スクラム劣勢とミスが響いて11点差の敗戦
テストマッチ9勝1敗で充実の14年終了

23日、欧州遠征中の日本代表はグルジアの首都トビリシで「リポビタンDツアー2014」最終戦となるグルジア代表とのテストマッチを戦い、24―35で敗れた。
昨秋の対ロシア戦からテストマッチで勝ち続けてきた日本代表の連勝記録こそ11でストップしたものの、6試合のアウェー戦も含めテストマッチ10試合を9勝1敗で乗り切った2014年は10ヶ月後に控えるラグビーワールドカップ(RWC)イングランド大会に向けて、大きな成長を見せた1年となった。

(text by Kenji Demura)

スクラムでの成長に自信を持って臨んだグルジア戦だったが、まだまだ進化の必要性を突きつけられる結果に
photo by RJP Kenji Demura
前半25分にグルジアにペナルティトライを奪われるなど、スクラムでは「試合を通して劣勢だった」(PR畠山ゲームキャプテン)
photo by RJP Kenji Demura

「テストマッチではセットピースでボールを取れないと予定したプレーが何もできないことになる。それが今日起きたこと」(エディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチ=HC)

カナダ、アメリカには完全に優勢。欧州の雄イタリアとも対等に組み、マオリ・オールブラックスも押し切った。
間違いなく、2014年における日本代表の進化の象徴とも言えたスクラム。
前週のルーマニア戦でもペナルティトライこそ奪われたものの、2年前にめくられ続けたことを思えば、うまく耐え忍んだ印象が強かった。

「スクラムはこの2年で成長したと自信を持っていい部分だと思うので、そこでしっかり戦いたい」

FLマイケル リーチキャプテンがルーマニア戦で痛めた左肩の状態もあり大事をとって欠場。代わってゲームキャプテンを務めたPR畠山健介が試合前にそう語っていたとおり、フランス1部リーグ(トップ14=モンペリエ、トゥーロン)でプレーする両PRとイングランドのプレミアシップ(=セール)所属のHOという強力FW第1列の存在に象徴されるグルジアに対して、スクラムでしっかり対抗する。
それが、2014年ラストゲームでの一番のポイントだった。

この秋、日本との対戦前にグルジアはトンガ、そしてアイルランドとのテストマッチを戦っていた。
いずれも「ボールキープ率が35%ほどしかなった(グルジア代表ミルトン・ヘイグ監督)ことが響いて2連敗(9-23、7-49)。
日本戦に向けて、まずは「ボールをキープする時間を増やすことが一番の修正点」であるとも同監督は公言していた。
すなわちボールキープを増やしたいグルジアは、当然ながら強力セットプレーに重きを置いたスタイルで日本を迎え撃つ。
もちろん、それは日本としても重々承知している事実ではあった。

「(最近の試合のビデオを見ると)グルジアは以前よりもボールを動かすようになっているようだが、日本に対しては2年前と同じスタイルでくるはずだ。すなわち、スクラムで圧倒しようとしてくる」(ジョーンズHC)

試合の流れをどちらがつかむか。その最初の分かれ目は前半10分過ぎに訪れた。
本格的に組み合う前に双方1本ずつスクラムでのFKを得た後、実質的にファーストとなったスクラム。一気に押し込まれた日本にいきなりペナルティの宣告。
「最初に凄いプレッシャーを受けて、どうしようどうしようって、パニックになった」(PR三上正貴)
このPKをタッチに出したグルジアがラインアウトからモールを組んで前進。
「今日の試合の前まではモールディフェンスも良かった」(ジョーンズHC)日本だが、このモールで反則。
再びラインアウトからドライブしてきたグルジアのモールを止めきれずに、先制トライを奪われてしまう(前半15分)。
いきなり誰もがこの試合のポイントだと考えていたパワープレーで力負けした日本FW陣の苦境はその後も続く。

「本当に強かった。8人の体重の乗り方がヨーロッパのチームはひと味もふた味も違う。はじめて感じるプレッシャーでした。(1週間前に対戦した)ルーマニアともレベルが違った」
そんなふうにグルジアスクラムの破壊力を語ってくれたのは、PR三上と共に初めてグルジアと対戦したHO木津武士。
20分過ぎにもスクラムでペナルティを取られた後、モールで攻められて、LOトンプソン ルークがシンビン退場。
25分に自陣ゴール前で7人で組まざるを得なくなったスクラムを押し込まれてペナルティトライを献上となった。
「今日は何もさせてもらえなかった。スクラム、モールでプレッシャー受けて、アップテンポにできなくてスローペースで試合が続き、相手が疲れることもなかった」(LO伊藤鐘史)

前半33分に代表初トライ(写真)を奪ったWTBヘスケスは後半31分にも2トライ目を記録。「ハッピーだがポジション争いは激しいのでもっと頑張る」
photo by RJP Kenji Demura
ジョーンズHCが復調を喜んでいたCTB立川もトライを記録。「ジャパンのアタックができれば得点は取れる」
photo by RJP Kenji Demura


「ワールドカップで勝つためにはさらに大きな成長が必要」(ジョーンズHC)

