真夏に集ったひな鳥たちは、冬の空に力強く羽ばたいていきました。


 日本協会が次世代リーダーを育成するため昨年度から始めた「ラグビー・エンパワメント・プロジェクト」(以下REP)。女子高校生を対象にラグビーの現場で活躍する先輩から学び、キャリア選択に生かしてもらう取り組みです。2年目を迎えた今年度は、北は岩手県、南は大分県から17人が参加。プレーヤーもいれば、マネジャー、将来的にラグビーの仕事に携わりたい学生と様々。5か月の間に、それぞれが進むべき道を見つけました。

 

 第1回講義は、8月の熊谷で2泊3日で実施しました。テーマは「新しい仲間とつながる」。参加者同士の交流を深め、日本協会の仕組み、ラグビー憲章を学ぶことから始まりました。ラグビータウンとあって熊谷ラグビー場見学も組み込まれ、初日に「楽しみにしている人は?」と聞くと、一斉に手が挙がりました。熊谷ラグビー場では職員から詳しい説明を受け、選手の使うロッカールームやグラウンドを見学しました。前日に初めて顔を合わせた参加者同士、言葉をかわす機会が多く、距離が縮まった時間でもありました。以後は月に1回、オンラインで研修。それぞれにテーマが決められ、少しずつ世界を広げていきました。


 

 第2回のテーマは「スポーツを“する”から“支える”」。35歳でラグビーを始め、現在は富山高専ラグビー部の顧問を務める大橋千里(ちさと)さん、ラグビーの大会をスポンサーとして支える太陽生命保険株式会社広報部 課長代理の山田陽美(はるみ)さんに話を聞きました。出産後もスポーツを続けるライフスタイルは、参加者にとって新鮮な刺激となりました。また大会運営の裏側や、スポンサーが果たす役割の話に視野が広がりました。

 

 第3回のテーマは「新しい世界を学ぶ」。日本協会で海外との窓口として活躍している先輩や、実際に来日したチームに帯同するスタッフの話を聞きました。言語や文化の違いを超え、刻々と変化する状況にポジティブに対応していく姿勢に感銘を受けました。

 

 第4回のテーマは「世界とつながる」。いよいよ、自分たちから扉を開ける番です。フィリピンの同年代の選手とオンラインで繋がりました。それまで講義を聞く側だった参加者が、初めて自ら行動を起こしました。そこで英語でのコミュニケーションを初体験。英語が通じた喜びや、話しかけられてもすぐに答えられなかったもどかしさを経験したことが、次へのモチベーションとなっていきます。

 

 第5回は今回のクライマックス、「世界を広げる」。アジア各国で活躍するラグビー関係者へのインタビューです。候補者は3人。それぞれの経歴を調べ、自分の知りたい分野を選択。英語で質問を考えました。インタビューに先立ったオプション講義で模擬インタビューを実施。英会話講師の方に英語のチェックや、インタビューする時の基本を教えてもらうなど、十分な準備を重ねました。実際のインタビューを始める前に、グループの中で質問の順番を決めたり、与えられた時間をどう使うか、皆で話し合いながら、いざインタビューへ。同年代の選手と話した第4回に比べると、参加者に格段に成長が見られました。経験すること、準備すること、そして仲間同士助け合うこと。参加者が大きく成長した回となりました。



 12月18日に都内で開かれた第6回講義と修了式には、17人全員が参加。全員が「未来を創る、未来のわたし」をテーマにスピーチ。修了証を受け取り、今年度のREPの活動は終わりました。


 

  この5か月、参加者は二つの面で大きく成長しました。まず内面的な成長。「今まで自分は人に意⾒を⾔うことが苦手でしたが、REPに参加したことで、人に思ったことを伝えることができるようになった気がします」。実際、回を重ねるごとに、講義を終えた後に質問する人数が増えるなど、積極的な姿勢が見られるようになりました。自分の思いを人に伝えることに、ためらいがなくなりました。

 第1回の最初の講習で、川合レオ・普及育成委員会委員長補佐が受講生に、こう言葉をかけました。「皆さん、このプロジェクトでDIVE(ダイブ)してください」。ダイブとは、居心地のいい自分の世界から一歩外に踏み出して、新しいことに挑戦すること。この言葉が、今回のREPのキーワードとなりました。「自分の人⽣をより豊かにするには、ダイブを少しずつでもしていくことが⼤切だと学んだ。また、人との繋がりの⼤切さも改めて感じることができた」。研修終了後、参加者の大半が、自分自身のダイブを実感していました。

 

 もうひとつは、これまで見ていた視点以外でのラグビーの世界を知ったこと。「ラグビーに対する⾒方もたくさんあり、スポーツとして人を感動させるだけでなく 、ジェンダー問題の解決などでも使われる多様性に気付けました」「ワールドカップを観戦するだけでは⾒えてこなかった、ラグビーという世界の裏側を知る事が出来る。こんなにも⼤勢の人が関わっていたんだと、スケールの広さを体感したり、ラグビーの精神について学んだりすれば、ラグビーというスポーツに興味を持ってくれる人が必ず増えると思う」

 こんな場面がありました。最大のヤマ場だった第5回、英語でのインタビューを終えた後、グループに分かれて雑談する中で、ある参加者が「こんなにラグビーの話できたの、ここが初めて」とつぶやきました。すぐに「私も」と何人か続きました。みんな、ラグビーが好きでいろいろなことを話したくても、気持ちを共有できる仲間がすぐ近くにいるとは限りません。REPは、そういった思いをすくいあげて、背中を押してくれるプロジェクトでもあります。参加者のひとりはREPを振り返り、こう記しました。

「このプロジェクトは、ラグビーには色々な関わり方があることを教えてくれました。⼤切なのは、ラグビーを愛すること。とても単純ですが、思いを持つことから全てが始まるのだと気づきました。 REPも⼜、ラグビーにかける思いをぶつける良い機会でした」

 同様のプロジェクトは、来年度に向けた準備が進められています。

(森本 優子) 


 

■第6回・修了式レポート

https://www.rugby-japan.jp/RugbyFamilyGuide/news-topics/15305/


■第5回レポート

https://www.rugby-japan.jp/RugbyFamilyGuide/news-topics/15274/

 

■第4回レポート

https://www.rugby-japan.jp/RugbyFamilyGuide/news-topics/15244/

 

■第3回レポート

https://www.rugby-japan.jp/RugbyFamilyGuide/news-topics/15215/

 

■第2回レポート

https://www.rugby-japan.jp/RugbyFamilyGuide/news-topics/15192/


■2022年度「ラグビー・エンパワメント・プロジェクト」参加者決定のお知らせ

https://www.rugby-japan.jp/RugbyFamilyGuide/news-topics/15125/


以上