は。
箕内「グラウンドの中も外も、全選手のストレスとかを考えています。肉体的、精神的なストレスを。意見を聞きながら、それじゃ、息抜きでチームみんなでどこかへいこうか、とかコーチに提案する。やんなきゃいけないことはあるけど、あまり負担がかかっても」

負けたあとの切り替え

――加減は難しいですよね。
箕内「このメンバーは4月に集まって、まだ1カ月余りです。日本のスタイルをつくるため、やんなきゃいけないことがいっぱいあるんです。もちろんフィットネスを含めて。コーチからも言われた。きついのはわかっている。でも、疲れがたまっているプレーはみていてわかる。だから、気にしないでやってくれと。選手はしんどくてもしょうがない、やるしかない」
井原「そういうHCを含めて、チームがひとつになっていくのはすごく重要なことだと思います。そういう状況じゃないと勝てない。サッカーもスタッフがひとつになって‥。監督、コーチだけじゃなく、メディカルからドクター、いろんなスタッフがいるから、選手は戦える。そういう人たちもひとつになっているときは強いチームができていると思います。サポーターの応援もあるけど、まずはチームが一枚岩になっていないと、チームとしての結果が出ないことが多い。チーム全体が同じ方向に向いていくのはすごく大事だと思います」

――結果がでないとき、沈んだときは。
井原「結果がでないときは、気持ちを切り替えるしかありません。それが大前提。次の試合がある。修正してやっていくしかない。キャプテンとして、うまく状況を見極め、サポートするしかないんです。自分だって、どう切り替えられるかわからない(笑)」

――そうですね。まずおれからだろうって。
井原「難しいことですよね。次にどう切り替えていくか。次の対戦相手、チームの分析もすごく大切だと思う。戦略、戦術的なものを合わせていかないといけない。日本のセールスポイントを生かしていかないといけない。それでもやるのは選手だから」

――ミスは修正しないと。
箕内「今回のチームに関していえば、とにかく練習していることをグラウンドで出そうよというスタンスです。たとえミスしても、それが練習でやれていればポジティブなんです。いいプレーでも練習でやっているプレーからかけはなれていれば、HCから怒られるんです。選手は練習でやっていることを試合でやるだけです。こんなチームの作り方はおもしろいな。今までなかった」

――セットプレーでも、練習でやったことを出すのは難しいですね。
井原「どんなに準備しても、それが試合で出るのは難しい。国際大会になればなるほど、気持ちの切り替えとか、自分をポジティブにマネジメントしていく能力がすごく問われる。キャプテンだけじゃなく、一人ひとりがもっていないと。局面、局面で判断を求められるのは選手それぞれだと思う」

JKは日本人

ラグビー日本代表の箕内キャプテン
 
ラグビー日本代表の箕内キャプテン
 

――キャプテンとHCのジョン・カーワン(JK)の関係を教えてください。
箕内「僕がNECに入社したとき、同じチームにいて、1年間だけ一緒にやりました。僕が第一回ワールドカップ(1987年)を見たとき、すごい選手だなと。ま、あこがれの選手だったんです。大学のときにリクルートで誘われたとき、チームにいったら、JKがいたんですよ。ああ~、あの人だって。一緒にやりたいな、と思って、つい調子にのったんですね。その後、やはり付き合っていて、すごく自分に妥協しないのです。すべてに全力を尽くすというんですかね。すごく尊敬できた。人間的に気さくで話もしやすい。そういう関係があったからこそ、HCとキャプテンとして信頼関係が築けたのかなと思います」

――日本代表候補の発表のとき、"キャプテンは箕内"って、JKははっきり言いました。
箕内「ぼくが一番話をしやすかったんでしょ。僕自身がいわれたとき、チームの最終メンバーが決まっていないので。HCがいて、僕がいて、橋渡しというんですか。HCの意見を伝えやすい、またHCにものを言いやすいっていう人間が僕しかいなかったのでしょ。年齢もチームで上だし」

