6月15日、4月に発足したジュニア・ジャパンとパシフィック・ネーションズカップ(PNC)のために来日中のトンガ代表が練習試合を行い、ジュニア・ジャパンは後半のスコアでは19-19のイーブンに持ち込むなど健闘も見せたが、前半に奪われた4トライが響いて24-45で敗れた。
世界10位を相手に未来につながる健闘ぶりを披露

ジャパンを補完する若手メンバーを育成する目的で4月中旬から2週間に1度の1DAYセッションを行ってきたジュニア・ジャパンにとって、初の対外試合となったトンガ戦。22人のメンバーにはジュニア・ジャパンスコッドに加えて、ジャパン組からも9人が合流(PR坪井秀龍、LO篠塚公史主将、FL村田毅、FL桑水流裕策、SH内田啓介、SO田村優、CTB中村亮土、CTB森川海斗、WTB竹中祥)。
日本代表のセカンドグレードという位置づけをより強くしたチーム構成で、こちらもすでに今年のPNCでプレーしたメンバーが22人中14人を占めた本物のトンガ代表の胸を借りることになった。

後半5分にトライを奪った他、積極的にボールに絡んでいくプレーでチャンスをつくったWTB竹中
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12日、13日に行われた日本代表との合同セッションではセットプレーで上のジャパンを圧倒する場面もあったジュニア・ジャパン。いきなりトンガボールのスクラムを2回連続でターンオーバーするなど、トンガに対してもセットは十分通用すること印象づける立ち上がりとなった。
「セットから相手崩すことができて、そこの部分は良かった」(HO白隆尚)
ただし、いきなり訪れた相手ゴール前でのマイボールラインアウトのチャンスはノットストレートで逃し、先制には失敗。
次第に日本代表もなかなか止められなかった、まずは近場から崩してくるトンガのパワフルなアタックにDFが崩壊するシーンが目立つようになる。

10分に自陣から積極的にアタックしたジュニア・ジャパンだったが、WTB竹中祥がつかまり、ターンオーバー。そのままフェイズを重ねたトンガが最後はCTBシアレ・ピウタウ→WTBダミエン・ファカファヌアとつないで先制トライ。19分にも連続攻撃からNO8パウラ・カホがトライを奪って、トンガが14-0とリード。

それでも、ジュニア・ジャパンも直後のキックオフがマイボールラインアウトとなり、FL村田がタテにトンガDFを切り裂いた後、SO田村→CTB森川とパスをつないでブレーク。再び左サイドを「ジャパンで他のバックローの人たちとプレーして、任せるところは任せて、自分がいくところは100%で行くことを学んだ」という村田が再び前に出て、さらに順目に走り込んできたWTB竹中がトライラインに迫った後、最後はFWがなだれ込み、HO白が押さえて1トライを返した。
結局、前半のジュニア・ジャパンの得点はこのトライのみ。逆に、「どんな試合でも高いモチベーションで臨めるのがトンガチームのいいところ」(トウタイ・ケフ ヘッドコーチ)といい、練習試合にもかかわらずキックオフ前には恒例のシピタウを披露するなど、本気モードの世界ランキング10位のトンガが2トライを加えて、ハーフタイムを迎えた。

「後半は日本が勝っていた」(トンガのケフHC)
前半35分から途中出場した17歳のSO/CTB山沢のプレーぶりは日本代表ジョーンズHCも絶賛
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ジュニア・ジャパンは全員をプレーさせる方針だったこともあり、前半35分には注目の高校生SO/CTB山沢拓也が早くも途中出場。いきなり自らのパスミスでこぼれたボールを後ろに戻って拾い、右ライン際をブレークして、平日の16時からのキックオフにもかかわらず集まった1000人を超える熱心な観客を沸かせた。
その山沢が「ちょっと当たっただけでもヒョロッとなるくらい強くて、おかしかった」と独特の表現で語ったように、前半は国内では全く体感できないレベルの当たりの強さに戸惑っていたジュニア・ジャパンだが、ハーフタイム以降は「後半はむしろ日本が勝ったといえるかもしれない」(トンガのケフHC)という健闘を見せた。

10分に自陣でキック処理をしたWTB竹中がカウンターでまっすぐ前に出て、FB豊島翔平、WTB原田季郎の好走で敵陣に入り、PR坪井がタテに突破した後のラックから最後は山沢のパスを受けた竹中が右サイドを走り切ってトライ。
その後、トンガに2トライを加えられたが、18分には自ら足にかけたボールを追ったSO田村が相手BKを潰してチャンスをつかみ、ラックから右サイドを攻めてLOマイケル・ブロードハーストが飛び込む。
38分にも、ゴール前スクラムからFB豊島がギャップをついてゴールに迫り、ブロードハーストが連続トライを決めた。
終了間際にトンガに1トライを返されたものの、後半のスコアなら19-19。

