「第1回 全国中学生大会」中学生ラグビー指導者講習会リポート

(財)日本ラグビーフットボール協会
コーチングディレクター 中竹 竜二

<概要>

■日時: 2010年8月12日(木)15:00~18:00(第一部)、13日(金)16:30~18:30(第二部)
■場所: 菅平リゾートセンター・メインホール(第一部)、菅平サニアパーク会議室(第二部)
■参加者: 合計 延べ61名(内訳:25名/スクール、9名/中学校、27名/協会)
■内容:
<はじめに> (財)日本ラクビーフットボール協会 普及・競技力向上委員会 委員長 上野 裕一より ご挨拶
「日本ラグビー育成強化に向けて」
<第一部> (1)日本ラグビーにおける中学生ラグビーの役割、位置づけ、重要性
(2)トップチームコーチからみた中学ラグビーの現状と課題および必要なこと
(3)日本スタイルと一貫指導体制の構築について
(1)U16,17のブロック合宿の流れと概要
(2)コーチングのポイント/エデュケーター研修の内容
(3)ストレングス&コンディショニングの重要性/実技込み
(4)今後の中学生ラグビーの方向性

講習会の様子

<報告>
◆はじめに「日本ラグビー育成強化に向けて」

普及・競技力向上委員会 委員長 上野裕一

 上野委員長より、「日本ラクビー長期育成強化プログラム」についての話を伺った。その3つの柱として、以下が紹介された。

1指導者養成
より優れたプレーヤーを輩出するために、最高の指導者(各協会のリーダーから現場の指導者・レフェリーまで)を育てる。

2プログラムの開発
プレーヤーが最高のトレーニング、パフォーマンス、ゲームを発揮できるように計画的なプログラムを立案する。

3タレントの発掘
未来を嘱望させるような潜在性に富んだプレーヤーを発掘する。

 だたし、ここで最も強調されるべきは、指導者養成、プログラム開発、タレント発掘いすれに関しても、子供たちの成長に応じた年代別の育成強化を念頭に置き計画されなければならないということと、若年者層から代表に至るまで、しっかりとした教育観点 からの人間性の涵養が重視されなければならないということである。
 また、日本ラグビー長期育成強化プログラムは、以下の条件が求められている。

  1. 世界一のプログラムでなければならない
  2. プレーヤーの創造性を生む
  3. 多くの関係者により、持続性をもって支えられる
  4. 最後まで責任をもって完遂される
  5. 参加するものが価値を認め、高く評価する
  6. だれでも参加できる平等性を有する

 長期強化プログラムは、選手を8つのエイジグレードにわけ、それぞれに必要な能力を育成していく。その具体的なプログラムを示すものが、長期強化マトリクスであり、今後、こうしたサービスを一貫指導体制のもとに、全国展開していかなければならない。

◆第一部 「一貫指導と日本スタイル構築について」

中竹竜二 コーチングディレクター(CD)

はじめに、本指導者講習会への参加に際して、参加者が持つべき心構えについて話をした。まず、この指導者講習会の共通認識として確認しておくことは、2019年、ラグビーW杯が日本で開催されるが、その際の(財)日本ラグビーフットボール協会(以下、日本協会)が提示したJapanのゴールは、ベスト8(決勝トーナメント進出)であること。そのため、以下の2つの前提を講習会参加の条件とした。

前提1. 参加者は、Japan日本代表の勝利ために、全力で貢献すること。
⇒この場だけでも、帽子/ユニホームを着替えること。
前提2. これからの日本ラグビーの指針は、トップダウンではなく、参加者の皆さんとともに作っていくという意識を持つこと。
⇒皆さんが当事者であり、皆さんが作っていくこと。

そのため、本講習会は、参加者に対して講師が一方的に講義をするのではなく、参加者同士のディスカッションやグループワーク等の双方向のやり取りを通じて、現場の意見を反映させながら、進めていくことにした。