――いつも驚くんですけど、箕内さんとHCが言うことは一緒ですよね。例えば、キーワードのビリーブ、信じるとか。
箕内「話をあわせているわけじゃないですよ。彼自身が日本でやった経験から、日本の文化とか、日本の人をすごく尊敬している。あれだけのラグビーの名選手なのに日本を見下した感じはありません。自分は日本人だ、武士道だといっている。ぼくはJKが日本人に見えてしょうがない。日本語もしゃべる。だから聞きやすい。どの選手に聞いても、軸がぶれない。選手がバラバラの理解をしていたら、なかなかまとまらないことになる。大事なところを日本語でしゃべってくれるのがいいですね」

――監督とキャプテンの関係とは。
井原「監督によると思います。監督がキャプテンをどんな風に位置づけて、どんな役割を与えているとか。監督によって、まったく考え方がちがう。たとえばキャプテンだけど、おまえはゲームキャプテンだから他は偉そうにするな、とか。おまえがキャプテンだからといって、監督の次に偉いわけじゃないとか。チームがうまく機能するため、監督がキャプテンを選んで役割を決めていく。外国人が監督になれば、監督と選手の距離がどうしても開きやすいので、キャプテンが間に入ったり、コーチの人の役割がすごく重要になる」

―― 一対一では。
箕内「結構、しゃべります。日本代表のHCになる前から、食事に一緒に行ったりしていたので。チームメイトだったという気持ちのほうがある。ただジャパンのHC就任のとき、世界中がニュースに取り上げて、やはりちがうなと思いました」

――サッカーのジーコに似ていますね。
井原「難しいところなんですよね。監督とキャプテンの距離が近すぎると、やっぱりどうしても、キャプテンはパフォーマンスが悪くても選ばれるのかとか不満も出ます。その辺が難しい。キャプテンになったら、チームのことをすごく考える。それまで自分のプレーが中心だったのが、キャプテンになったらチームのことを。それがまた、自分のプレーに反映していくのです」

負けたときこそ、おれの出番

井原「(キャプテンに)ならないと、楽といえば楽なんですよね」
箕内「やりたくないですね」
井原「人のことまでいいだろうって。自分のことで精一杯なのに(笑)」
箕内「ぼくは去年、一回代表を外れていて、戻ったときにはキャプテンじゃなかったんですけど、すごく楽でした(爆笑)。試合前に何も言葉を出さなくていい。試合のあとのキャプテンスピーチもない。黙って自分に集中できます。これもいいな、と」

――でもキャプテンならではの喜びもあるでしょう。
箕内「他の人にはやれない。15人で一人しかできないし、とくにそういう役割というのはワールドカップではなかなかできません。光栄なことだと捉えています。のちのちの人生にプラスになることばかりだと思う。責任もって何かをやるというのもプラスにはなります」

――キャプテンになる人の要素とは。
井原「そのあたりはわかりません。もし僕が何もなかったら、やらされていないと思う。知らず知らずのうちに体の中から何かが出ていたりするのでしょう」

――キャプテンとして、いちばん大切なものは、矢面に立てることだと思います。国際試合ではメディアに対応しないといけません。
箕内「逃げ出したら、キャプテンはダメでしょ。選手が一生懸命やったというのはキャプテンとしてわかるから、そこを否定しちゃいけないと思う」

――試合で負けても、井原さんはメディアにしゃべり続けましたよね。
井原「キャプテンのときはしゃべらないとしょうがないと思っている」
箕内「4年前、けっこう負けが混んでいるときは、うつむきがちで‥」
井原「負けたときって、ほんとイヤなんですよね」

――でもいつも真摯に答えました。
井原「爆弾発言は絶対しないようにと。カーッときても、常に冷静に話そうと考えていました」

――ハラの立つ記者っていませんか。
井原「いますよ。でもぐっとこらえて」
箕内「取り上げられ方が、ラグビーとサッカーは全然ちがいますし、注目のされ方がちがう。サッカーだとでかく取り上げられちゃう」