アタック面で目立ったFL村田は仏バーバリアンズ戦の日本代表スコッド入りを果たした
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「最初は1対1や接点も強いし、DF範囲も広いので、間合いがとりずらかったけど、プレーをしていく中で『この間合いだ』と何となくわかってきた部分もあった。今からこの間合いを経験していけば、わかっていくと思う」
いきなり、トンガの先制トライにつながるタックル→ターンオーバーを食らったものの、後半は「ジャパンで2ヵ月練習してきて、体張れるようになったし、SHから直接ボールもらったり、ボールのある周辺に入っていけるようになった」と本人が成長を自覚する積極的なプレーでチャンスをつくった竹中が語るとおり、ジュニア・ジャパンのメンバーが時間の経過の中でトンガの当たりの強さに慣れて、徐々に自分たちのプレーができるようになっていったのは、紛れもない事実だろう。

「ずっとビビリッぱなしだった」という最年少の山沢から、「本当は私がここ(ジュニア・ジャパン)にいてはいけないんですが、トンガに勝つことが目標だったので負けて悔しい」という最年長の篠塚主将まで、本物のインターナショナルと対戦できた経験は必ず将来に生きてくるはず。
一方、日本代表の強化という観点から言っても「4、5名の新しい選手が見えた」(薫田真広・日本代表アシスタントコーチ)、実に意義のある練習試合となった。

text by Kenji Demura

試合後の記者会見から

トンガ代表、ケフ ヘッドコーチ(左)、カホキャプテン

◎トンガ代表
○トウタイ・ケフ ヘッドコーチ

「結果に大変満足しています。今日の試合は我々がコーチしてきた事がやれたと思っています。相手に対してハードに動かすという部分もよくやってくれた事に満足しています」

○パウラ・カホ キャプテン
「監督と同じく非常に結果に満足しています。前回の試合で日本との試合でやろうと思った事を出来たと思います。具体的には、もっと若手中心に走っていく事、5人全員でボールを動かして行く所、ディフェンスでも前回よりも我々のレベルは上がったと思っています。我々がやろうとした所をしっかり出来たので満足しています」

──今日のジュニアジャパンについて。

○ケフ ヘッドコーチ

「日本人選手全般に対して私が思っていることですが非常に才能を持った選手が多い、アスリートとしても様々な能力を与えられた選手が多いといつも思っています。それが強さであったり速さであったりいろいろと思います。足りない所は何かと考えた時にメンタル面でのタフネスなのかなと。短い期間の短時間のメンタルタフネスではなく、長い時間持ちこたえるメンタルタフネスというのが必要になってくるのではないかと思います。
ジョーンズ氏とも話をする機会がありまして、監督自身がそこを変えていきたいと話していらっしゃいました。これからどんな選手を見つけたいかという点で、それが日本のラグビーにおけるスーパースターになれる選手を見つけていきたいと聞きました」

──この試合に対しては?

○ケフ ヘッドコーチ

「前回の試合から短い試合期間であったのですが、それに関してはトンガのチーム・選手達には、あまり気にならないのが実情です。次の試合は一週間時間が空きますが準備に影響している事はあまりなくてモチベーションについてもトンガの選手は生まれ持ったアグレッシブさやモチベーションの高さを持っていますので監督としても助かっていると思います」

──後半、日本に攻められた部分に対しては。

○ケフ ヘッドコーチ

「後半の部分は日本がよりフィットしてきました。それから非常にボールをリサイクルする点で素早かった所があったと思います。一つ一つのプレーについてもかなり良くなって来ていましたので我々が一対一になった部分でなんとか持ち堪えて止めたと思います。実際に22mまで攻め込まれピンチだった場面など、後半に関していえばジャパンが勝っていたといえるかもしれません」

──フィジー戦に向けて。

○ケフ ヘッドコーチ

「今日の試合に関しては選手全員がフィールドの上で走り回って動けたという所が良かったと思います。次の試合に備えてフィットネスの部分も非常に良く動いたところを確認できたという点では良い収穫だったと思います。
次のフィジー戦に関してはチームで戦うのみで何も隠す分部分はないのでいつもの通り我々がやっているダイレクトそしてフィジカルな試合をやって行きたいと思います。もちろん戦術をフィジーにあわせてやっていく部分もありますが、いつもの通りに戦っていきたいと思います」

──ジュニアジャパンと日本代表との違いは?

