2年間で大きく成長したゲームコントロール力を披露
欧州での厳しいアウェー戦をノートライで勝ち切る

欧州遠征中の日本代表は、11月15日、ブカレストで遠征初戦となるルーマニア代表とのテストマッチを戦い、前半27分にルーマニアにスクラムでのペナルティトライを奪われたものの、FB五郎丸歩バイスキャプテンが6PGを重ねて、18-13で逆転勝ち。
ちょうど1年前の対ロシア戦から続くテストマッチ連勝記録を11に伸ばした。

(text by Kenji Demura)

ノートライながら厳しい欧州でのテストマッチを勝ち切った日本代表。セットプレーでも進化を証明した
photo by RJP Kenji Demura
6本のPGチャンスを完璧に決めたFB五郎丸副将。「FWがすごい頑張ってくれた」と自らのキックよりも前8人の健闘を勝因に挙げた
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2年前、同じ場所で記念すべき欧州での欧州代表とのテストマッチ初勝利を収めた相手との再戦。
48ヶ月前の対戦では、終了4分前のWTB小野澤宏時のトライなどで、最終的にはスコアを34-23にまで広げたものの、後半32分にはスクラムでのペナルティトライを奪われて1点差に迫られるなど、特にFW陣には「やられた感」が残る勝利でもあった。
「このチームは、2年前、あれだけスクラムでけちょんけちょんにやられたところからスタートした。自分たちがどれくらい成長したか楽しみ」

前日練習の後、チーム最年長で日本代表最多キャップを誇るLO大野均が語っていたとおり、この2年間の日本代表の進化、特にセットプレーでどれだけ欧州の強豪と渡り合えるようになったのかをはかるには絶好の機会だった今回のルーマニア戦。
2年前と同じように、日本はルーマニアにスクラムでのペナルティトライを献上した。

前半14分に日本がFB五郎丸歩バイスキャプテン、同17分にルーマニアがSOフロリン・ブライクと、お互いにPGを1本ずつ決めた後の同27分。
日本陣深くで組まれたスクラムが何度も回り、そして崩れた末に、スチュワート・ベリーレフリーはペナルティトライを宣告した。

「世界ランキングなら6、7位の実力」(エディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチ=HC)のマオリ・オールブラックス(AB)を押し込むなど進化した日本のスクラムも、「世界ランクは高くない(=18位)が、スクラムに関しては世界で一番強いと言ってもいい」(同HC)ルーマニアには通用しないのか。
端から見ている限り、この時点ではそんな厳しい現実を突きつけられたような気もしていたが、実際にルーマニアFWと直接対峙していたフロントローの感触は全く違うものだった。
「ちょっと受けたところでスクラムが回ったり、逆にこっちが攻め込んで回ったのに反則を取られたり。完全に仰向きになってペナルティトライという感じではなかったし、こっちとしてはスクラムで負けたイメージでは全然なかった」(PR三上正貴)

確かに、2年前の対戦時、ノンメンバーだったLO伊藤鐘史が「ジャパンのスクラムがグワーッとめくられるの見て、衝撃を受けた」と語ったのに比べると、前述のペナルティトライのシーンも日本のスクラムが明らかに後退したわけではなかった。
2年前のスクラムトライを経験しているPR畠山健介も試合後「2年前のように、一気に持っていかれることはなくなった」 と語るなど、結果的にペナルティトライを奪われたものの、日本のフロントローに圧倒された感触は全くと言っていいほどなかった。

その感触が正しかったことは、この試合の日本の最後の得点シーンが証明している。
後半40分。ファーストスクラムで反則と取られ、前半ペナルティトライを奪われた日本は逆にスクラムでペナルティを勝ち取り、FB五郎丸バイスキャプテンがこの日6本目のPGを蹴り込んだ。
直後にルーマニアに1PGを返されたものの、最終スコアは18-13。