――どんな苦労を。
井原「変な発言するなと、監督がおさえることもあります。チーム戦術に関わることとか。こまかなことは発言させないようにしているけど、基本的に選手はどんなことでも答えないといけません。でも、負けたときこそ、おれの出番かなと(爆笑)。勝ったときには、活躍した選手に記者がいきますから」
箕内「試合後、監督とキャプテンの記者会見はないのですか」
井原「昔はあったけど、いまは監督だけですね」

――ミックスゾーンがあるから。
井原「あるけど、素通りしていくやつがいる。音楽をヘッドホーンで聴いて、知らん振りしていくやつもいる」
箕内「ラグビーは監督とキャプテンは必ず、です。勝った試合はいいけど、負けた試合は。まず隣で監督が話し、それを聞きながら、フレーズを合わせて(笑)」

――最近の箕内さんの言葉って力がありますよね。何か意識していますか。
箕内「以前よりはしゃべれるようになりましたけど、記者会見ではまだ‥」
井原「慣れだと思う。でもほんと、負けたときは俺に聞きにくることが多かった」

サッカー元日本代表キャプテン井原氏(右)と、ラグビー日本代表の箕内キャプテン

フィジカルの差をカバーする

――フィジカルの話を少し。ワールドカップではどうしても大きな相手と戦うことになります。
井原「ちょっとやそっとでは差は埋まりません。スピードも体格も。日本はちっちゃくてスピードがないのはしょうがない。日本独特の勤勉さなど、長所もいろいろあると思います。戦略的なことで差を埋められる。1対1の差があっても、ほかのところで埋めれば対等に戦えます。日本人的なことを生かして太刀打ちしていかないといけません。もちろん技術的なところを追いつこうとやっていますけど。サッカーは力が7:3であっても、3が勝つ可能性があるスポーツなので、十分やっていけると思います」
箕内「個人としてはフィジカルの差はさほどないけど、全体としては相手の圧力を感じます。体格とかスピードとか。で、いまの日本人選手っておおきくなってきているけど、まだ劣りますよね。背が低いんだったら、何で対抗するのかというと、重心が低くなるんです。外国人選手は下にタックルを受けるのはすごくいやですから。スクラム組む際にも低く入れます」

――重心の低さはすべてに生かせます。
箕内「それだけ使う体力もちがってくる。倒されて起き上がると、大きな選手は小さい選手より疲れます。そこを生かしていきたい。日本人選手には勇気がある。勇敢です。ディフェンスにおいては体を張って足元に飛び込むイメージです。アタックでもディフェンスでも低さを生かしていきたい」
井原「サッカーも体力差はありますけど、体力的に恵まれているところが必ず上位にいるわけじゃない。スペインでも日本と平均身長が変わらない。メキシコも。そういうチームがベスト10にはいっているわけです。そこを見習うのも必要です。テクニカルなところ、判断をはやくすることで体格差を試合のなかでうまく消して、自分たちのペースで試合を進める状況にしていければいい。急にパワーとかスピードはつかない」

――サッカーもラグビーも課題は似ています。ラグビーの健闘は同じボールゲームとして励みになりますか。
井原「世界にはラグビーの先進国があるわけで、そこにチャレンジしていくのは意味があります。そういうところに追いついていけるかどうか、注目しています。応援もしています。ボールを使うチームスポーツです。人数は違いますけど、ボールを運び、ゴールに向かって攻めていく。前にパスができるかできないかは違うがありますけど。ボールを後ろに下げるのはストレスがたまりますよね」
箕内「でもサッカーは手を使えません。たぶん、それはストレスですよね」

――異なるストレスを持ちながら、同じ方向を目指すのですね。
井原「チームで1つのボールを運ぶということです。サッカーとラグビー、どちらが先かは忘れましたけど。似ています」