○ケフ ヘッドコーチ

「正規のジャパンの方が選手一人一人のクォリティに差があったと感じました。体もジュニアジャパンよりも大きかったのではと感じています。ジュニアジャパンに関しては今日ミスが多かったと思っています」

前半はトンガのパワーに劣勢だったが、後半は互角以上の戦いぶり(写真はタックルにいく桑水流、小林のFW第3列)
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◎ジュニア・ジャパン
○薫田真広アシスタントコーチ

「今日の試合に関しては、チームの目標ももちろんあったが、篠塚キャプテンを筆頭に個人個人の目標、すなわち次の日本代表スコッドにどう入っていくかという方が大きかったように思う。あくまで個人的意見だが、すでに日本代表スコッドに入っている選手以外に、4、5名の新しい選手が見えたというのは収穫だった。最年少の山沢(拓也=SO/CTB)に関しても、実際、ゲームでグラウンド入った時の方が大きく見えたという感じがした。持ち味は十分出していたと思う。DFという問題はあると思うが、アタック面でのポテンシャルは感じた。彼にとっては大きな経験になったと思う。この経験を次に生かしてもらいたい。

今日、素晴らしい経験をさせていただいた、トウタイ・ケフ ヘッドコーチをはじめとするトンガ代表に心からの感謝の言葉を申し上げたい」

ジュニア・ジャパン、薫田アシスタントコーチ(右)、篠塚キャプテン

○篠塚公史キャプテン
「目標はあくまでもトンガに勝つということだったので、正直、負けて悔しい。ただ、このチームは今週の月曜日に集まって、まだ4日しか経っていないのに、これくらいの試合はできたので、ひとりひとりのポテンシャルはあるなと感じた。自分自身、初めてキャプテンをやって、キャプテンらしくできたかどうかはわからないが、キャプテンとしてひとりでも多くジュニア・ジャパンからジャパンに上がっていけるように、何か手助けができればなと思ってやってきた。自分自身、ここにいてはいけないんですが(苦笑)、またチャレンジしていきたい。
金曜の午後4時からという条件の試合にもかかわらず、たくさんのファンの方に来ていただいて、本当にありがたかった」

──後半、良くなった理由をどう捉えているか。

○薫田アシスタントコーチ

「基本的にはジャパンと同じで、ラスト20分でどう勝負していくか、ゲームプランとしてフィットネスで勝負しようというのはあった。前半から攻めようという意識はあったと思うが、トンガのDFに対して、特にブレイクダウンの部分で苦戦して、なかなかボールを動かせないケースがあった。それでも、後半追い上げられたというのは、選手が良くプランをイメージできていた証拠だと思う。リザーブの選手たちもよく自分たちの役割を理解していた。もう一度ペースアップしようというのは、グラウンドの上でもよく声が出ていた」

──山沢選手の印象を。

○篠塚キャプテン

「今日の試合まではすごく静かで、ほとんどしゃべらなかった。でも、いったんグラウンドに出ると大胆に自分からどんどん攻めていった。人を抜く力もある。すごくいいプレーヤー。歳がひとまわり以上離れていて、自分が埼玉出身だということも、知らないみたいで(笑)。ちょっと歳の差を感じた」

──キャプテンと呼ばれる気持ちは。

○篠塚キャプテン

「あまり気持ちのいいものではない。個人的には、後ろの方から口を出す方が好きなので、あまり前に出てしゃべるタイプではないので、この1週間はドキドキしていた」

──相手にターンオーバーされるケースが多かった理由を。DFが緩かった気がしたが、それは急造チームなので仕方ないことなのか。

○薫田アシスタントコーチ

「準備の期間が4日間しかなかったので、落とし込めることも限られてしまい、シンプルなゲームプランにならざるを得なかった。選手としては、オプションが少ないがゆえに、判断をしていかなければいけないケースも増えたが、正直ギャップはあった。ラック周辺でトンガのDFのバランスが崩れている場面も何回もあった。ただシェイプやリンケージというところに時間を割けなかったし、スペースを見つけられなかった面もある。あと、自分たちの強みである低いところでのプレーというのを徹底できなかった。トンガの高さでボールキャリアがプレーしてしまった。
後半はスピードを上げながら、ボールが流れるようになった。徐々にペースを上げながら、やらなければならないことが整理できていったという感じはあった」

キックオフ前にシビタウも披露するなど、トンガ代表は本気モードでジュニア・ジャパンに向かってきた
photo by RJP