日本としては1年前のオールブラックス戦以来のノートライゲーム。日本がトライを奪わずにテストマッチで勝ったのは、ジョーンズHC体制になって初という珍事ともなった。

前半8分、SO小野のキックに反応したWTBヘスケスが右隅に飛び込むがグランディングは認められず。あと1歩でトライというシーンは何度もあった
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FW陣の先頭に立ち続けたFLリーチ主将は後半10分に交代。大黒柱なしでも勝ち切った点も成長の証しだろう
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「ベストじゃないのにファイトし続けた。一番嬉しい勝利」(ジョーンズHC)

前述のスクラムトライが象徴的だったように、本当にタフだった欧州でのアウェー戦をものにした選手たちに対して、試合後ジョーンズHCは次のような声をかけてねぎらった。
「とても素晴らしいテストマッチのパフォーマンスだった。ベストではなかったが、この勝利が一番嬉しい」

前半8分にCTBマレ・サウのラインブレイクでチャンスを作った後、SO小野晃征のグラバーキックに反応したWTBカーン・ヘスケスがインゴール右隅に飛び込むがグラウンディングが認められずノートライになるなど、あと1歩でトライという場面は何度もあった。
「アタックが十分にシャープではなかった。ラインが深すぎたり、ゲインラインに対してフラットではなかったり。
グラウンドがヘビーだったことも影響したのだろうし、ルーマニアのディフェンスも良かった。たくさんのオフサイドが見逃されるなど、ボールを持ってプレーすることが難しい試合だった」
ジョーンズHCが語るとおり、どう考えても地元のルーマニアペースで試合が進んでもおかしくない条件が揃っていたのに、間違いなく試合の多くの時間帯を支配していたのは日本だった。
「最初にペナルティトライを取られても、自分たちのボールキープを多くすることで、逆に相手がプレッシャーを感じて、ペナルティをするようになった」(SO小野晃征)

ペナルティトライで逆転された後、前半32分から後半17分までにFB五郎丸バイスキャプテンが4連続PGを決めて15-10。
あるいは試合全般を通して優勢だったラインアウトを起点にアタックすれば、トライを取れていたかもしれないが、より勝利に近づくため、確実にPGを重ねたあたりも成長の証しと言っていいだろう。
結果的に6本のPGチャンスをすべて決めて勝利の立役者となった五郎丸バイスキャプテンも「いい勝ち方だった」と胸を張る。
「アウェーってこんなもの。2年前のスクラムからするとすごく成長していますし、FWが頑張ってくれた。見ている側としては不満があると思いますけど、これがアウェーの厳しさ。今日は本当に頑張った。
(100%のPG成功には)満足しています。ディフェンスも安定していたし、アタックされていても全然怖くなかった」

後半9分に途中出場して、厳しいアウェー戦を勝ちきることに貢献したLO大野も「こういう展開だと、ジャパンは最後の20分で引き離されるというのが多かったのが、逆にしっかり引き離すことができるようになった。自分たちのラグビーをやり続ければ結果はついてくるという感じだったし、最後まで嫌な感じはなかった」と、チームの成長の実感を語った。

2年前にスクラムでのペナルティトライを取られながら、アウェー戦勝利をものした相手に再びペナルティトライを取られながら逆転勝ち。
2年前は2トライを奪ったが、今回はノートライ。
あるいは、「ジャパンのラグビーはしっかりボール動かして、きれいにトライ取るというのが目標」(SO小野)という意味ではマイナスだと感じる結果かもしれない。
それでも、「ベストじゃないのにファイトし続けた」ことでジョーンズHCに「一番嬉しい勝利」と言わしめた、どんな状況でも勝ちきるゲームコントロール力という意味では大きな進歩を感じさせた本当にタフな欧州でのアウェー戦勝利だった。

度々自ら仕掛けるなど積極的なプレーも目立ったSO小野。「自分たちで試合をコントロールできた」点にチームの成長を感じていた
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PR稲垣、WTBヘスケスと共に初キャップを獲得したNO8マフィ。「どれだけすごい選手になるか予測不可能」(ジョーンズHC)
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奮闘したフロントー陣。ペナルティトライこそ奪われたものの、ジャパンのスクラムの進化を欧州のアウェー戦で証明した
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やはりとびきりタフだった欧州でのアウェー戦。日本代表は「一番嬉しい勝利」とジョーンズHCを喜ばすパフォーマンスを見せた
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