講習会の様子

 次に、コーチ(指導者)としての心構えとして、適切な言葉の活用の重要性について話をした。指導者は、言葉を自由に扱い、適切に活用することが大切であり、言葉の定義を明確にし、区別することで、選手に言葉の意味を理解させなければならない。中でも「成功」と「成長」を区別することに焦点を当てた。以下の4つの質問を繰り返しながら、指導者は、それぞれの優先順位をつけていかなければならない。

 問1.あなたにとって成功とは何か?
 問2.あなたにとって成長とは何か?
 問3.あなたの選手にとって成功とは何か?
 問4.あなたの選手にとって成長とは何か?

 1と2、3と4は、1と3、2と4、それぞれ、どちらが大切か?それらの位置づけは?といったさらなる質問を通して、自分なりの成功と成長の違いを明確にすることが大切である。コーチングディレクター中竹の解釈としては、「成功」とは、目標に対する優位な結果であり、「成長」とは未来に積極的に向かう意識である。特に、若い世代に対しては、成功の数より、挑戦の数にこだわることの重要性を提示した。また、成長は、失敗と挑戦の繰り返しによって生まれるため、コーチは、選手への適切な「失敗環境の提供」が必須であることを確認した。

(1)日本ラグビーにおける中学生ラグビーの役割、位置づけ、重要性
参加者とのディスカッションを通じて、以下のことが議論された。
1. 中学ラグビーの役割、位置づけ、重要性
◇将来(2019、23年W杯)の日本ラグビーを担う最も重要な年齢層
◇よって、普及および強化へ、最も投資するべき世代
◇体格・人格的に最も成長する年齢層であるため多様な刺激が必要
2. 中学ラグビーの課題
◇ラグビー人口の減少(小学生ミニからの引き継ぎが難)
◇インフラ整備の悪さ(グラウンド/室内練習場不足、特に芝環境)
◇指導人材不足(コーチ、先生の不足/高齢化)
◇部活動との連携が困難
◇スクール、中体連、日本協会との連携不足
3. 中学ラグビーへの提案
◇他競技、他種目との連携
◇トップリーグとの連携(選手派遣、指導者派遣)
◇メディアの活用

(2)トップチームコーチからみた中学ラグビーで必要なこと
7月初旬に行われたトップチームコーチ会議で、中学ラグビーで必要なことを議論した。以下がその概要であり、中学指導者に提示した。
◇普及へ向けたタグラグビーの拡大
◇中体連とラグビー協会がタイアップ体制、イベントの実施
◇中学ラグビーへトップリーグのチームが指導
◇中学生の代表を作り、同じ指導者が継続する
◇トップリーグのユースチーム、クラブチームを作る
◇年齢別カテゴリーを作る(大会、練習方式)
◇コーチングの情報提供
◇インフラ(グランド、室内施設等)の整備
◇指導者人材(コーチ、先生)の確保
◇教育委員会を通じて、指導要綱にいれ、体育の強化に組み込む
◇基本スキルの徹底─中学ではパス、キャッチ、ランなどのベーシックなスキル
◇アスリートとして育てる─基礎体力、ストレングス&コンディショニングに力を入れる
◇ラグビーの原理原則を教える
◇「ラグビーとはなんぞや」を教えられるコーチを作る
◇ラグビーだけでなく、スポーツの楽しさ、試合の楽しさを知ってもらう

(3)一貫指導体制と日本スタイルの構築について
日本協会としては、日本の文化的な背景も踏まえ、以下の図のように、一貫指導体制はトップダウン型ではなく、ボトムアップ型で進めていく。

一貫指導体制の構築
一貫指導体制の構築(クリックで拡大)

