「リポビタンDチャレンジカップ2025」ウェールズ代表との2連戦は1勝1敗だった男子日本代表。約1ヶ月のオフを挟み、日本代表合宿がスタート。今年もいよいよ8月30日(土)のカナダ代表戦(@ユアテックスタジアム仙台)から「アサヒスーパードライ パシフィックネーションズカップ(PNC)2025」の戦いが幕をあける。2試合目からはアメリカに舞台を移すが、昨年は準優勝だった環太平洋の強豪が揃う大会で、今年こそ2019年以来、4度目の優勝を狙う。
◇ウェールズ代表から12年ぶりに歴史的白星を奪取!
(PNCでは2019年以来、4度目の優勝を狙う日本代表)
昨年、エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)が再任したラグビー日本代表。就任1年目、テストマッチで4勝7敗と負け越し、指揮官が目指すスタイルに少しの不安を持った人もいたはずだ。しかし、2年目を迎えた今年、7月に国内で世界的強豪のウェールズ代表と2試合戦い、その不安を払拭するような戦いを見せた。
7月5日の1試合目では、北九州で24-19と12年ぶりに「レッドドラゴン」から歴史的白星を挙げた。前半はキックを交える巧みな戦いを見せて、後半20分からは攻守に渡り「超速ラグビー」の一端を見せての会心の勝利だった。
7月12日、神戸で行われた2試合目は前半から相手に主導権を握られて3-21とリードされたが、22-24まで追い上げる素晴らしい粘りを見せた。ただ惜しくも22-31で敗戦し、伝統国が意地を見せた形となった。
(12年ぶりにウェールズ代表に勝利し、喜びをわかち合う選手たち)
(ウェールズ代表戦勝利後の集合写真)
◇世界的名将が課題にあげた4つのポイント
1勝1敗で終えたウェールズ代表との2連戦で、世界的名将が「学んだ」と話したのは4つの点だった。
(「感情をどうコントロールするかというスキルを育成しないといけない」と語るジョーンズHC)
1つ目はメンタル面。「感情をどうコントロールするかというスキルを育成しないといけない。ウェールズ代表に勝利した後の2戦目、若手からすると照準を合わせることは大変だった。訓練が必要です」(ジョーンズHC)
ラグビー面では2つ。ハイパントキック後の空中戦でのコンテスト、そしてディフェンスの精度を上げることだ。名将は「近年のラグビーは、空中でのコンテストが激化しており、各試合で30回ほど空中のコンテストがある。(空中戦でのハイボール争いに勝利し)キックを交えながらのアタッキングゲームをPNCで発展させていきたい。また新しく就任したギャリー・ゴールド(アシスタントコーチ)の下、容赦ないディフェンスを確立していきたい」と先を見据えた。
(ディフェンス担当のコーチに就任したギャリー・ゴールド氏。かつて神戸製鋼の指揮も執った)
最後の1つは、RWC2027を見据えたリーダーの育成である。「ウェールズ代表戦では、リーチ(マイケル)が戻ってきて、素晴らしい仕事をしてくれた。(今後に向けて)リーダーシップを強化、育成しないといけない」(ジョーンズHC)
◇PNCに向けた37名が発表!嬉しい初の代表入りは5人
8月から9月にかけて、7月に出た4つの課題をすぐに克服する国際舞台が待っている。それが環太平洋の強豪と対戦する「アサヒスーパードライ パシフィックネーションズカップ(PNC)2025」だ。
PNCは2005年から形を変えて、継続的に開催している。昨年からプールB=日本代表(世界ランキング14位※)、アメリカ代表(16位)、カナダ代表(25位)、プールA=フィジー代表(9位)、サモア代表(13位)、トンガ代表(19位)の2つのプールに分かれて2試合を行い、その後、準決勝、決勝というトーナメント制のファイナルシリーズを戦う形となった(※世界ランキングは8月19日、現在)。
8月中旬、ジョーンズHCはPNCに向けた日本代表スコッドを発表し、「強いスコッドだと思う。手応えを感じているし、誇らしいプレーをしてくれるだろう」と胸を張った。なお合宿に参加しているスコッドから大会登録メンバー(プールフェーズ)は28名、アメリカ遠征メンバーは30名と絞られる。
>>>日本代表合宿参加メンバーはこちら https://www.rugby-japan.jp/news/53432
基本的には7月のスコッドが中心となったが、キャプテンだった36歳のベテランFLリーチ(東芝ブレイブルーパス東京)、フランスでプレーしているSH齋藤直人(トゥールーズ)を筆頭に、11名ほどの選手が参加できなかったという。ただ昨年、エディー・ジャパンに参加していたFLサウマキ アマナキ(横浜キヤノンイーグルス)、ティエナン・コストリー(コベルコ神戸スティーラーズ)という運動量豊富なバックロー2人、そしてWTB長田智希(埼玉パナソニックワイルドナイツ)がスコッドに戻ってきた。
(昨年のPNCでトライを挙げるWTB長田)
それ以外にも、フィジカルランナーのWTB木田晴斗(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)が2年ぶりに代表に復帰。スクラムとスキルに定評があるPR祝原涼介(横浜キヤノンイーグルス)、5~6月のJAPAN XVで成長を見せたPR津村大志、LO山本秀(リコーブラックラムズ東京)、伊藤鐘史アシスタントコーチの弟でタックルに強みを見せるLO伊藤鐘平(東芝ブレイブルーパス東京)、JAPAN XVで経験を積んだ平生翔大の5人は嬉しい初の代表選出となった。
