スポーツボランティアを通じて得たもの
多様な人間関係と臨機応変な対応力

公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と日本ラグビー協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップに向けて」の第48回が10月23日、東京都港区の男女平等参画センター「リーブラ」で開催された。今回はスポーツボランティアの豊富な実績を持つ荒木吉雄氏、堤容子氏を招き、「スポーツボランティア活動を通じて得たもの」というテーマで講義が行われた。

11年に開かれたラグビーワールドカップニュージーランド大会では約6000人のボランティアが参加したが、ラグビーワールドカップ2019日本大会ではそれ以上の人が必要になるとも言われている。その時を見据え、ボランティアで大会に関わりたいと思った人はどうすればよいのか、また、2人がボランティア活動を始めたきっかけや魅力は何なのか。荒木氏、堤氏がそれぞれの経験を踏まえて、見解を語った。

■ボランティア歴とはじめたきっかけ

荒木吉雄氏
荒木吉雄氏

堤容子氏
堤容子氏

堤氏は長野五輪やライフセービングでスポーツボランティア活動を経験。幼少期にガールスカウト、社会人になってからも青年海外協力隊としてモロッコに派遣された経歴を持っている。現在の主な活動としては、大学からはじめたライフセービングで、子どもなどへの指導や世界大会での通訳や審判として大会に帯同することもあるという。

荒木氏は「東京マラソン」や「湘南国際マラソン」、先日行われた「東京セブンズ2014」に参加するなどボランティア歴は約10年。現在は会社を辞め、横浜で行われるマラソンボランティアの立ち上げに携わっている。ボランティアの研修にも参加しており、「日本スポーツボランティアネットワーク」でリーダーと、リーダーを束ねる上級リーダーの資格を取得している。

堤氏がボランティアをはじめたきっかけは、大学で入ったライフセービング部で講師の手伝いをしたこと。講師の近くで多くを学び、楽しい経験ができたことからボランティアを続けている。一方の荒木氏のきっかけはひまつぶし。市の広報誌で、近所で行われる大会のボランティア募集の記事を見つけ、選手の受付をやったことから始まった。家の近くで行われており、気軽に始められたことが大きかったという。

■ボランティアの魅力とは?

彼らはなぜボランティアを続けているのだろうか。荒木氏が初めて参加した時に行った選手の受付は、チラシの封入や荷物預かりなど大変なものだったし、スポーツには関係ないことのようにも感じたそうだが、それでも続けようと思ったのは楽しかったから。初めて出会った人たちと、ひとつのことをやり遂げたことに楽しみを覚えた。さまざまな大会に参加し、仲間ができること、そしてボランティアでしか会えない人たちと、1つの大会を成し遂げることに魅力を感じているという。堤氏は、大学4年のときに参加した長野五輪のボランティアを例に、「選手たちを間近に見て現場の躍動感を感じたこと」を魅力として挙げた。

また、ボランティアに必要な要素として両氏が共通して挙げたのがコミュニケーションスキルだ。団体が提供する研修で救護やAED、リーダーシップなどもあり、さまざまなスキルを身に付けることもできるが、何よりも重要なのはコミュニケーション能力。語学が必ず必要なわけではなく、全く知らない人とどうコミュニケーションをとっていくのかが必要な能力だと話した。

■活動を通じて得たもの

最後に、ボランティア活動を通じて得たものとして、荒木氏が挙げたのが、人間関係が変わったこと。会社や仕事だけでは狭い範囲で限られた人間としか接しないため、自分自身に人間としての幅がなかったと感じるという。ボランティアを通じて出会う高齢者や若い人では反応や接し方が違うため、それぞれに対応する人間力を養うことができたと話した。

さまざまなボランティアがある中で、特にスポーツボランティアの特徴を聞かれた荒木氏は、「分かりやすくて前向きなこと。大会という分かりやすい結果が出る場所もあるので、ボランティアをやったことがない人でも、スポーツボランティアは入りやすいのではないか」と語った。さらに、ラグビーでのボランティアを通じて感じたこととして、「ボランティアの輪を広げていけば、ファンも増えていくのではないか」と話している。

堤氏も同様にいろんな人との出会いを魅力として挙げている。さらに、「スポーツボランティアの主役は選手。それを支えるボランティアがいなければ選手も輝けないので、大会を成立させるためにはとても重要な役割を担うことができる」とも話している。

■日本人はホスピタリティーに溢れている

休憩を挟んで行われた第2部では、第1部の講義に関する質疑応答を行い、スポーツボランティアに参加する上での心構えについて議論を深めた。

──日本と海外のスポーツ大会でボランティアの違うところは?

堤氏「日本人は日本人であるというだけですごく丁寧で、ホスピタリティーに溢れている人ばかりだと思います。時間は守るし、日本の大会はきめ細かいです。海外の大会はややいい加減なところがあります」

──これまでのボランティアの経験の中で最も感動を覚えた経験は?

荒木氏「やっぱり選手の方から『ありがとう』『力になったよ』と声を掛けていただく瞬間ですね。あとは、ボランティア仲間からの『楽しかったね』『またやりたいね』という声が出たときです」

堤氏「2年前に、ライフセービングの世界大会で審判員としてオーストラリアに行ったときです。審判が年配の方ばかりで、すごくかわいがっていただきました。ライフワークとして、楽しみにきている方々のコミュニティーに入ることができて楽しかったですね。そういった環境に受け入れてもらったことがうれしかったです」

──ボランティアに当たり外れはあるのか?

荒木氏「いろんな環境がありますが、どんなところでも自分で目標を立てて楽しみを自ら見つけることが大事だと思います。決して腐らないように、心の持ち方が大事ですね」

堤氏「始める前はさまざまな気持ちがありますが、終わってみたらいろんな発見があると思います。嫌と思うか、それでも楽しもうと思うのかは心の持ちようもあると思いますね」

■求められるのは臨機応変な対応

──まったく運動しない人間でもボランティアに参加できますか?

荒木氏「できます。ボランティアには炎天下の中でやる活動もありますが、着席での活動もたくさんあります。ハードなことはやらないで、自分でできそうなものを選んでやられたらいいと思います」

堤氏「例えば、ライフセービングでもさまざまな役割があります。ごみを拾うだけでも立派なライフセービングです。だれでも参加できると思います」

──よきボランティアになるためにするべきこと、するべきではないことは?

堤氏「心掛けるべきことは臨機応変に対応できることだと思います。人間としてやられて嫌なことはみんな一緒なのでそれはやらないことが大事ですね」

荒木氏「柔軟な態度で周りを見ることです。マニュアルに書いてあることは基本なので、何をするべきなのかを考える。それを1人でやってもいいし、チームでやってもいい。そういうことを考えながらやることが大事だと思います。単純な仕事だけやってもつまらないし、自由度があるのでいろんなことができるのがボランティアです」

──ボランティアに必要なスキルや資格は?

荒木氏「募集条件により異なりますが、基本的には、前向きに、やる気があれば活動できるものが大半です。国際大会では、語学を求められることもありますが、すべての人に必要な能力ではありません。ボランティアに関する基本的な学びは、日本スポーツボランティアネットワークが講習会を開催しています」

あなたにとってラグビーとは?

堤氏「2019年にはボランティアでなにかをやりたいなと狙っています。それまでになにか1つでも携わっておきたいと思いますね」

荒木氏「今年、セブンズのボランティアをやって面白いと思いました。来年も、セブンズの大会があるので、なんらかの形で関わりたいと思います。私にとってラグビーとは『セブンズ』ですね」