すそ野まで日本スタイルを広げたい

――フランスワールドカップ、初戦の相手は。
箕内「オーストラリアです」

――サッカーはアルゼンチンでした。
井原「どういうシミュレーションを描いて試合に臨むかが、すごく重要だと思います。どういう入り方をするかはすごく大事だと思う。まずそこにピークを合わせていくのかなと思う。監督が考えることでしょうけど」

――アルゼンチンは優勝候補でした。
箕内「今回のワールドカップと似ています。オーストラリアは優勝候補」
井原「初戦がすべてという思いで戦わないといけないと思います。ま、サッカーの世界はそういうのは大きいので、すべてをそこに照準を合わせていきます」
箕内「そのとおりです。前回もピークは初戦にもっていきました。負けはしたけど、いけそうだと自信をつけた試合でした。今回はもっと準備をして臨みたい。あとは日本のスタイルです」

――サッカーも五輪予選が始まります。サッカーは代表から五輪代表、ユースとか、日本のスタイルは変わらない。
井原「日本の選手の能力は似ているので。日本はどういうやりかたでいくとどんな強いチームができるのか。いちおうチーム作りの方向性はそろえてやっていこうと」
箕内「ラグビーはまだ、日本代表がスタイルをつくっている段階なので。今回JKがきて、日本全国っていうんですか、すそ野の部分まで日本のスタイルを広げていきたい。ちっちゃいころから、代表が目指す同じラグビーをやっていく。そうなると、日本代表が集まってから、違うことをする必要がなくなる。それをつくっていきたい」

――それって日本の財産になりますよね。
井原「それは大切だと思います。サッカーもJリーグができて、底辺が拡大して、サッカーをやる人数が増えていきました。草の根の活動が盛んになり、そこでやっていた子どもたちがある程度の年代になって代表も力をつけてきています」

――ラグビーも日本スタイルで勝てば、一気に広がりますね。
井原「それはあると思います。やっぱり世界の大会で日本のチームにがんばってほしい。日本の人は日の丸が大好きですから。そういう国を挙げて注目される中でゲームをし、結果を残せば、もっと子どもたちの注目も集まると思います」
箕内「サッカーを見に来ている人がラグビーを見にいくとか。野球を見にいった人が、じゃ、ラグビーも、と」
井原「ラグビーっておもしろいと思います」
箕内「一度見にいったら、リピーターに」
井原「格闘技ですよね、ゴール前の攻防あたりは。サッカーもゴール前には激しさがありますけども。ラグビーはゴールにあと1m、2mで届くかというところで、なかなかトライができない。あの辺が好きです」
箕内「ラグビーは、サッカーのゴールのように狭くないのに、なかなかトライを取れません」

ラグビーとサッカーのダブルヘッダーを

――どこを見てもらいたいですか。
箕内「まず競技場に見にきてもらいたい。日本人ががんばって、日本のスタイルを実戦するところを。体がちっちゃい人間が大きな人を倒すために、勇気とか‥」

――同じボールスポーツ。ラグビーとサッカーは兄弟みたいなものです。
箕内「1回、サッカーの前座でラグビーの試合を。国立でどうですか」

――芝生の痛み具合からするとまずサッカーですね。ラグビーは前座にはなりえません。
箕内「ははは。サッカーの試合が終わったら、その瞬間にゲートを締める。サッカーファンが帰れないように(爆笑)」
井原「ラグビーも観客入りますよ」
箕内「そうですか。でもいい試合をしないとダメですよね。絶対に」


2時間に及んだ対談が終わる。

一緒に写真に納まる。サインをする。箕内の顔は火照っている。「ありがとうございました。すこし勇気づけられました」と深々と頭を下げる。握手を交わす。

至福の時間が過ぎる。競技はちがえど、尊敬するキャプテンの話を聞き、さらに闘志は熱く、熱くなるのだった。

自身のことだけでなく、チームのこと、そして日本ラグビーの明日を考える。それがキャプテンの人生なのだ。