 また、IRBが提唱しているラグビー組織概念図も、続いて紹介。コーチやレフリーを育成していく役のエデュケーター、トレーナーというポストがあることを共通理解にした。

  IRBが提唱しているラグビー組織概念図

 日本スタイルの構築を行っていく際に、指導者は、日本ラグビーの現状について、把握しておく必要がある。そのため、日本代表やU20が世界ランキングのどの位置に着いているか、また、8強進出に向けてどのような国がターゲットとなるかを紹介した。現在、日本代表は13位、U20は14位であり、8強に向けては、ウェールズやイタリアなどの欧州諸国、サモアやトンガなど太平洋諸国が、日本より上位に位置づけている。

 また、日本ラグビーの現状認識を深めるために、日本ラグビーの強み、弱みについて、参加者にディスカッションをしてもらった。強みとしては、素早さ、低さ、器用さ、勤勉さ、練習時間の長さ、型にはまったときの従順さなどが挙げられ、弱みや不足している点としては、体力、パワー、判断力などが確認された。
 以下の図は、日本協会が整理した日本ラグビーのSWOT分析である。
日本ラグビーのSWOT分析
 日本ラグビーの現状を踏まえて、日本協会としては、以下の日本スタイルを提示した。最も重要なことは、日本スタイルの戦術・戦略的なことではなく、指導する上での哲学であることを強調した。それは「コーチ・選手が自ら考え、成長し続ける」ことである。そうした哲学の上に、4Hとして掲げた「敵よりはやく低く激しく、走り勝つ」という戦略が成り立っている。

前提:日本スタイルのコーチング(指導)哲学
「コーチ・選手が自ら考え、成長し続ける」
No Learn, No coach.

<日本スタイルの骨子>
世界一のスピードを有し
「敵よりはやく低く激しく、走り勝つ」
4H(はやく、ひくく、はげしく、はしりかつ)

 また、「ラグビーには唯一正しい戦略戦術はない」という事実に基づいて考えると、日本スタイルが掲げたこの「4H」が完璧なものではなく、大切なことは、勇気を持って強く決意し、それを実践し続けていくことである。
 
 こうした日本スタイルを全国的に浸透させていくためには、一貫指導体制の構築が急務となる。そのなかでも、長期強化マトリクスの策定が重要となる。よって、今後は、各エイジに必要なスキルや能力を抽出し、計画的に強化育成していかなければならない。その際に、必要な考え方は、以下の「育成ピラミッド」の理念である。人体やスキルは、育成順序を間違えると成長が右下がりになることを踏まえて、一貫指導に取り組む必要がある。
「育成ピラミッド」の理念

◆第二部 「コーチングのポイントとストレングス&コンディショニング(S&C)の重要性」

中竹竜二 コーチングディレクター(CD)
松尾勝博 リソースコーチ(RC)
古川泰士 リソースコーチ(RC)

 第一部に参加できなかった指導者が多かったため、まず、第一部の振り返りを行った。その際は、講師をつとめた中竹CDからの説明ではなく、第一部の参加者であった2名のコーチに急遽、プレゼンを行ってもらった。突然の指名にも関わらず、明快な説明をしていただき、非常に有意義な振り返りとなった。
 その後、中竹CDより、5月~7月までのブロック合宿での取り組みを紹介した。

U16,17ブロック合宿の取り組み

<5月~7月での活動>
 U16は、5ブロック/9ブロック中が実施済み
 U17は、8ブロック/9ブロック中が実施済み

<ブロック合宿の概要>
 測定:グランド測定(ビープテスト、60m走、体幹、立ち幅跳び、7分間走)、ファンクショナルテスト(バランス、関節の柔軟性)
 練習:「前に出るDF」の基礎基本、ブレイクダウン基本、ポジショナルスキル
 セレクションマッチ:ブロック合同合宿に向けた選考試合
 *日本協会=CD、RCはエデュケーターの役割
 *ブロックコーチ=「自ら考え、成長する」をベースに練習の効率化を実践

<今後の予定>
 U16関東=8月26日(金)~28日(日)@立正大学
 U16北海道=11月5日(土)~6日(日)@札幌
 U16中国=3月19日(土)~21日(月)@未定
 U16四国=11月27日(土)~28日(日)@未定
 U17四国=3月12日(土)~13日(日)@未定
 