※平生翔大選手は8月25日に追加招集発表
(15日からスタートしたFWの東京合宿で汗を流す、代表初招集のLO山本※中央左、とLO伊藤※中央右)
(東京合宿で兄・伊藤鐘史アシスタントコーチの指導を受ける弟のLO鐘平(右))
指揮官が「ワーナー(・ディアンズ)に頼りっきりになっている」という層の薄いLOのポジションの強化として日本人の山本、伊藤の2人のLOを招集した。7月に初キャップを得たWTB石田吉平(横浜キヤノンイーグルス)と並び、WTB木田、長田の2人にはランはもちろんのこと、空中でのコンテストに期待がかかる。「WTB石田が成長してポジティブなところに、度胸のある木田、長田の2人を強化していきたい」(ジョーンズHC)
(空中戦とランに期待がかかるWTB石田)
FLリーチに代わるリーダーシップの部分では昨秋、副キャプテンを務めたHO原田衛&チーム最多の30キャップのCTBディラン・ライリー(ワイルドナイツ)の2人、JAPAN XVでのマオリ・オールブラックス戦(6月)でキャプテンを務めたFL下川甲嗣(東京サントリーサンゴリアス)、自チームでキャプテンを務めた経験もあるNO8マキシ ファウルア(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、SO李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)らがチームを引っ張っていくことになるはずだ。なお新キャプテンはPNC初戦の前に発表される予定となっている。
(FWの中心選手の一人HO原田。リーダーシップが期待される)
◇進化した「超速ラグビー」で今年こそPNC優勝を狙う
いよいよPNCが、8月30日のカナダ代表戦(@ユアテックスタジアム仙台)から始まる。昨年、決勝戦でフィジー代表に敗れた(●17-41)日本代表が目指すのは、もちろん6年ぶり4度目の優勝である。
ただ今年のPNCはRWC2023の結果でRWC2027の出場権を得た日本代表、フィジー代表以外の4チームはRWC2027の出場権がかかった大事な大会となる。そのため、どのチームも昨年より真剣に大会に臨むことは明らかである。
(※日本代表、フィジー代表を除く4チーム中、上位3位以内に入れば自動的にRWC2027の出場権を得る)
日本代表としては、昨年同様(カナダ代表戦:○55-28、アメリカ代表戦:○41-24)に、プールBで連勝して1位で準決勝に進出することは最低限の目標だろう。
(昨年のPNC決勝。フィジカルでチームを引っ張ったLOディアンズ)
(昨年のPNC決勝。突破するCTBライリー)
8月30日のカナダ代表戦では、ギャリー・ゴールドアシスタントコーチが正式に就任し、強化している組織ディフェンス、コンテストキック後の空中戦で優位に立ち、7月からより進化した姿を見せて圧倒したい。そして、続く9月6日(日本時間7日)、敵地のサクラメントでアメリカ代表のチャレンジを受けるが、しっかりと破りたい。
もし日本代表がプールB・1位で通過して、9月14日(日本時間15日)の準決勝(@デンバー)に進めば、プールA・2位と対戦する。準決勝に勝利すれば20日(日本時間21日)、ソルトレイクシティで決勝を迎える。順当にいけば、昨年同様に6チーム中、ランキング最上位で、7月にスコットランド代表(8位)を下したフィジー代表(9位)との決勝が予想される。10月~11月の世界的強豪との対戦が待つテストマッチシリーズ(リポビタンDチャレンジカップ2025、リポビタンDツアー2025)に向けて、そして12月に開催されるRWC2027の組み合わせ抽選のためにも、世界ランキング上位のチームに勝って優勝し、自信と勢いをさらに増したい。
(決勝へ勝ち進み、昨年より上位で終えたい、とPNCでの躍進を誓うジョーンズHC)
ジョーンズHCはPNCに向けて「日本代表にとって素晴らしい大会になるので楽しみにしています。『超速ラグビー』のアイデンティティーは確立できたと思うが、さらに発展させて、勝てるラグビーを構築したい。カナダ代表、アメリカ代表と対戦した後、準決勝、決勝と勝ち進んでいくことが我々の目標です。昨年は2位で終えたが、さらに上位で終えたい」と腕を撫した。
オーウェン・フランクス&伊藤両アシスタントコーチの下、強化を続けているFWのスクラム、ラインアウトといったセットプレーからのアタックはもちろん、激しいディフェンスからのターンオーバーを起点とした攻撃や、空中のコンテストでボールを再獲得してからの素早いアタックにも注力している。
エディー・ジャパンは、勝利したウェールズ代表戦で垣間見えた、キックも交えて進化した「超速ラグビー」と容赦ないディフェンスで、今年こそ環太平洋の王者を目指す。
(文・斉藤健仁)
◇アサヒスーパードライ パシフィックネーションズカップ2025
■日時:8月30日(土)17:00キックオフ
■対戦:日本代表 vs.カナダ代表
■会場:宮城・ユアテックスタジアム仙台
※プールB:日本代表、カナダ代表、アメリカ代表
前売りチケット絶賛発売中!