「メンバーも違うし、ルールも変わっているので一概には言えない。でも、この試合はスクラムが決め手だった。そこに尽きる」

試合後の記者会見で2年前と比べて日本のスクラムが強くなった手応えを感じたか問われたPR畠山ゲームキャプテンはやや憔悴した表情でそう語ったが、多くの時間が割かれた前半のFW戦で完敗したことで試合の流れが決定的になってしまったのは間違いなかった。

日本も31分にFB五郎丸歩バイスキャプテンがPGを返し、さらに33分には「頭で押さずに潜ったらペナルティをとられたので、相手の肩を頭で押して自分のいい体勢が取れた時などはいい感じで組めた」(PR三上)というハーフウェイライン上のスクラムでの早い球出しからNO8アマナキ・レレィ・マフィが大きくゲイン。フォローしたWTBカーン・ヘスケスとつないで初トライ。
10―12と2点差に迫ったものの、前半終了間際にはまたも自陣深くのスクラムでプレッシャーを受けた後、ショートサイドを突破されて3トライ目を奪われて10-17という点差以上のダメージを受けて前半を終了した。

後半最初の得点も日本のスクラムでの反則からグルジアFBメブラ・カビリアカシビリが決めたPGだったとおり、「スクラムは試合を通して劣勢だった」(PR畠山ゲームキャプテン)状況は変わらず。
さらに、FW、BK問わず、柔らかくスリッピーなグラウンドに足を取られたり、ハドリングエラーだったり、個人スキルの部分でのミスも多かったことが傷口を広げるかっこうともなった。
「FWだけのせいじゃない。BKのミスで取られたトライもある。今日はチーム全体で負けた」(FB五郎丸バイスキャプテン)
後半のグルジアの2本のトライは直接的に日本ミスから奪われたものだった。

「後半の最後はいいかたちになった。ジャパンのアタックさえできれば、点は取れるということがわかった」というCTB立川理道のトライなど見せ場もつくったものの、勝敗自体は「FWがハーフタイム前にグルジアにスクラップにされていた」(ジョーンズHC )時点で動かぬものになっていたと言ってよかった。

24―35。最終スコアは11点差。
日本代表が大きく成長した2014年だったが、最後に強力セットプレーを誇る欧州の強豪に厳しい現実を突きつけられるかたちとなった。
「日本のスクラムは間違いなく進歩している。自分たちの強さが増えていることははっきりしている。それでも、まだ成長する必要がある。大きくてフィジカルなスクラムを組む相手に対して、十分に強くはなっていない。
今日の試合で良かったのは、グルジアのような厳しい相手との試合を経験できたこと。我々は世界中のすべてのテクニックを獲得できる。今日は素晴らしいグルジアのスクラムのテクニックを体感できた。モールDFもこの試合の前までは良くなっていた。そうしたエリアでまだ成長していく必要あることがわかった」
大きく、フィジカルな対戦相手ということで、来年のRWCで戦う南アフリカを想定した試合でもあったグルジア戦で出た課題に関して、ジョーンズHCはそんなふうに総括した。

「何人かの新しい選手たちが、こういう厳しいテストマッチを経験できたのも大きい。リザーブのタイトヘッドPRが初キャップ。リザーブルースヘッドはセカンドキャップで初のシンビンも。自分たちの強さが増えていることははっきりしている」と、いずれも途中出場した稲垣啓太(2キャップ目)、垣永真之介(初キャップ)の若手PR陣や、実に5年ぶりのテストマッチ出場となったSH矢富勇毅といった新戦力が加わったこともプラス材料としてとらえていた。

一方、後半23分に選手交代のためピッチを後にした時には「申し訳ないし、悔しい気持ちでいっぱいだった」という畠山ゲームキャプテンは「個々のストレングスを上げていく。8人で戦うというマインドのところを上げていく。時間がないので、より多くの相手とスクラム組んでいくことが重要になる」と、残り10ヶ月でスクラムを改善していく方向性を語る。

「12試合のテストマッチで11勝して1敗という結果は喜んでいい。それでも、ワールドカップで勝つためにはさらに大きな成長が必要になる。ワールドカップイヤーで素晴らしいのは、4月から準備が始められる点」(ジョーンズHC)
快進撃が続いた2014年の最後の最後に、日本から約8000キロ離れたトビリシで突きつけられた課題をメンバーそれぞれが忘れずに残り10ヶ月間を無駄なく過ごせれば、イングランドでの歓喜にたどり着ける──少なくともワールドカップイヤーのさらなる成長に期待を抱かせるグルジアに対する完敗ではあった。

後半23分に途中出場を果たし念願の初キャップを獲得したPR垣永はテストマッチの厳しさに驚嘆していた
photo by RJP Kenji Demura
前週のルーマニア戦では出番のなかったSH矢富も実に5年ぶりとなるテストマッチ出場を果たした
photo by RJP Kenji Demura
FW戦で完敗し、呆然と立ち尽くす日本代表メンバー。W杯まで残り10ヶ月間、ハードトレーニングが続く
photo by RJP Kenji Demura
14年最後に1敗も11試合勝ち続けたことには胸を張ったジョーンズHC。「さらに大きな成長が必要」
photo by RJP Kenji Demura