また、7月下旬に行われたブロック合同研修会・大会では、ユースコーチがエデュケーターとして、ブロックコーチを指導していく立場をとり、課題を提示しながら、学び合いの場を創出した。

U17ブロック合同研修会・大会での取り組み

1 目的
~指導者の強化育成と日本スタイル(哲学)の浸透~
「自ら考え、課題を解決し、成長しつづける」
一貫指導体制における一斉指導 (縦軸と横軸の関係) 
⇒ブロック練習とユース練習の有効活用
同レベル指導者が学び合う体系的な環境づくり
(日本初の試み。高校指導者のネットワーク化)
⇒CD、RC、ユースコーチ、ブロックコーチの役割分担

2 方針
CD、RC、ユースコーチ、ブロックコーチがそれぞれの立場と役割を理解、PDCA(Plan-Do-Check-Act:計画-実行-評価-改善)の展開。
[課題1:練習の計画化と振り返り化]
(具体的な課題)
(1) 練習メニュー作成
(2) 練習レビューシート作成
[課題2:最高のウォーミングアップ/S&Cのテーマ]   
(具体的な課題)
(3) ウォーミングアップ計画作成
(4) ウォーミングアップチェックシート
(5) 選手へのセルフウォーミングアップへの啓発


コーチングのポイントについて(古川リソースコーチより)
 古川リソースコーチより、「良い練習」について説明がなされた。どんな練習メニューであれ、目的に沿った練習でなければ、意味がないという原則に基づいて講義はスタートした。そして、基本的な練習の効率化を向上させるポイントや質的向上のポイントを紹介した。その中でも、IRBが提示している下記PRICELESSの概念はとても有効である。

コーチングのポイント

目的の明確化(クリックで拡大)   PRICELESSの概念(クリックで拡大)
目的の明確化(クリックで拡大) PRICELESSの概念(クリックで拡大)

 次に、コーチングの計画化のプロセスとして、PDCA(計画、実行、分析、改善)を説明し、計画性の重要性を説き、いくつかの参考例を挙げた。

コーチングプロセス

ストレングス&コンディショング(S&C)の重要性について(松尾リソースコーチより)

 現在、日本協会としても力を入れているS&C分野についての説明を松尾リソースコーチから説明がなされた。これまで、S&Cはメディカル分野に偏りがちだったが、コーチング分野と連携を強化し、S&Cトレーナーという位置づけからS&Cコーチという位置づけにした。まだまだ日本国内では認知度は低いが、4Hを確立するためには最重要項目に挙げられるため、中学生世代におけるS&Cの適切な導入は、今後の日本ラグビーに大きな影響を与える。そのためにも、中学生指導者の正しい理解が必要である。

 将来の有望な選手に成長するためにも、特に、中学生には、有酸素系持久力、全身柔軟性、体幹安定性の向上が、必須だと考えられている。

各Age GradeでのS&C(クリックで拡大)
各Age GradeでのS&C(クリックで拡大)

中学生に必要なS&C(クリックで拡大)
中学生に必要なS&C(クリックで拡大)

今後の中学生ラグビーについて(中竹コーチングディレクター)

 これからの中学生ラグビーは、日本ラグビー強化の最大発揮力の可能性を高めるために、強化を図っていくことが重要となる。そのためにも、さらに、中学生の指導者同士が交流を図り、情報交換をスムーズに行い、学びの環境を数多く作り出していくことが大切である。

<今後の中学ラグビーは?>

  • これから、必ず大きな注目を浴びます。
  • これから、必ず大きな課題が見えてきます。
  • これから、必ず大きな波が起こります。
  • これから、必ず大きな変化/進化が起こります。

キーワードは「交出流」である。

最後に、中学ラグビーが日本ラグビーの強化を担うと認識を共通理解において、講習会を終了した。

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